EP36 準備開始
というわけで、後方支援班は固まってしまったが、それに納得していない女がいた。
「ちょ、ちょっと待って! 〝深層〟ならあたしも入れるぞ!?」
ルキアは手を広げる。「もう遅いわよ、アーキー」
「アーキー、見苦しいよ。うちらはもう、軍基地に入り込むしかないんだよ」
「リミ~!! そんな薄情なこと言わないでくれ~!!」
リミは涙目になるアーキーへ言う。「泣いて懇願したって、ここはウィング・シティだよ? だいたい、マルガレーテさんといっしょに侵入したほうが安全そうじゃない?」
「……、真正面から行けと?」
「うん。ルキアちゃん、うちらは正面突破班で」
「分かったわ」
ホワイトボードはすでに埋められている。埋まっていないのは、後方侵入と正面突破がひとりずつ。さぁ、カルエとジーターはどちらを選ぶか。
そんな中、ジーターが手を上げる。
「なぁ、正面から向かうヤツらは囮なんだよな?」
「そうね。言い方は悪いけど」
「じゃあ、逃走するときに備えてテレポーターがいたほうが良いだろ。おれは正面にするぜ」
「言えてるわね。なら、ジーターがここに加わると」
ホワイトボードは実質的に埋められた。
正面突破班:マルガレーテ、ジーター、アーキー、リミ。
後方侵入班:ラーキ、カルエ。
情報処理班:ルキア、ニーナ。
「異論のあるヒト、いるかしら?」
誰も文句をつけられない。こうなってしまうと、もはやどうすることもならないからだ。
「いないようね。じゃ、それぞれ準備するものを描いていくわ」
ルキアはボードの情報をすべて消し、新たに指令を記していく。
「まず、正面班。確か、ラーキたちがブラッドハウンズから略奪した追跡できないアサルトライフルが4丁あったはず。あと、顔を隠すマスク。それと装甲車ってところね。これはフロンティアが所有してるって調べがついてるから、そこから奪ってちょうだい」
そういえば、フロンティアとかいう反社組織もあったな、と僕は濃い日々を過ごしているのを痛感する。
「弾もあるだろうし、なによりマルとジーターがいるのなら、そこまで準備はいらないわ。それに、フロンティアはここ3日前くらいに幹部級がふたり飛んでるしね。大した被害も払わず、装甲車はゲットできると思うわよ。で、次」
ルキアはホワイトボードにいくつか、必要なものを描いていった。絵心がないなぁ、とか思いつつ、一応イラストにしてくれたようだ。
「まず、軍服ね。少しでも気づかれないように、できれば一般兵のものが好ましいわ。続いて、軍人用の身分証明書。更に、軍車両。これらは、そうね……同時に奪いましょうか。ここ何日か、フロンティアやブラッドハウンズの大物が殺られまくってるのを見て、軍が出張ってるはずよ。身分証を手に入れたら、それを私やニーナに渡して。写真をコラージュするわ」
カルエが尋ねる。「他になんかあるのか? 準備はしっかりしておきたい」
「そうね……、ドローンであらかじめ偵察しておけば、私たちも指示を出しやすいわ。偵察用にひとつ。これは私たちが用意しようかしら。ただし、本気で基地内を丸裸にしたいのなら、どちらかのグループが10機くらい奪ってくる必要があるわね」
カルエは頷く。「分かった。この案で行こう」
ルキアはまたもやホワイトボードの文字を消す。
そして、彼女はただひとつ書き加える。
『2日後の朝9時スタート』
ルキアは説明する。
「基地が一番慌ただしい時間ね。連中が訓練してて、兵器にもガソリンが注がれる頃。部隊が交代したり、事務作業が始まったりで、注意力が散漫になってると思うわ。それまでに、各々準備を済ませましょう」
「おけい」僕は親指を立てる。
こうして、8人の無法者は合衆国の軍基地を襲う計画を企て、同時に準備を始めるのだった。
ミスって同じ話を二回載せていたのを修正しました。指摘してくれた方、ありがとうございます( ^ω^)




