EP5 生殺与奪、どちらを与える?
もっとも、常識的に考えれば始末一択だ。いつ彼女たちが日和ってブラッドハウンズに密告するか分からないし、正直戦力として数えるのもおこがましい。〝ギア〟も持っていない、ボコボコにされて良い悲鳴を上げるだけの存在ども。加えて、今の僕は超強力な〝ギア〟を装着していて、その気になれば一瞬で全員消せる。彼女らは所詮悪党だ。死んで悲しむヤツなんていない。
「……、」
僕は、空を飛び回った所為で目がクラクラしている彼女たちを見据える。
タレ目で金髪のセミロングヘア、ニーナ。
ツリ目でこれまた金髪のボブヘア、リミ。
三白眼でまたもや金髪のショートヘア、アーキー。
容量を圧迫しないために、髪色すら統一されている女ザコ。こんなのを生かして、なにになる? このゲーム世界の特徴的に、伸び代なんてないに等しいのに。
「はあ」
無為に溜め息をつき、僕は考える。
正直、人殺しは気が引けるな、と。
殺されてこの世界に転生? したからこそ、余計にそう感じてしまう。
「はー、はー! なんとか生き残れた……」
「アーキーちゃん、同感だよ……」
「ねぇ、これからどうすれば良いんだろうね」
「そりゃあ、ニーナ。アイツが導いてくれるだろうさ」
……なんというか、とても気が引ける。この世界で生きるのなら、同情や慈悲なんて二の次。これからどう進むにしても、誰かを殺めることは避けられない。
だが、彼女たちは僕を信じ始めている。なんと愚かなのだろう。今、僕は君らを生かすか殺すか考えているのに。
「なっ、そうだろ? ラーキ」
ラーキこと僕はアーキーの言葉に返事せず、黙って海の方向を向いた。
そして、
ハンドガンを、海へ投げ捨てた。
「おい、なんで銃を捨てるんだ?」
「……、この街〝ウィング・シティ〟の発砲事件数、知っている?」
「え、知らないけど」
「1日あたり5000件以上。財政破綻を起こした都市だから、警察もいないに等しい。合衆国、いや世界最悪の街、ウィング・シティ。君ら、まさかこの街でお婆さんになるまで生きられるとか思っていないよね?」
「な、なにさ。いきなり」
「こちらが質問しているんだ、ニーナ。君らはなんでこの街を出ない? まさか旨味があると思っているの? 〝ギア〟や〝身体改造〟でアメリカン・ドリームを得られるとでも?」
「い、いつかチャンスが巡ってくるかもしれないでしょ? だって、ラーキもそう言ってたじゃん」
「チャンス、ねえ……」僕は目を細める。「そんな考え、現実的とは思えないな。君らも私も、精神的な抗力は最低ランクのD。正直、たとえ〝ギア〟や〝身体改造〟を使ったところで、サイコ・キラーになるのがオチ。それでも夢があると?」
禁断の質問かもしれない。ここがゲームの世界だとしたら、彼女たちは所詮NPCだ。NPCに選択権なんてものはない。ただプログラムされたように惨殺されるほか、ない。
気弱そうなリミが口を挟んでくる。「でも、私たちここで生きていく以外の方法を知らないよ? そりゃ、合衆国の中でも海外でも平和な国はあるかもだけど、そこで今以上にうまく生きられるとは思えない」
僕は半ば諦め気味に言う。「ああ、そう。まともな仕事して、真っ当に食っていくのがそんなに難しいと。さすが裏社会の人間だね。表にいられないから、こっちに逃げてきているんだ」
ここで海外か別の街に行くというのなら、せめてそれをサポートするつもりだったが、どうも彼女たちにはその気がないようだ。
それがこの世界の条理なのか、それとも彼女たちにも人格というものがあり、それに則ってそう考えているのか。どちらでも良いが、どちらにしても虐殺される未来しかない。なら、ここで終わらせてやるのが優しさなのだろう、と骨伝導イヤホンみたいなデバイスの電源をつけたとき、
港に4台の車が停まった。