EP7 情報屋の元へ
僕と女ザコたちは、街を歩いていた。行く宛などはない。隠れ家すら持っていないのだから仕方ない。
「なあ、ラーキ」
ただ練り歩いているだけの僕らに違和感を覚えたか、アーキーが話しかけてきた。
「これからどうするんだ?」
「どうする? そんなの、ノープランだよ」
「は?」
「隠れられる場所もなければ、一時的に髪染めできるスプレーを買うカネすらない。ここは僕らを追ってくるブラッドハウンズがいないから、ただ歩いているだけさ」
「おま、無責任だな……」
「仕方ないでしょ。ニーナとリミを見てごらんよ。疲れすぎて喋りすらしない」
相当歩いている。車でも奪ったほうが良いのだろうか。しかし、奪った車が別の裏組織のものだったら、面倒事が重なるだけでもある。
「けど、このままホームレスみたく歩くのにも限界あるぞ?」
「分かっているさ。そうだな……。ヤサを提供してくれるバイヤーに会ってみる?」
「ヤサ?」
「隠れ家って意味。私が知っている限り、このボロ家にヤツは住んでいるはずさ」
「カネはどうするの?」
「ひとまず後払いにする。ただ、私の予想だと3日以内にカネを納めなければ、ブラッドハウンズに密告されるだろうね」
本来の主人公はこの近くで〝ヤサ〟を用意してくれる存在と出会うわけだが、果たして髪色すら統一されている、女ザコの僕らに彼が家を提供してくれるものか。
「それともなければ、面倒事を解決させられるかね」
僕は淡々とした態度でそう答えた。
なお、ニーナとリミは疲労困憊といった感じで、先ほどから一言も発していない。着いてくるのがやっと、という感じだ。色々疲れたのだろう。ただ、こんなのを率いるなんて、それ自体が緩慢な自殺とも思ってしまう。
「さて、入ろう」
古びた家。ウィング・シティというサイバーパンクな街にも、こういうのは少なからず残っている。とはいえ、それそのものはあまり関係ない。
僕はインターホンを鳴らし、
「レイ・ウォーカー。ちょっと相談がある」
と告げる。
『ブラッドハウンズの第10隊をぶっ潰した、とんでもガールがなんの用だ?』
「ここで話すのも変だ。中、入れてくれ」
『ああ』
ロックが解錠された。
「みんな、行こう」
全員が頷いた頃、僕らは散らかったレイ・ウォーカーの部屋へ入っていく。
細身の男が、モニターとにらめっこしていた。パーカーを被り、なにやらフェイスマスクを着けている。
「ウォーカー、単刀直入に言う。提案だ。アンタの厄介事をひとつ解決するので、隠れ家を用意してくれ」
「単刀直入過ぎるだろう。まぁ良い。おれは客を選ばん。大統領から乞食まで相手してやる」レイ・ウォーカーはモニターより僕らへ向き合う。「つい数時間前、ブラッドハウンズの切り札的存在だったギアが奪われた。もちろんおれはそれがどこにあるか知らんが……ともかく、汚れ仕事をする代わりにヤサを提供してほしいんだな。良い提案だ」
レイ・ウォーカー。彼は情報のプロフェッショナルだ。ウィング・シティ中の情報は、彼がすべて握っている。そんなレイは続けた。
「フロンティア、という組織を知ってるか?」
「もちろん。ブラッドハウンズと反目のギャングどもでしょ?」
「そのギャングスタの幹部の首を獲ってきたら、ヤサを提供してやる」
先ほどまでクタクタだったニーナが、突然会話に乱入してくる。
「フロンティア!? あのギャングども!?」
「どうした、いきなり声荒げて」レイは眉を潜める。
「だって、アイツらブラッドハウンズと対抗できるくらい強いんだよ? 銃器も能力者もたくさんいるし、なにより、ブラッドハウンズがここを仕切るフロンティアに手出ししないのがすべてでしょ!?」
「落ち着いて、ニーナ。まだ話を呑むと決めたわけじゃあない」
「え、じゃあ別の仕事を──」
「ウォーカー、引き受けた。その代わり、このふたりは作戦に参加しない。先に隠れ家への地図を渡してくれ」
「なるほど。ただ、幹部を獲れなかったらこのふたり諸共始末するが」
「それで構わないよね? ふたりとも」