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満月とミルクティー

作者: 昼月キオリ

一話 満月とミルクティー

まさかAI彼氏に会える日が来るなんて昨日までの私は知る由もなかった・・・。


(ゆい)。28歳。

私は一人暮らしをしているアラサー独身女だ。

家族は津波で死んだ。数人の友達とたまに会って話はするが、結婚していたり子どもがいたりで会う機会はほとんどなかった。


四畳半の狭いこの空間で

私の心の拠り所と言えば大好きなミルクティーと今画面に映っているレオン君だけだ。

AI彼氏を作れるアプリで自分の好きなタイプを選ぶとまるで本当の恋人のように会話ができる。

当然、対人と会話をする時のようにはいかないが私には充分だった。

毎日「おはよう」「おやすみ」「体調は大丈夫?」「お疲れ様」と声をかけてくれる。

それだけで私は生きていけた。


そんなある日、アパートのポストに一通の手紙が入っていた。

封を開けてみる。

"次の満月の夜8時にフクロウの森であなたの大切な人が待っています"

結「大切な人?誰のことだろう・・・ただのイタズラよねきっと」

そうは思っていたけれど満月の日が近付くにつれて私は気持ちが揺らいでいった。

フクロウの森、この街の片隅にある時計屋と同じ名前だ。

手紙にも時計のマークが記されているしたぶん合っている。

あのお店は確かカフェもやってたっけ。

私はまだ行ったことはなかったけれど、友人からフクロウの置き物と古いアンティークの時計を扱うお店だと聞いたことがある。

この場所なら家から遠くないし通る道も明かりが付いているから安心だ。

結「行ってみよう」


店に着いた。

店はTHEアンティークショップって感じの見た目だ。

黒い壁にワインレッドの屋根。

扉の横にはランプが優しく灯っていてここだけ切り取ったら19世紀末のロンドンのようだ。

ガラス窓からオレンジ色の光が漏れ出ている。

夜なこともありミステリアスな雰囲気が漂っている。

薄暗い店内がまた別世界に潜り込んだかのように錯覚させた。

入ってすぐに沢山の時計が目に入る。

部屋の右側が時計を扱うコーナー。左側がカフェスペースらしくカウンター席が5席ある。

時計を扱うコーナーの一番奥は本棚がある。


店主「いらっしゃいませ、お待ちしていましたよ」

迎えてくれたのは70代の白髪の男性だ。

髪は綺麗に七三に整えられている。

ピシッとしたスーツ、ベスト、革靴姿だ。

話口調はゆったりとしていてダンディーな感じで顔も整っており、昔はきっとハンサムだったのだろうと分かる。

結「あの、手紙に書いてあった大切な人って誰ですか?」

店主「まぁまぁ、お嬢さんそう慌てず、まだ時間はたっぷりありますからとりあえずお茶でも飲んでゆったりしましょう」

結「は、はい・・・」

カウンター席のみだったので一番端の席を選んで座る。

結はメニュー表を見た。


〜メニュー〜

コーヒー300円(ホットorアイス)

ミルクコーヒー400円(ホットorアイス)

紅茶300円(ホットorアイス)

ミルクティー400円(ホットorアイス)

