EP47 報酬決定
「疲れた、疲れた、疲れた、疲れたぁ……疲れた!!」
僕はそう声を荒げ、余計に疲れを増させていく。
結果、強盗は歴史上類を見ないレベルの成功を収めた。テレビひとつ見ても、それは明らかだ。
犯人の経路が掴めていない、基地の防犯カメラ・監視カメラはクラッキングされていた、コンクリートにへばり付いている血も、この世界では犯罪者が全身の血液を身体改造のついでに入れ替えてしまうような場所なので、全く意味がない。
「ねー、ニーナ。疲れたよね」
僕とニーナ、アーキーとリミはタワーマンションの一角に戻ってきて、結構長いことダラダラしていた。他の連中は、ジーターとルキアを除いて入院から逃れられなかった模様。このふたりも、奪ったものの解析や市に掛け合って資金を得なくてはならないので……いやー、とても大変そうだ。
「めちゃ疲れたけど、ラーキが生きてたからそれで良いや!」
「だろ、だろ? だけどアラビカのアニキも始末したし、これから私らなにをすれば良いんだ? 寝て起きたら、すぐ解決できるぞぃ!」
アーキーがテレビの音量を上げ、少しだけ嫌悪感を出す。「うるさいなぁ。ナイターゲームやってるんだよ。……。あ、クソッ。また追加点だ。フレイムズはまともな中継ぎを用意してくれ。なんならあたしが寄付しても……あ」
「あ」
ベッドにうつ伏せに寝転がるラーキの元へ、一気に視線が集まる。
「なぁ、ラーキ。稼ぎは?」
「死ぬと思ってたから考えてなかったけど、強盗したら報酬くらいもらえるよね?」
た、確かに。それは彼女たちの言う通りだ。
と思って(目の色が変わったことへ怖さを覚えたのは黙っておき)僕は、「そうだね。この場合、マルに聞くのが一番手っ取り早いか。聴いてみるよ」
僕はマルガレーテ・アクスに通話する。といっても、これはただのポーズ。本気で報酬の金額を知りたければ、ルキアが管理してあるはず。なら、彼女に訊いたほうが早い。
「マル、出ないね」
今頃、闇病院で全身麻酔中だろう。要するに、慌てたところで意味はないよ? という意味合いである。
「なら、ルキアちゃんに電話するよ。うちが」
よせー! リミ!! まだ包帯まみれなのに、あんな嫌味だらけの女の言葉聴いたら、傷口も塞がらなくなるぞー!
「もしもし、ルキアちゃん」
『お家でゆっくり野球中継でも見てるの? 呑気なものね』
ほら、イワンコッチャナイ。この女は嫌味を言わないと精神が保てないタイプの人間であり、しかも当てこすりのレベルが高い。リミ、悪いことは言わないから適当に話しあわせて、なんなら切ってしまっても──。
「そうなんだよ、ごめんね。うちらじゃ、ルキアちゃんやジーターさんみたいなことできないからさ」
おぉ、リミのシンプルな謝罪だ。さぁ、どんな当てつけが戻って来るか。
『……ふん、誰にだってできることとそれ以外はある。で? 報酬の話でしょ?』
おお、案外優しいな。しかも僕自身も気になっていた報酬の件に触れてくれた。これはなかなかのお金がもらえる気配が──。
『まずニーナ、貴方は300万ドル。裏方、良く頑張ってくれたわ』ニーナが不意をつかれたような表情になるが、まだまだ続く。『アーキーとリミ、貴方たちは450万ドル。正面突破班、素晴らしかったわ』思わず飲んでいたウォッカを吐き出すリミと、野球中継に夢中で聴こえていないアーキー、僕はそんな彼女たちの大トリになったようだ。『ラーキ、貴方は600万ドル。後方侵入班の仕事はしっかりやっていて、更には貴方がいなければロブスタから逃げ切れることもなかった。異論のある方、いらっしゃるかしら?』
「ないよ~。ありがとう、ルキアちゃん。またいっしょに仕事しようね!」
「胃が、胃が痛いです。あ、金額にはケチつける気はないです。ちょっと、横になります」
「あーあ。ピッチャー不利のカウントなのに、振りに行って相手楽にさせちゃってる」
ソファーに横たわったリミから携帯電話を借り、
「異論はないらしい。次、なにか困ったことあったら連絡してきてね」
『ええ』
と、通話を切りかけた頃、僕は思い出す。




