EP49 多数決は民主主義の大元
「おっ、ありがとう」
胃を痛めて横たわっていたリミは、僕のその言葉に反応した。彼女は途端に立ち上がるが、やはり胃腸がキリキリするのか、腹部を抑える。
「連邦政府!? アイツらがラーキになにを──!!」
「連邦政府、だぁ!? アイツら、あの犯罪を見ていたってことか!?」
「まぁまぁ、落ち着いて。ちゃんと説明するからさ」
僕が馬を抑え込むようなジェスチャーしたところで、すでに拳銃を持ち始めていた彼女たちもそれを机に置く。
「まず、グレード・セブンって知っているかな?」
「「「は」」」
「知っているようだね。そう、没落から抜け出せない合衆国の切り札的存在さ。超強力な能力者を7人軍人として雇い、政府の抱える問題を片付けさせる。そのグレード・セブンのお誘いが来たってことさ」
「「「え?」」」
「求められるのは、合衆国への愛国心と絶対的な強さ。グレード・セブンに属す者が、有象無象の無法者たちにとって脅威でなくてはならないってところかな」
「「「いや、それは知ってる」」」
僕は笑みをこぼす。「なんで、声が被っているのさ。しかも言っていることいっしょだし。んで、僕はグレード・セブンに誘われた。マルやカルエたちとも話し合う必要があるけど、とりあえずみんなの意見を訊きたい」
グレード・セブン。名前の通り、7人で構成されている軍人だ。ただし、そもそも軍学校すら出ていなくても佐官以上の階級が保証される。僕はまだ22歳として登録されているから、さすがに少佐だろう。けど、少佐にもなってしまえば、大隊という1000人規模の兵士を率いる義務が生じる。そこをどうするつもりなのか。
まずニーナが答えた。「ねぇ、ラーキ。確かにロブスタを葬った貴方なら、余裕でグレード・セブンも務まると思う。でもさ、デバイスが連続で使える時間が短すぎない? 10分くらいなんでしょ?」
「そうだね。とても短い。10分だけしか使えないのに、結構弱点も多いデバイスだよ」
「だからさ、ルキアちゃんに掛け合って良い技術者を紹介してもらおうよ」
「うん。悪くない話だね。30分でも1時間でも使えれば、結構楽になる」
ニーナは早速ルキアへ電話をかけ始めた。「ルキアちゃん、いきなり掛け直してごめんね。え? あ、うん。あのメッセージは紛れもなく、連邦政府からだったよ。それがどうかしたの? ん? ラーキと電話代わってほしいの? 分かった」
僕の手にスマホが渡された。
『ラーキ?』
「うん」
『良い? こんなチャンスは二度とないわよ。今すぐ入隊の意志を示したほうが良いわ。そうすれば、マルに恩赦を与えられる。時間制限なしで、核兵器を締め出せるのよ』
「なるほど。一応こっちにいる子たちにも意見聞いてみるよ」
『ええ。多数決は民主主義の大元だもの。でもラーキ、その多数決には私がグレード・セブンへの参加賛成の票を入れたのを忘れないでね』
「はいさ~」
通話を切り、僕はみんなを見渡す。リミはよほど胃痛がひどいようで、顔が蒼くなっていた。アーキーはらしさもなく黙り込んでいた。ニーナは目をキラキラさせていた。
「んじゃ、多数決で決めましょう。私ラーキがグレード・セブンに参加するのに、反対な方は?」
アーキーとリミが、ゆらゆらと手を上げた。
「一応理由を訊きたいけど、その調子じゃ無理か」
仰向けのリミは腹部をさする。「いや……、確かにラーキがグレード・セブンに入るのは良いことなのかもしれないけど、その分名前が売れちゃうから」
「どういう意味?」
「オマエ、あたしらとブラッドハウンズは喧嘩中なのを忘れたのか? このタイミングでウィング・シティからグレード・セブンが選ばれました、それを報道します、となったらアイツら核を即座に使うかもしれない」