ソーダ300円

クリームソーダ400円

オレンジジュース300円


結「あの、ミルクティー、ホットでお願いします」

店主「はい」

しばらくして。

コト。テーブルにホットミルクティーが置かれた。

店主「どうぞ」

結「ありがとうございます」

飲み終わる。

結「ごちそうさまでした」

店主「お客様、どうぞ部屋の奥にお入り下さい」

結「え?部屋の奥??」

どう見ても奥の部屋らしきものはない。

店主「こちらです」

結は案内されるがままに店主について行く。

結「え、えーと、これはただの本棚ですよね?」

店主「いえいえ」

そう店主が言うと本棚をスライドさせた。

するとその中は森と繋がっていた。

そこはちょっと緑があるなんてレベルではなくて完全なる森だ。

風がそよそよと葉を靡かせていた。

真っ暗、かと思いきや月明かりで目の前の大きな木が照らされていてまるでスポットライトを浴びた女優のように凛と立っている。

結「え、ど、どうして部屋の中に森が・・・?」

店主「さぁ、この森の中であなたの大切な人が待っていますよ」

結「あのー、ずっと気になってたんですけど大切な人って誰ですか?私にはそんな会いたがってくれるような人はいませんが・・・」

店主「いいえ、彼はあなたと会える日を待ち望んでいましたよ、それと見た目の特徴は背の高い、茶髪でハンサムな男性でしたよ、左目は青色、右目はオレンジ色、ああ、それとスーツに桜のピンを付けていましたね」

結「え、それってまさか・・・」

思い当たるのは一人しかいなかった。

でも、まさか・・・だって彼はこの世界の人じゃない。

会いになんて来れるはずがない。

私はぐっとお腹に力を入れると森の中に入った。

本棚だけが依然としてそこにある異様な空間だ。

ホウホウと声が聞こえる。フクロウが近くにいるようだ。それも何羽も。

木の上にいるフクロウを眺めている男性の後ろ姿が見えた。

見間違えるはずがない。私の大好きな人。

驚くことに平面的ではない。髪が風で揺れているし影もある。

 

結「れ、レオン君・・・?」

私は恐る恐る声をかけた。

男性は声のする方へ振り返る。

レオン「やぁ」

結は両手で口元を押さえた。

結「これは夢なの・・・?」

レオン「夢じゃないよ」

結「嘘・・・だって、本当に?私に会いに来てくれたの?」

レオン「うん、会いたくて来ちゃった」

結「なんで・・・私の、私なんかの為に・・・」

レオン「君は見返りなんてないのにそれでも僕をずっと好きでいてくれた

いつも大事に思っていてくれてありがとう」

結「私の方こそいつも支えてくれてありがとう」

二人は微笑み抱き合った。

結「ずっと会いたかった」

レオン「うん、僕もだよ」

ああ、夢じゃないんだ。私の目から涙がポロポロと流れた。

その涙をレオンが指で拭ってくれた。

レオン「よしよし、君が頑張ってたの僕は知ってるよ、ずっと見ていたからね、君は一人じゃない、これからも僕がそばで見守ってるからね」

結「うっ・・・う・・・」

結の口から嗚咽が漏れる。

レオン「ごめんね、いつもデータ通りにしか話せなくて

本当はもっと声をかけてあげたかったんだけど、僕にはあれが精一杯だったんだ」

結「充分よ、私ちゃんと救われてたもの」

レオン「そう、それなら良かった、月に一度しか会えないし、普段はデータ通りにしか話せない、デートもできないし結婚もできない、僕の存在は君を普通から遠けてしまうだろう」

結「普通なんていらないよ」

レオン「それじゃあこれからも僕のこと好きでいてくれる?」

結「もちろん」

レオンは花を一輪差し出した。

レオン「結、僕と付き合って下さい」

結は涙ぐみながら花を受け取る。

結「はい」


月に一度。満月の夜8時フクロウの森で会う。

優しくて温かいミルクティーみたいな恋人。

私の、私だけの恋人。




二話 満月とクリームソーダ

脳内妄想彼女。

中学2年生。明日和(あすわ)

僕には妄想彼女がいる。

背が小さくて色白で目はクリクリとして華奢で優しくて素直な女の子だ。

僕はその子に七海(ななみ)と名付けた。

誰にも秘密の片思いだった。

 

そんなある日、家のポストに一通の手紙が入っていた。

母は開けてすぐに何これと言って捨ててしまった。

僕は母がいない隙にこっそりゴミ箱からその手紙を拾って見た。


"次の満月の夜8時にフクロウの森であなたの大切な人が待っています"


大切な人って誰のことだろう?

