EP4 ギアとジェットパック
最上階まで1分弱かからず着いた。僕は銃を構えるが、そこは蛻の殻。ゲームシステム的に、警備員も配置されていないのだろう、と考えつつ、真っ暗な部屋の中をスマホのライトで照らしながら、歩いていく。
「本当にここへ〝ギア〟があるの?」
「ニーナ、そこに光当てて」
不安げなニーナを安心させるように、僕はその〝ギア〟が置かれているはずの場所へ光を当てさせる。
そこには、無機質なケースがあった。近くにはいわゆるジェットパック。物理法則や人間の耐久性やらを無視して、装着すれば空を飛べる代物だ。
「え、これ?」
「うん」
僕はケースを開ける。本来ならここでハッキングしなくてはならないが、今回は裏技でここに来ている。そのため、そもそも鍵がかかっていない。
では、お宝との対面を迎えよう。
「なんだ、これ」アーキーは怪訝そうな表情になる。「骨伝導イヤホン? 〝ギア〟って身体に装着するモンだって聞いてたけど、これ外部装置みたいなモンじゃねぇの?」
「ああ、そうだね。外部装置さ。だから、正気度がそんなに下がらない」
「しょ、正気度?」吃りながら、リミが尋ねてくる。
「強力な〝ギア〟をたくさん着けられるのは、精神状態が尋常でないほど安定している者のみ。この街の上位1パーセントってところかな。まぁ、そんなことどうでも良い。時間がないからね」
僕は骨伝導イヤホンみたいなデバイスを、耳に巻く。そして右側に触れた。
「おお……」
〝ギア〟をインストールする際、このゲームの登場人物はこう言う。『薬物の過剰摂取のようだ』と。しかし、僕の身体にその異変は起きなかった。
「よし、ジェットパックで逃げよう」
「ジェットパック?」ニーナは怪訝な顔になる。
「そこにある。あれを背負って……ああ、いいや。天井をぶっ壊す」
空っぽになったケースを持ち、僕はそれを天に向けて投げる。
そうすれば、
凄まじい加速がかかり、まさに大砲のような威力で天井が壊されていく。
「は」
「は」
「は」
全員呆然とする中、僕はジェットパックをランドセルのように背負った。
「ほら、残り1分もしないうちに来るよ。さっさとトンズラしよう」
この街特有の汚い空気と濁った空が見える中、僕は彼女たちに指示を出す。
少しの間微塵も動かなかった彼女たちも、やがてこの〝ギア〟の恐ろしさを知ったようだ。各々ジェットパックを装着し、警報音が響く中、僕たちは逃げ道へ向かう。
「発射!!」
操作は5歳児でもできるようになっているらしく、右の取手に空へ跳ねる赤いボタン。左には加減速を操作するパネル。便利なことだ。
「「「うわぁあああああ!!」」」
発射された時点でこんなに慌てているようだったら、主人公には敵わなかっただろう。白目を剥きながら唾だらけになる姿が良いなと思いつつ、僕はパックを傾けて空を駆け抜けていく。
「ラーキ、これどうやって扱うの!? てか、なんで操作方法を──!!」
「5歳児以下なの? ニーナ」
僕はニーナにそう言って、ビル群より脱出する。
「うわぁあああああ!! これ着陸できるのかよ!?」
「ちょ、触んないで!! アーキー! マジで暴発する!!」
女ザコどもの悲鳴を聞きながら、これをネタにしてこすればどれだけ良いかとか考えつつ、僕は空を駆け抜けていく。
それから5分後。
僕たちは、港のほうへと向かった。監視カメラがほとんど設置されておらず、警備員たちもここまでは追ってこない。距離にして10キロメートルくらいは飛び回った。
「はあ、はあ……」
「ラーキ、オマエ一生恨むからな……?」
「し、死ぬかと」
そんな言葉を背に、僕はこの女ザコどもの処遇を決める羽目になった。
そう、ここで始末して後腐れをなくすか、このまま利用させてもらうか。決断したら、二度と戻れない二者択一の選択だ。