EP52 こんなふざけた世界にも
「ねぇ、ラーキ」
「うん?」
「このままさ、平和な国で暮らしたいよね」
「……そうだね」
ふと思う。
ニーナと僕が入り込む前のラーキは恋仲であったと。その経緯は知らないが、ひとつ確かなのは、ニーナも僕も平穏な暮らしに焦がれていることだ。されど現実は残酷だ。平和に過ごしたいだけなのに、それからもっとも程遠い仕事をする羽目になっている。
「こんなふざけた世界でも、まだ愛があるから良いんだけどね」
ニーナは、ボソッと呟く。
「ねぇ、ラーキ」
「……うん」
「貴方の中身が入れ替わってることくらい分かってる。昔と話し方は変わらないけど、素振りや頭の良さで分かっちゃうんだ」
「あぁ、そうだね。ニーナの知っているラーキはもういない」
「でも、それでも、私はラーキを愛してる。中身が入れ替わっても、私を守るために動いてくれてるのには変わらないもん」
機内の静かな空間に、ニーナの言葉が染み渡る。
「ありがとう、ニーナ」僕は小さく微笑む。「ニーナがそう言ってくれるなら、少し救われるよ」
*
合衆国の首都に、僕らは降り立った。典型的な計画都市は、日本ではなかなか見ることのできない風景を醸し出している。
「ウィング・シティと違って、空がきれいだね」
ニーナは楽しそうに辺りを見渡す。「ね! 良い街だよ!」
ウィング・シティと違って、空が澄んでいる。あの太陽の日差しも浴びられない摩天楼もないし、近くで発砲音が聴こえることもない。あの街に比べれば、天国のように平和だ。
「さて、国防総省に行こうか」
「うん!」
本来、国防総省は別の州にあるはずだが、この世界では首都にある。五角形であることには変わりないが。
「タクシー拾おう」
僕は手を上げ、タクシーを捕まえる。日本と違って自動ドアではないようだが、別にそんなことはどうでも良い。
「国防総省まで、お願いします」
「はい」
すでに連邦政府との連絡は済んでいる。市民カードを持っていくだけで良いらしい。
「お客さん、観光ですかい?」
運転手が話しかけてきた。僕は適当に観光だと言おうとするが、
「いや、隣の子がグレード・セブンに勧誘されたんですよ~!」
ニーナが自慢げに、機密情報じゃないか? と言いたくなるようなことを口走ってしまう。
「へえ。グレード・セブンといったら、合衆国の切り札ですからね。しかし迎えの車も寄越さないとは、政府も傲慢ですな」
「ですよね~。これから任命されるだろうに」
ニーナは不満げにそう言った。
「お客さんはどちらから来たんですか?」
僕が答えた。「ウィング・シティです」
「失礼ですけど、だいぶ治安の悪いところから来たようで」
「だいぶ、なんてものじゃないですよ。あそこは世界最悪の街ですから」
「怖いニュースもたくさん流れてきますしね。この前なんか、軍基地が襲われたとかなんとか」
それは僕らがやったことである。
しかし、ここで白状するわけがない。
「そうですね~。流しのタクシーなんて乗ろうものなら、金品奪われて射殺されちゃいますよ」
「恐ろしい街ですな」
「それに比べれば、この街は天国のごとく平和ですよ。発砲事件もあまり多くないんでしょう?」
「そうですな」
ニーナは街並みを眺めるのに勤しんでいて、会話には参戦してこなかった。
そして、
僕らは国防総省の五角形庁舎へたどり着く。
「25ドルです」
「はい」
偽札が横行する国なので、そもそもカード払い以外受け付けないようだった。ニーナがカードで支払い、僕らは外に出る。
「いやー、圧倒されるね」
「ね。楽しくなってきた!」
僕らは総合参謀本部のほうへと進む。入口の警備は荘厳で、セキュリティも厳重そうだったが、市民カードを提示してそれに埋め込まれているIDが認証されると、あっさり中へ入れた。