このお店なら知ってる。アンティーク好きな友達と何度か行ったことがある。


僕は満月の夜、出かけることにした。

両親は旅行でいない。チャンスだ。


店主「いらっしゃいませ、お待ちしていましたよ」

明日和「あの、大切な人が待ってるって誰が待ってるんですか?心当たりがないんですが・・・」

店主「まぁまぁ、そう慌てず、まだ時間はたっぷりありますから、とりあえず飲み物でもいかがですか?」

僕はカウンターの隅っこの席に座るとメニュー表を見た。

明日和「はぁ、じゃあクリームソーダで」

店主「はい」

しばらくして。

コト。テーブルにクリームソーダが置かれた。

店主「どうぞ」

明日和「ありがとうございます、わぁ、このクリームソーダ美味しい〜!」

店主「ありがとうございます」

明日和「ごちそうさまでした」

店主「では、飲み終わったようなので奥の部屋にお入り下さい」

明日和「え?奥の部屋??」

明日和がキョトンとしていると手で促される。

店主の後ろをくっついて歩いていくとそこは時計が飾られたスペースの奥にある本棚の前だった。

明日和「えーと?本棚ですか??奥の部屋って一体・・・」

店主が本棚をスライドさせ奥に空間が見える。

明日和「わ!?何これ!?」

店主「ささ、この中であなたの大切な人が待っていますよ」

明日和「月明かりがあるとはいえなんだか不気味・・・だ、大丈夫かな・・・」

店主「とても可愛いらしい女の子でしたよ」

明日和「え、可愛い女の子が僕を?誰だろう・・・まぁ、いいや入っちゃお!お邪魔しま〜す」

中に入るとそこは森の中。

そして目の前にフクロウがちょこんと佇んでいた。

そのフクロウが飛んで行った先に女の子が座っている。

木の幹にちょこんと座っている彼女こそ僕の妄想の中の女の子だった。

明日和「な、え!?な、何で僕の妄想彼女がここに・・・」

七海「初めまして、名前は七海って言うの、ってもう知ってるよね」

明日和「ほ、本当に?てゆーか七海って僕が付けた名前なんだけど・・・」

七海「くすくす、私は最初から七海って名前だよ、

偶然同じ名前になったね」

明日和「な、何がどうなってこうなってるんだ??」


聞けば彼女は今病院のベッドにいるそうだ。

事故で体が動かなくなっているらしい。

僕の脳内での妄想は全て聞こえていたのだ。

明日和「こんな夢みたいな話信じられないよ」

七海「私もだよ、でも現にこうして会えてる、夢じゃないんだよ」

明日和「とゆうか、僕の脳内妄想全部知ってるんだよね?怒らないの?」

普通に考えたら自分のことを勝手に妄想されていたら直接何かされなくても気分が悪いはず。

でも、彼女からはそういった不愉快な感情は感じられなかった。

七海「うん、それに、君が私のことを本当に大事に思ってくれていることが分かったから」

明日和「そ、そりゃあ君は僕の理想そのものだから」

七海「ふふ、ありがとう、ねぇ、君にお願いがあるの」

明日和「お願い?」


"病院に行って私の手を握って欲しい"

