EP6 主人公と3人の女ザコ
3人の女ザコの顔がこわばる。間違いないと思ったのだろう。これが、ブラッドハウンズの車だということに。
対照的に、僕は冷めた目つきでその車を眺めていた。ここで無様に撃たれて助骨でも折れば、きっと考えを改めてくれると。
「ラーキ、ラーキ!! ブラッドハウンズの追手だよ!?」
「さっき銃弾捨てちまったし、どうすりゃ良いんだよ……」
「あぁ……神様、助けて」
顔を歪める彼女たちを見て、僕は舌打ちした。
「おお、裏切り者は処刑だ。命令を無視した挙げ句、こんなところまで逃げやがって。ここ、ブラッドハウンズのシマじゃねェんだぞ──!?」
僕は、近くに落ちていた小石を投げた。それはみるみる加速していき、やがてミサイルのように車を一台破壊した。
「分かっていないなぁ……」
今度はブラッドハウンズの追手どもが表情を歪めた。
「コイツらの顔を歪めて良いのは、僕だけなんだよ……!!」
女ザコが主人公へ無様にやられる姿に興奮する。それが僕だ。だが、僕は主人公に転生? できなかった。
なら、主人公に成り上がれば良い。本来の主人公? 所詮敵のモブ? なぎ倒されるだけの存在? そんなもの、受け入れるつもりは毛頭ない。
「クソッ!! あのガキがなにかの〝ギア〟を持ってる!! アイツから潰せ!!」
「へッ、やれるものならやってみろ」
当然、僕の元に大量の弾丸が飛んでくる。嵐みたいに。
しかし、彼らは僕の能力を知らない。知らないのは、致命的な落ち度になってしまうのだ。
「──!?」
僕は、弾丸をすべて反射した。弾がまっすぐ彼らの身体に直撃し、同時に車へもぶつかる。耐えきれなくなった車が火の粉を上げて爆発する頃、決着は着いていた。
「クイズの時間です。この女ザコは一体どんな能力を得たでしょうか?」
もう生き残っている者も限られる。僕は地面を蹴って、彼らの元への距離を一瞬で詰めた
「てめェ、まさか……!!」
「そのまさかです。アンタらの力による平和を具現化する、奇跡の能力。この〝ギア〟は自由なエネルギーを挿入する。要するに、すべて反射にも設定できるイカした力、ですよね?」
「クソッ、どこから情報が……!!」拳銃を向けられる。
「自殺志願ですか? ああ、気がおかしくなっただけか……!!」
僕のこめかみ辺りに照準が合わせられるが、もはや結果は決まっている。乾いた破裂音と硝煙の匂い、すなわち勝利の香りだった。
車の残骸が燃え盛る頃、僕はデバイスを切る。こうなるとただの女ザコだが、もう敵性はいないので問題はない。
そして、
僕は、呆然と立ち尽くすみんなの元へ歩み寄っていく。
「やぁ」
「ラーキ、貴方一体なにが起きたの──」
「ちょっと自我が芽生えただけさ、ニーナ。大丈夫、情けで君らを始末していこうと思ったけど、ソイツはスマートじゃないからやめた。同じ班に配属されたのもなにかの縁だと思うしね」
「し、始末?」
「そう、アーキー」
「私ら、一蓮托生じゃないの……?」
「リミ。言っちゃあ悪いけど、私と君らじゃ天と地ほどの差がある。そこを埋めてくれないと、托生にはなれないよ」
それぞれに返事し返して、僕は港の入口兼出口を指差す。
「さぁーて、まず没個性な見た目を変えるところからだ。君ら違和感を抱いたことないの? みんな似たような金髪。髪型が違うだけで、あたかも乱造されているNPCみたい。それに、これからこの街で生きていくのなら、髪色くらい変えたほうがやりやすい」
深夜のウィング・シティ。こうして、3人の女ザコとひとりの主人公が生まれたのだった。
とりあえずチャプター1おしまいです。
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