EP35 センチメンタルになる暇もなく
僕はフッと笑う。「本気で言っている? カルエ・キャベンディッシュともあろう者が」
「時々センチメンタルになることもあるだけさ。1ヶ月に一度セラピーも受けてるし」
スマホを睨んでいたルキアが口を挟んでくる。「今更、愛がほしいなんて戯言いらないわよ。今欲しいものは、現金と情報。それを叶える手段は、やっぱり軍施設を襲うことね」
「だろうな……」
そして部屋に僕らはたどり着く。
「んじゃ、作戦会議しようか」
粗茶すら出さず、僕は早速話を進めようとする。もう時間がない。一分が惜しいほどだ。
ルキアが、設置してあったホワイトボードになにかを描いていく。「情報はできる限り残したくないので、ここに記すわよ。いつでも消せる代わりに、ここで頭に叩き込んでもらわないと困るわ。良い?」
「うん」僕は座る。
「まず、この街に設置されてる軍施設を襲うわ。そこでスーパーウェポンを略奪する。その兵器で連邦政府と取引する。核兵器級のオモチャを返してあげる代わりに、潤沢な資金を用意してもらうのよ。幸いなことに、その兵器は2日後、ウィング・シティの軍基地に配備されるわ。準備期間を含めれば、一番ちょうど良い場面で来てくれるのよ」
「なるほど」僕はポテトチップスを開けて、みんなに差し出す。「食べる? 小腹空いたでしょ。頭使うからね」
「……ラーキ、貴方緊張感なさすぎ」ルキアは呆れ気味だ。」
「そりゃ、こんな計画訊けば現実逃避したくなるものさ。で、情報はどうやって手に入れるの?」
「えぇ、軍基地からドライブディスクを奪うわ。連中だって、ブラッドハウンズに対する調査くらいしてあるはず。ましてや、ウィング・シティに配備された軍なら尚更ね」
ルキアは手順を記していく。僕らは頷きながら、それらを頭の中へ入れていく。
「正面突破する班と、裏から向かう班に分けるわ。あと、現地の監視カメラをハッキングして後方支援する班も。私たちの頭数は8人だから、そうね……。正面から向かうのが4人。混乱に乗じるのがふたり。ハッキングがふたりといったところかしら」
僕が手を上げる。「はーい、一番重要な班は?」
「後方侵入でしょうね。正直、あれだけの戦車や戦闘機、その他軍人を相手しながらウェポンとデータを抜き取るのは、やっぱり背後からの一突きを行うヒトじゃない?」
やはりか、と思いつつ僕は提案してみる。「なら、私が隠密行動して良い?」
「良いわよ。この際、早いもの勝ちにしましょうか。私たちはみんなプロの集団だから、どこに配置されても問題ないでしょ?」
僕の役目は決まった。あとは、他の連中がどう出るか、だ。
「ただ、マル。貴方は確定で真正面から行ってもらうわよ?」
「なんで? あたしが強ぇから?」
「軍基地にまっすぐ突っ込むなんて、正直ただの罰ゲーム。そしてこんなゲームする羽目になったのは、すべて貴方の所為だからよ」
「返す言葉もございません……」
常識的に考えたとき、かつて世界最強と言われた合衆国軍の基地に、たった8人で、しかも4人は正々堂々と入口から侵入するとなれば、ルキアが言うようにそれはただの、とてもタチの悪い罰ゲームだ。
一方、マルガレーテのような化け物といっしょに突っ込んだほうが、生存率は上がるかもしれない。ここをどう捉えるか。
「ねぇ、ルキアちゃん」ピンク髪のニーナが手を上げた。「私、ハッキング班で良いかな? 正直戦闘向きのギアを持ってるわけじゃないし、これでも〝深層〟に入れる程度にはハッキングの腕もあるよ」
「〝深層〟に入れるの? 大したものじゃない。なら、ニーナ。貴方は私といっしょにハッキングね」
「うん!」ニーナははにかむ。