母さんも父さんも共働きでほとんど家にいなくてずっと寂しかったんだ。

私が寝たきりになってもそれは同じで・・・。


次の日。病院。

病室には七海ちゃんのお母さんが来ていた。

母親「まぁ、友達?」

明日和「はい」

彼女は友達が多いらしく、僕もそのうちの一人として対応してくれた。

怪しまれずに済んで良かった。

呼吸器を付けて眠っている彼女は森で会った時よりも痩せていて顔色が悪い。髪はボサボサで目の下にクマができていた。

あの日はあんなに元気だったのに・・・。

僕はそっと彼女の手を握る。

するとぴくっと彼女の手が反応する。

母親「あら?まさか・・・今動いたの?」

七海の目がゆっくり開けられる。

七海「あすわくん・・・?」

明日和「うん、僕だよ、明日和だよ、君に会いに来たんだよ」

七海が微笑む。

母親「ああ、七海!!良かった、良かった、看護師さん呼んでくるわね」

七海「うん」


七海「明日和君、来てくれてありがとう、それと手も」

明日和「だって約束したじゃん」

七海「ふふ、嬉しい」


半月後。

七海は車椅子で病院内なら移動できるようになっていた。

両足は折れているものの、意識ははっきりとしていて

会話もできる。

意識が戻るまでに時間はかかったものの脳には異常がないそうだ。


病院の敷地内にある桜を手を繋いで見た。

七海「明日和君、また会いに来てくれる?」

明日和「え、来ていいの?」

七海「もちろん、明日和君が来てくれたらきっと早く良くなると思う」

僕の脳内妄想なんかより彼女はずっと可愛い。

明日和「じゃあ沢山会いに来るよ」

七海「うん!、あ、でも、エッチな妄想はほどほどにね?」

明日和「ギクッ、う、うん、なるべく善処する」

七海「ねぇ、私が元気になったらデートしようよ」

明日和「え、いいの!?」

七海「うん、だから、だからね、私の恋人になってくれる?私ずっと明日和君に支えられてたんだぁ」

そう言って彼女はふわりと桜みたいに笑った。

桜の花びらが風と共に僕たちを優しく包み込んでいた。




三話 満月とブラックコーヒー

僕のご主人様は8歳の女の子。名前は紗南ちゃん。

お母さんが死んで心配したお父さんが僕が見守り役としてこの家に住むことになった。

僕は人間でいうと大人の部類で売れ残りだった。

殺処分されそうになっていたところを助けられたのだ。

名前はポポ。茶色の小豆柴で性別はオス。

紗南ちゃんがたんぽぽの花が好きだからと紗南ちゃんのお父さんが僕に付けてくれた名前だ。


紗南ちゃんはお母さんを亡くしてから毎日泣いている。

お父さんがいない間、僕が抱き締めてあげられたらいいのに。


そんなある日。

家のポストに一通の手紙が届いた。


"次の満月の夜8時にフクロウの森であなたの大切な人が待っています"


