EP3 名前判明
僕はしばし考える。この3人がいれば、肉壁くらいにはなるだろう。ただ、同時に侵入する人員を増やす羽目になる。人手が多ければ良いというものではない。そもそも現時点でデータとしてその〝ギア〟があるかも分からない以上、本当はひとりで行きたい。
と、思慮を巡らせるが、結局考えていても時間を無駄に消耗するだけだったりする。彼女たちは知らないと思われるが、僕の属すブラッドハウンズは情報戦でも強者だ。いつ監視カメラをハッキングされて、僕らの元に殺し屋が送られてくるか分からない。ブラッドハウンズの車を使ってここまで来てしまったため、そもそも位置情報すらバレバレ。
となれば、ここは銃を捨ててもらって着いてきてもらうほうが良いかもしれない。
「ちょ、ちょっと待て! このガキはあたしに発砲したんだぞ!? そんなのを信じられるかよ!?」
当然の反応だった。先ほど助手席に座っていた三白眼の女ザコの肩は、応急処置だけ施された無様な状態だからだ。
「だったら、幹部たちにチクリに行けば? まあもっとも、指令を無視してここへ来た時点で処遇は決まっているけどね」
「……クソッ」
「さっきも言ったように、今すぐ死ぬか執行猶予をもらって生き残れる方法を模索するか。私は後者を選ぶ。でも、アンタらの考えは知らない。着いてきたければ着いてくれば良いし、そうじゃないなら大人しく逃げれば良い。さぁ、どうする?」
早くしてくれよ、と内心思う。時間は有限だし、ビル前に留まっているとブラッドハウンズからの刺客が現れる可能性が否めない。
そんな中、
先ほど隣に座っていた、僕を親友だと言ったタレ目の女ザコが、拳銃を三白眼に向けた。
「もう四の五の言う時間はない。ラーキは本気でなにかをするつもりだし、それに従えないなら私が貴方の頭を吹き飛ばす」
「ニーナ……、オマエまでこの馬鹿女の擁護するのか?」
「うん。言語化できないけど、今のラーキに着いていったほうが良い気がする」
そんな会話の最中、
『応答せよ、13番隊!! ただちに応援が必要だ!! クソッ!! なんでこれだけいるのに、たったふたりのガキに──ザザザザザ!!』
ビームみたいな発砲音と、悲鳴。最後は途切れてしまった。おそらく無線機ごと壊されたのだろう。それが車より聴こえた。
「ど、どうする?」
運転席に座っていた、ツリ目の女ザコの表情は怯えきっていた。
「だから言ったじゃない。死にたくないなら、逃げるしかないって」
対照的に僕は冷静だった。慌てたところで、現地の問題が解決するわけでもない。
しかし、その冷徹とも捉えられる態度が良いほうに見えたのか、
「分かったよ!! リミ! 行くぞ!!」
「う、うん。アーキー」
三白眼のアーキーは、ツリ目の運転手リミにそう言った。
「じゃ、全員銃弾そこら辺に置いといて。良い? 今からグリービルの最上階に行く。警備員はさほど多くないと思う。無力化が必要そうであれば、グリップで殴って」
「……なにするんだ?」アーキーが尋ねてくる。
「〝ギア〟の強奪。私の情報が正しければ、その能力の負荷は重たくない。ランクDでも使えるくらいにね。ただしかなり扱いづらいので、私がそれを使う。他に質問は?」
「……、ねぇよ」
「よろしい。さぁ、行こう。寄せ集めでも生き残れることを証明してやるよ」
手をパンッと叩き、僕は迷わずグリービルの扉へ向かう。そして、電子式のロックを発砲で壊し、無理やり解錠してしまう。
「警備会社が来るまで3分くらい。時間のロスはそのまま死に直結する。最短ルートで行こう」
エレベーターに4人の女が乗る。目指すは当然最上階。ここからが勝負だ。