EP43 一時休戦
『ラーキ!! ロブスタ・ノキの乱入は予想外だったけど、うまくマルガレーテさんが入ってくれた!! 今のうちにそこから離脱して!!』
確かに、この場に留まってもやることはない。僕は激戦続くマルガレーテとロブスタから離れて、元通り白いドアの前へ立つ。
そんな最中、
カルエ・キャベンディッシュが、立っているのもやっとの状態で、両手を両膝に乗せながら、
「ラーキ……、おれが回収しに行く。幸いなことにこの施設は空っぽだから、なんとかなる……」
インカム越しにルキアが声を張り上げる。『カルエ!? 生きてたの!?』
「あぁ、まぁな……。つっても、もう歩くのがやっとだ」
少し涙声のようにも聴こえた。『良かったわ……。貴方が死ななくて、本当に良かった』
「……おい、ラーキ。オマエはこの喧嘩がどこへ向かうか考えてるか?」
「えっ?」
「あのマルとロブスタが激突している以上、どちらかが〝サイコ・キラー〟に成り果ててもおかしくない。そうだろう?」
「うん、まぁ」
「〝サイコ・キラー〟になった者は道徳を失い、その能力をすべて使い果たし虐殺し、やがて死に至る。では、ラーキ」
「う、うん」
「マルが〝サイコ・キラー〟にならないよう10分で良いから停戦時間を設けさせろ。いや、なんならおれが両者に会って言ってくる。おれか。お宝はすぐ目の前に来ているんだから、こんなところでスタンバッていられないよなぁ」
ウィング・シティ側を揺すれるデータとスーパーウェポン。それを獲りに行くため、もうガタガタな身体にムチを打ってでも、カルエはふたりが動きを止めたところに割り入る。
「あ? カルエにラーキ、どうした」
「話し合いだよ」
「ザコと話す時間はねェ」
「まぁまぁ、互いに理がある提案だからさ。サイコ・キラー化を防げるように、とね」
続いて、僕のターンだ。
これは簡単だろう。マルと僕なら、評価AAAの化け物にも勝ち筋が見えてくる。
「おう、生娘ちゃん。足引っ張るなよ?」
「うん、おばさん。足がつらないようにね」
「お、おばさん!?」
「マルって何歳?」
「レディーに歳聴くのは失礼だろうよ」
「不妊治療して、試験管ベビー使って妊娠したかったみたいだけど、あまりにも遠回り過ぎる手法だなぁって思った」
「……要するに、なにが言いたい? それ、昔あたしがやろうとしたことじゃねぇか」
「こういうしょうもない話で盛り上がれるのも、ひょっとしたらもう二度と来ないような気がしてさ。でも、そういう話していたいでしょ? だから提案があるんだけど──」
僕は少しマルガレーテのことをからかいつつ、奥の部屋に向かっていく。
*
「おう、あたしのところの……いや、簒奪者〝サンバ・ツール〟に属していたガキだよな? 不思議な話だよ。その骨伝導イヤホン、外部デバイスなんだろ? 〝パクス=マキナ〟っていってさ。道具による平和か。良いねぇ」
「良いんだか……んじゃあ、図面通りに行こうよ。アイツは酸素を偽装して、僕の反射が効かないように細工をかけた。なら、僕はデバイスを使って、アイツの有害な毒ガス? を解析する」
「なぁ、ラーキ」
「なにさ」宿舎のパソコンでロブスタについて調べていた。
「こう言っちゃ悪りぃけど、アイツの素振りや目を見る限り、多分アイツ〝サイコ・キラー〟になるのを承知で挑むつもりだぞ」
「……厄介、だねぇ」
その状況に陥れば、必ず死ぬ。それも5分以内に。サイコ・キラーは能力の限界すらかるく突破して、たとえばロブスタであれば、彼は酸素そのものをなくすことができる。範囲は分からず、ひとりずつから酸素を奪うのか、それともまとめて奪われるのか。
「ともかく、この軍用の酸素マスクつけるしかないでしょう」
「そうだな……」
*
軍靴の音が、しかしこの基地の規模を考えれば途方もなく少ない足音だった。総勢、10~15人程度だろうか。