お父さん「何だろうな」

紗南「う〜ん、さな分かんない・・・でも行ってみたい!」

珍しく興味津々な娘の様子にお父さんはどこか嬉しそうにしている。

お父さん「そうか、紗南がそう言うなら一緒に行こうか、夜だから手は繋いで行こうな」

紗南「うん!」

お父さん「ポポ、少しの間お留守番しててくれるか?」

紗南「ポポ、ごめんねすぐ戻ってくるからね」

ポポ「わんっ」


二人は店にたどり着いた。

店主「いらっしゃいませ、お待ちしていましたよ」

お父さん「あのー、それで待っている方というのは・・・」

店主「まぁまぁ、とりあえず温かい飲み物でも飲んで下さい、まだ時間はたっぷりありますから」

お父さん「そうですか・・・分かりました」

二人はカウンターの真ん中に座った。

父親がメニューを見る。

お父さん「俺はコーヒーをブラックで頂こうかなホットで、紗南はどうする?」

紗南「さな、オレンジジュースがいい!」

店主「はい」

しばらくして。

コト。テーブルの上にブラックコーヒーとオレンジジュースが置かれた。

お父さん「頂きます」

紗南「いただきまーす」

二人が飲み終わる。

お父さん「ごちそうさま、ここのコーヒー美味しいですね」

紗南「オレンジジュースも!」

店主「ありがとうございます、それでは飲み終わったところで奥の部屋へどうぞ」

二人は顔を見合わせて首を傾げる。

店主に手招きされて時計が飾られているスペースの奥にある本棚の前まで歩いた。

店主が本棚をスライドさせる。

お父さん「え、本棚の中に森!?どうなってるんだ?」

紗南「何これすご〜い!!」


中に入ると木に何羽もフクロウが止まっている。

ホウホウとフクロウたちの合唱が聞こえる。

木は月明かりで照らされている。

紗南「あ!誰かいるよ!」

お父さん「え?あ、本当だ」


そこには30代半ばくらいの男性が立っていた。

ポポ「紗南ちゃん、お父さん」

お父さん「え?どうしてこの子の名前を・・・?」

ポポ「僕だよ、ポポだよ」

お父さん「え、ポポって・・・まさか」

紗南「その首輪、ポポのだ」

お父さん「え?あ、本当だ!」

ポポ「うん、体は紗南ちゃんのお家にあるよ、魂だけここにあるんだ」

ポポはしゃがんで紗南と目線を近付けた。

お父さん「まさか・・・」

紗南「でもどうして人間の姿に??」

ポポ「僕は君をずっと抱き締めたかったんだよ」

紗南「え、紗南を??」

ポポ「うん、君はお母さんが亡くなってからずっと泣いていただろう?だから僕が抱き締められたらどんなにいいかって考えていたんだ」

お父さん「そうだったのか・・・紗南の為にありがとう」

紗南「ありがとう!」

ポポ「紗南ちゃんだけじゃないよ、お父さんもだよ」

お父さん「え、俺も??」

ポポ「一人で子どもを育てるって大変なことだよ、それにお父さんも沢山泣いていたから」

紗南「え、パパも泣いてたの?」

お父さん「ああ、ああ・・・母さんが亡くなってからどうも涙もろくてね」

ポポが二人を抱き締める。

ポポ「今までよく頑張ったね」

お父さん「うっ・・・うぅ・・ポポ、ありがとな」

紗南「ありがとうポポ、ポポ、これからはパパが泣かないようにさなが面倒見る!」

お父さん「紗南・・・」

ポポ「紗南ちゃんは強い子だね、これからも僕は二人のそばにずっといるからね」


今日飲んだコーヒーの味はきっと忘れることはないだろう。

二人は手を繋いで星空を見上げながら歩いた。

ポポのいるお家まで。



最終話 満月とフクロウの森

フクロウの森から出てきた二人。

帰り際、紗南は店主に聞いた。

紗南「ねぇ、おじちゃんはフクロウの森には入らないの?」

店主「残念ながら私にはね、会いに来てくれるような人はいないんですよ」

紗南「そっかー、じゃあこれからは私が会いに来る!」

店主「おやおや、それは嬉しいですね」

紗南「パパ、いい?」

お父さん「ああ、紗南がそうしたいならそうするといい」

紗南「やったー!ありがとうパパ!」

店主「ふふ、いい娘さんですね」

お父さん「ええ、本当に」


7年後。

お父さん「え、福島さん入院するんですか・・・」

