EP51 イマドキの大量破壊兵器
では、話を元に戻そうか。僕がグレード・セブンになるか、ならないかの話へと。
アーキーが反論する。「いや、ニーナ。ブラッドハウンズは情報通だぞ。二週間もあれば、アイツらは誰がグレード・セブンになったかを割り出すと思う」
「んー、確かに。でもさ、私思うんだよ。ブラッドハウンズ最大の武器が核兵器なら、いっそのことそれを使わせれば良いって」
「は?」アーキーは口を開ける。
「語弊があったかもだけど、イマドキの大量殺戮兵器はすべてAIによって制御されてる。じゃあさ、AIにウイルスコードを打ち込んで海にでもそれを撃たせれば良いんじゃない?」
ニーナらしくない、と言ったら失礼だが、名案であった。ルキアと組んでいるときにそんな話でもしたか、それとも思い浮かんだのか。
アーキーは怪訝な表情になっていた。「……オマエ、めちゃくちゃ言うな」
ただ、同時に荒唐無稽な作戦であることも間違いない。ブラッドハウンズが隠して持っているAIサーバーを探すなんて、砂漠の中からダイヤモンドを見つけ出すようなものだからだ。
「それでも、一番簡単に問題が片付くと思うんだ。そして、その情報にアクセスできるのはグレード・セブンになったラーキだけ。合衆国だってブラッドハウンズについて調べてるはずだしね~。どう? ラーキ」
「良いような気がしてきた。その絵で」
「い、良いのかよ?」
「うん。それに、この問題は多数決で決めるからね。アーキーとリミは反対だけど、私とニーナ、更にルキアは賛成だから、2対3でグレード・セブン加入決定だ」
僕はいたずらっぽくウィンクして、なにか言いたげなアーキーとリミへ間髪入れず言う。
「大丈夫。今まで私の決めたこと、やったことで失敗した? していたら、君らあんな多額の報酬もらえていないよね。だから今回も大丈夫」
無理やり納得させてしまうのだった。
*
ここがゲーム世界だという仮定は、ほとんどすべて崩れているようだった。ウィング・シティから出られる以上、もはや箱庭ゲームの面影もない。
僕はニーナとともに飛行機に乗っていた。行き先は合衆国の首都で、目的はグレード・セブンに入隊する意志を示すことだ。
「ウィング・シティから出るの、初めてなんだよね」
ニーナはかなり喜んでいた。国内旅行とはいえ、そもそもあの世界最悪の街から出たことのない彼女には、結構な刺激になるだろう。
「あのふたりに留守番任せて大丈夫かな。マルもカルエも退院日未定なのに」
「だって行きたがらないんだもん。ルキアちゃんやジーターさんもいるから大丈夫だよ」
「そういえば、ジーターは入院していなかったか。いやー、良く重症者ふたりで済んだものだよ」
「ねっ」
機内でニーナは、終始窓の外を眺めていた。おそらく飛行機に乗ったのも初めてなのだろう。
彼女は時折、「すげぇ!!」と声を上げては、「ラーキ、ラーキ! 見て、あれ!」と僕の袖を引っ張る。
「ニーナ、子どもじゃないんだから静かに」
「だってラーキ、私きれいな海や山なんて見たことないんだよ? ウィング・シティの汚い街並みなら嫌なくらい見てきたけどさ」
「画面越しに見たことはあるでしょ」
「実物は全然違うよ~」
それもそうか、と僕は頷く。
僕も僕でニーナに引っ張られ、ウィング・シティを見下ろす。黒い雲がかかっている街は、ジャンク屋から漏れた有害物質と違法実験の化学物質によって、作り出されてしまったものだ。だから、この街はしばしば太陽のない街と言われる。世界最悪の街というあだ名は伊達ではない。




