EP37 やってる感
僕とカルエは、街を歩いていた。昼から夕方にかける、暴力と犯罪が娯楽の街を。
「軍人だらけだな」
「ね」
この2日間で、ウィング・シティには様々な変化があった。
まず、反社組織フロンティアからふたりの幹部格と大勢の構成員が蒸発した。この街最大規模のブラッドハウンズと張り合える組織だっただけに、彼らにとっても痛手だが、同時にウィング・シティ側にとっても苦しい状況だったりする。これを機と見た巨大犯罪組織が動くのではないか、と考えるのが自然だからだ。
といっても、僕とカルエが散歩している場所はブラッドハウンズとフロンティアの係争地帯。幹部級を何人も殺られている両組織に、果たして余力は残されているのか?
答えは、否だ。
「税金のムダ遣いだよな~。合衆国の税収は毎年減ってるのに」
「いわゆる、〝やっている感じ〟でしょ。それに、軍人さんがいれば市民だって安心だ」
「か弱き市民を守る正義の軍隊ってか。こんなしょうもねェ示威行為するから、合衆国は没落したんだよ」
僕は手を広げる。「否めないね」
「だろ? お、ラーキ」
「分かった」
ひとけのない場所で、明らかに油断している軍人ふたりが、ドーナツを食べながら談笑していた。カルエは一瞬そっちへ目をやり、僕は納得する。
僕とカルエは、彼らの背後に回り、同時にスタンガンを取り出す。殺傷性はないし、あったら困る。殺人なんて(極力)したくないからだ。
「後ろから失礼」
「あ? ぎゃぁあ!?」
「こちらも」
「は? うぉおお!?」
テーザーガンで軍人を麻痺させ、僕らは周りを見渡す。目撃者はいない。意識を失った野郎を抱えていたら時間がかかるので、ここは……。
カルエが指示出しする。「車の中に予備の服があるはずだ。ちょっと見てみよう」
僕はそれに従い、軍用車を物色し始めた。「あったよ。あとは、これで逃げるだけだね」
カルエは気絶する軍人からカードを抜く。「よし、身分証も手に入れた。行くぞ」
僕らは頷き合い、無骨な迷彩色の車に乗った。運転席にはカルエで、助手席に僕だ。
カルエは嫌味に笑う。「やっぱり税金のムダ遣いだ」
「カカシだしね。これじゃ」
「カカシのほうが、害獣防げるだけまだマシだろ」カルエはおそらくルキアかニーナに電話をかけ始める。「回収完了したぞ。ああ、無血で。今頃マルたちはドンパチしてるんだろうな。そう思うと楽だよ」
『マルがいるのに、ドンパチなんて喧嘩になるのかしら? しかも、あっちへはジーターもいるわ』
「どっちでも良いだろ。さて、どこに隠せば良い?」
『サンダードーム空軍基地の直ぐ側が良いけれど、あまりにも近くに置くと見つかってしまうわ。一応何箇所か目星はつけているけどね』
「それの一番近くに停めるよ」
『分かったわ。位置情報をスマホに送っておく』
「ああ、またな」
カルエはスマホを僕に投げてくる。
「ナビゲーター、よろしく」
「うん。でも、まっすぐ高速道路乗って少し曲がるだけだよ」
「なら、おしゃべりでもしていよう」カルエは電子タバコの電源をつける。「といっても、おれたちは別に仲良しってわけでもない。利害が一致してるから、つるんでるだけだからな」
「けど、渡して良い情報もあるでしょ。カルエとルキアの関係性とか」
「オマエ、躊躇なくプライベートに突っ込むなぁ。まぁ、どうせ暇だから教えるけどさ」カルエは続けた。「アイツは孤児だ。ウィング・シティじゃ、良くある存在だったんだよ。幼い子どもの親が蒸発するなんて、発砲事件の次に起きる悲劇だからな。で、確かアイツが15歳くらいのときかね。腕利きのハッカーのガキがいると、噂話を通じて訊いたんだ」
僕は相槌を打つ。「ほへー。それで、ルキアを仲間に?」
「まぁな。おれだってある程度の無法者だったし、探すのにさほど多くの時間はいらなかった」