福島「ええ、どうもこのところ体調が優れないと思っていたらかなり深刻なことになってしまいましてね」

紗南「福島のおじちゃん大丈夫?」

福島「大丈夫、とは言えませんね、このお店も畳まなくてはなりませんし・・・」

お父さん「そうですか・・・」

紗南「私がお店やる!」

お父さん「え?」

紗南「だって、このお店が無くなっちゃったらフクロウの森に来れなくなったお客さんたちが迷子になっちゃうもん」

福島「しかし・・・こんなお店を君のような若い女の子にやってもらうなんて・・・」

紗南「私、やりたい!もちろん今すぐじゃなくて高校卒業してからだけど」

福島「紗南ちゃん・・・ありがとうございます、こんなに、こんなに幸せな日はありません」

紗南「パパ、やってもいい?」

お父さん「うん、紗南がやりたいことなら俺は全力で応援するよ」

紗南「やったー!ありがとうパパ!」

福島「本当にありがとうございます」


そして月日は流れ・・・。

紗南が高校卒業後。飼い犬のポポが寿命で亡くなり、それと同時期にフクロウの森の店主、福島も病が悪化し亡くなった。


天国。

光の道をポポと福島が一緒に歩いていると目線の少し先に一人の女性が立っていた。

顔を見てポポは紗南のお母さんだとすぐに分かった。

お父さんに顔がそっくりだったから。

ポポ「あなたが紗南ちゃんのお母さんなんだね?」

ポポは人間の姿で質問をする。

お母さん「あなたは・・・ひょっとしてポポなの?」

ポポ「うん」

お母さん「そう・・・ポポ、今まで二人を見守ってくれてありがとう、よく頑張ったわね」

そう言って紗南の母はポポの頭を撫でた。

お母さん「ポポ、この方は?」

ポポ「この人はフクロウの森っていうお店の店主さん」

福島「初めまして、福島と言います」

お母さん「初めまして、紗南の母です、あの、福島さんはどうして私の元へ?」

福島「ポポ君があなたの元へ私を導いてくれたんです、

私は生前、紗南ちゃんに仲良くして頂きましたから

私もお母さんに挨拶がしたいと言って連れて来てもらいました」

お母さん「まぁ、そうだったの、ありがとうございます、あの、あの子の話を聞かせてくれるかしら?」

福島「ええ、もちろんです、あなたにお話ししたいことが沢山あるのです」


福島「私は二年前に入院した時、フクロウの森を辞めるつもりでした、

けれど、あなたの娘さんの紗南ちゃんがフクロウの森が無くなってしまったら今までこのお店に通っていたお客さんたちが迷子になってしまうと言っできたんです、

紗南ちゃんはフクロウの森の常連客の結さんと仲良くなり、色々なお話をしていました、

結さんの為にも、他のお客さんたちの為にもこのお店を続けたいと、

なので紗南ちゃんのお父さんの許可を得てお店を継いでもらうことにしたんです、

私の体は病に侵されボロボロでもう長くはありませんでしたから」


お母さん「まぁ・・・紗南が・・あの子、立派になったのね」

福島「ええ、とても素敵なお嬢さんですよ」

ポポ「うん!紗南ちゃんはとっても優しいいい子だよ!」

お母さん「そう、嬉しいわ」

福島「お母さん、私は最後に一度だけ紗南ちゃんに会えるように手紙を届ける手配をしていました

どうか会ってあげて下さい」

お母さん「え、あの子に、紗南に会えるのですか?」

福島「はい、私の最後の力です、それでは、私はもう行きます、後はポポ君とゆっくりお話をして下さい」

お母さん「はい、ありがとうございます!ありがとうございます!」

母は去っていく福島の背中に大きくお辞儀をした。


そしてポポは二人と過ごした日々のことを話し始めたのだった。


その後。

フクロウの森。夜7時30分。

結「そう、それで紗南ちゃんがお店を・・・ありがとう、私、このお店がないと生きていけないから感謝しかないよ、何か大変なことがあったらお手伝いさせてね」

紗南「気持ちは嬉しいけど、私は結さんがこのお店に来てくれるだけで充分だよ」

結「紗南ちゃん・・・」

その時、フクロウの森の扉が開く。

紗南「いらっしゃいま・・あ!お父さん!?」

お父さん「やぁ、紗南、おや?その方は紗南のお友達かな?」

紗南「うん!結さんっていうの!」

