EP38 おれたちはプロ
「へー。で、ルキアを引き入れられたと?」
「あぁ。アイツはランクCだし、正直戦闘向きの能力は持ってない。だから、おれとつるんでいるほうが、アイツのためにもなる。ただ、ハッキングの実力はガチだ。あのレイ・ウォーカーすら、いつか越してくれるさ」
親馬鹿なのか、それとも本心なのか。いや、おそらく両方混じっているだろう。カルエの年齢は不詳だが、おそらく27~8歳前後。対してルキアは20歳になっているかどうか。やや年の離れた兄妹のようなものである。
「カルエはさ、どうやってマルガレーテさんほどの大物と同盟組んだの?」
怪訝そうな表情になる。「あ? 急に話を変えやがって」
「気になるんだよ。これからを見据えるって意味でも」
「オマエ、ガチで変わり者だな」カルエは少し目を細める。「別に難しいことをしたわけじゃないさ。ただ、アイツの敵対組織のボスを殺ったらあっちから誘いが来ただけだ」
「で、アラビカっていう汚職警察を倒したと」
「あぁ。あの野郎は半端なく強かったが、なんとか葬り去った」
「どれくらい強かったの?」
「ランクAAAって言えば分かるだろ?」
「マルガレーテさんくらいか」
「アイツには悪いけど、アラビカのクソ野郎のほうがえげつなかったな。アイツは災害を従える男だったし」
ここまで言わせておいて、自分のことを語らないのも礼儀に欠けるな、と僕は思う。とはいえ、訊いてこない限りには答えないのもやり方だ。
と考えていたら、
「で? 今のブラッドハウンズの褌担ぎだったオマエらは、なぜここまで来られたんだ? おれは結構答えてやったし、今度はオマエのターンだぞ」
そういう予感は当たるものだな、と内心感じる羽目になった。
「なんてことはないよ。ただ、カルエ。もし私が一部分だけ残っている攻略本を持っていると言ったら?」
「あァ? まるで、この世界がビデオゲームみてェな言い草じゃねェか」
間髪を入れない。「近いね」
「本当に掴みどころのねェヤツだ……。ま、一部分だけでも攻略本を持っているのなら、オマエの耳辺りの〝パクス=マキナ〟にも納得は行くけどな」
パクス=マキナ。要するに、僕がこの世界に来て真っ先に奪ったデバイスの名前であり、由来は、ローマによる平和という意味の『パクス=ロマーナ』、あるいはそれの類似例だ。
ローマが代表するような世界帝国は、しばしば武力によって無理やり世界に平和を築いた。ただ、それらはすべて破られてきた。ローマ帝国が滅びたように、大英帝国が崩壊したように、そして、この世界における合衆国、基アメリカによる一極支配が完全に打破されてしまったように。
だから、あまり縁起の良い名前ではないかもしれない。最後は壊されてしまうものとして、エンディングを迎える可能性だって捨てきれない。所詮、人間は全知全能にはなれない。そんなこと、僕みたいな小市民でも、いや中身が凡庸な人間だからこそ、嫌というほど分ってしまう。ある意味、パラノイアじみた思考をしているほうが気楽なのだろうか。
「どうした? 黙り込んで」
「いや、考え事していただけだよ」
「そうか。で、そろそろ目的地につくんじゃねェの?」
「あ、うん。そこの道路を右に曲がって──」
*
そして、我々はついに決行の日を迎えた。
マルガレーテ、ジーター、アーキー、リミはスーツに着替え、僕とカルエは普通のコート。軍車両を隠した場所で、着替える。ルキアとニーナは普段の格好だ。
そんな中、カルエとルキアが闘いの音頭を取る。
「おれたちはプロ。全員、修羅場を何度も乗り越えてきたはずだ。もちろん、これが最後の鉄火場ではない。だが、前哨戦にはピッタリだろ? 全員、処方されてる薬は飲んだな? ママに感謝のメッセージも送ったよな?」全員真剣な表情でカルエの言葉を聴く。「よろしい。最終確認だけしよう」彼は手を叩いた。




