EP48 ルーズヴェルト・ゲーム
「ねえ、ルキア」
「まだ聞きたいことがあるのかしら?」
「〝グレード・セブン〟に勧誘されたんだ」
電話越しのルキアは、しばし言葉をなくした。
そりゃそうだ。グレード・セブンがどんな集団なのかを知っていれば、誰だって言葉のひとつや百個くらいなくしたくなる。
『……確かな情報なのね?』
「さぁ、ただメッセージが送られてきただけだしね~」
『メッセージの内容は?』
「グレード・セブンとして自分を試してみないか、みたいな感じだった」
『一応本物かどうか確認したいわ。ニーナに解析させてみて。そのあと折り返してくれるかしら?』
「分かった」
僕は電話を切り、ひとり用のソファーでアーキーといっしょに、野球中継を見ているニーナの元に向かう。
「ニーナ。このメッセージの送り主を解析して」
「えーっ。今良いところなんだよね~。ここでホームランが出たらルーズヴェルト・ゲームだよ?」
「ホントだ。3ボール2ストライクのランナー満塁。バッターは強打の2番か。なら、これ見ようか」
野球に詳しいわけではないが、ここが千載一遇の大チャンスなのは分かる。バッターの表情からも、ピッチャーの緊迫した表情よりも。
そして、ボールが投げられる。
96マイルのストレートが、バッドに吸い込まれ、そのままバックスクリーンへと放り込まれた。
「マジか!! ニーナ、すげぇよ!!」
「だね、アーキー!!」
ふたりはハイタッチしあい、喜びを分かち合う。
試合は7対8の死闘の末、フレイムズというチームが勝利した。アーキーは我が身のごとく喜ぶ。どうも、フレイムズの熱狂的ファンらしい。
「で、ニーナ。解析頼める?」
といっても、僕はあまり野球に興味がない。そもそもこの世界に来て、このゲーム世界もどきに来てから、まだ1ヶ月も経過していないのもあるし、どちらかと言えば日本の鳴り物応援しまくりの観戦のほうが好きだ。
そんな小事はおいておき、僕はニーナにスマホを渡す。
「うん、できるよ~」
「頼んだ。どれくらいかかる?」
「メッセージ主の特定でしょ? 3分あれば終わるよ」
「ありがとう」
3分間ではなにもすることがない。眠ることもできないし、ゲームも。せいぜいカップラーメンかインスタントコーヒーが飲めるだけの時間だ。
なので、僕はインスタントコーヒーを飲むことにした。
「つかさ、なんでリミは体調悪そうに横になってるの?」
「アーキー、強盗の報酬聞いてなかったの?」
「強盗……、ああ。あれか。きのうのきょうなのに、もう報酬決まったのかよ。ルキアはやり手だな」
「んで、アーキーの報酬は450万ドルね」
「…………は?」
「スーパーウェポンが予想以上に高く買い取られたんでしょ。この前は政府に売るって言っていたけど、もしかしたら他の国に売ったかもだし」
「450万ドル……?」
アーキーはパソコンで言うところの、ブルースクリーンモードになった。フリーズした彼女は、口をポカンと開けて微塵も動かない。
僕はポットのお湯をコーヒーに変える。「ま、それだけ危険な仕事だったってことさ」
ニーナはパソコンとにらみ合いつつ言う。「でもさ、みんな良く無傷で帰ってこられたね」
「それだけ悪運が強いってことじゃない? といっても、マルやジーターが殺りまくったのは想像に容易いけどさ」
「そだね~。マルガレーテさんとジーターさんがひたすら屠ってた感じだったよ、カメラ見る限りはね」ニーナはノートパソコンからスマホを外す。「特定できたよ~。連邦政府だってさ」