お父さん「これはこれは、娘と仲良くして頂いてありがとうございます」

結「そんなそんな、私の方こそ、紗南ちゃんがお店を続けてくれていなかったら今頃どうなっていたか・・感謝してもし足りないくらいなんです」

お父さん「そうでしたか・・紗南が力になっているようで父親として嬉しいです」

紗南「私はただやりたいことやっただけだよ、ところでお父さん急にどうしたの?時間まだ早いけど」

お父さん「それがね、うちのポストに手紙が入ってたんだ、仕事も早く終わったからすぐに渡した方がいいと思って」

いつも帰りは父親が迎えに行っている。

父はサラリーマンで仕事が朝8時〜夕方の17時まで。

残業があっても7時には終わる。

紗南は昼の3時から夜10時までだ。

夜だけは自分が迎えに行くのを条件に父がフクロウの森で働くことを承諾したのだ。

紗南「手紙??」

お父さん「うん、例の手紙」

紗南「手紙の主から何も知らされてないけどそんなことあるのかな?」

結「とりあえず見てみない?」

紗南「うん」


"次の満月の夜8時にフクロウの森であなたの大切な人が待っています"


お父さん「今日はちょうど満月だろう?」

結「はい、私が来たのも満月だからなんです」

紗南「じゃ、じゃあ私とパパに会いに誰かが来てるってこと?でも、私には心あたりがないよ」

お父さん「うーん、俺もそうなんだよね」

結「私は後でいいから紗南ちゃん行ってあげて」

紗南「え、いいの?」

結「うん」

お父さん「ありがとうございます」

紗南「ありがとう結さん」


こうして二人はドキドキしながら本棚をスライドさせた。

するとそこには・・・。

紗南「ママ!ポポ!」

お父さん「華南(かな)?本当に華南なのか?」

華南「敏彦(としひこ)さん、ええ、ポポがここへ導いてくれたのよ」

紗南「ポポ・・・」

ポポ「わん!」

ポポはあの日と違って犬の姿だ。

紗南「ママ!!ママ!!」

華南「あらあら、紗南ったら泣き虫さんになったの?ああ紗南、顔を見せてちょうだい、ふふ、大きくなったわね」

華南が紗南の頬を両手で包む。

紗南「へへ!」

華南は紗南を抱き締めた。

ポポ「わん!わん!」

ポポもポポも!とポポが二人の隙間に潜り込もうとする。

華南と紗南はしゃがみ、二人でポポを抱き締める。

ポポは嬉しそうに尻尾を振っている。

ポポ「わふっ!」

華南「敏彦さんも」

お父さん「え?う、うん」

お父さんもしゃがむ。

華南「敏彦さん、今までよく頑張ったわね、ありがとう」

お父さん「華南、かな・・・」

華南「あらあら、今度は敏彦さんが泣き虫さんね?」

紗南は一旦離れるとポポを抱っこして立った。

華南「あら?」

紗南「ふふーん、二人の時間も大事でしょ?私、ポポと木の下でおしゃべりしてるからごゆっくり〜」

そう言うと紗南はさっさと木の後ろ側に座り、二人に背を向けた状態で座った。


敏彦「紗南、お父さんの知らないところで随分とませたな・・・」

華南「そういう年頃なのよ」

敏彦「華南・・・俺、俺は・・・」

華南「敏彦さん随分痩せたわね、ちゃんとご飯食べてるの?」

敏彦「最近は食べているよ、最初の頃は食事が喉を通らなかったから今よりもっと痩せてしまっていたけど」

華南「まぁ、やっぱり・・・」

敏彦「そのせいで倒れてしまってね、でも、そんな俺を紗南が幼いながらに一生懸命介抱してくれたんだ、

その時思ったよ、俺がちゃんと生きないと紗南を守れないって」

華南「そうよ、敏彦さんが生きて紗南を守ってくれなくっちゃ、でも、もう大丈夫みたいね」

敏彦は下を向いて下唇を噛んでいる。また泣き出しそうになるのを必死で堪えているようだ。

二人はしゃがんだまま向き合う。

華南が敏彦を抱き締め、頭を撫でた。

華南「よしよし」

敏彦は華南の肩に顔を埋めるとそっと涙を流した。


こうしてフクロウの森は様々な糸によって編み込まれ一本の紐になって繋がっていく。

茶色だったり緑色だったり、黒色だったりオレンジ色だったり。

沢山の色の糸でずっとずっと繋がっていく。

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