EP33 きょうも良い天気
ウィング・シティは合衆国の街なので、当然昼間というものもある。摩天楼の所為で太陽光の日差しはあまり浴びられないし、白昼堂々誰かが誰かを襲っているが、それでもこの街にも昼間がある。
「いやー、とても良い天気だ」
僕とニーナ、アーキーとリミは、レイ・ウォーカーが用意してくれた隠れ家に逃げ込んでいた。僕はヨガしつつ、遠くを見据えて覇気のないアーキーとリミに語りかける。
「どうしたのさ、そんな暗い顔して」
「そりゃ、おめぇ……。暗い顔しない方法を教えてほしいくらいだよ」
「右に同感だね。だいたい、マルガレーテさんたちはどこ行ったの? あのヒトたちもここ来れば良いのに」
僕はポージングを決めながら、
「レイ・ウォーカーの元へ向かったんじゃない?」
と答えた。僕は続ける。
「あそこまで話をされたら、もうアイツらは私らを嫌でも戦力として数えている。だいたい、ブラッドハウンズの核兵器が実在するのなら、どのみち私たちはあのヒトたちと一蓮托生だしね~」
「……、は? ブラッドハウンズの核?」
「あ、ニーナとアーキーは知らないんだっけ。アイツら、核武装しているよ」
「「え?」」
声が見事にハウリングし、僕は思わずよろけてしまう。もうヨガは良いや、とマットレスから靴に履き替えた。
「ブラッドハウンズがそんなモンを? いやいや、ただの反社会的勢力が持って良いモンじゃねぇだろ」
「アーキー、私はなんとなく思ったわけよ。今のブラッドハウンズは、絶対的存在だったマルガレーテとジーターが抜けている。実力でも、統率力でも優れたふたりがね。じゃあ、今のブラッドハウンズのボスは誰だと思う?」
「え、そういえば知らなかった」
「〝深層〟使って調べたら? ニーナ」
裏社会の情報が載っている、便利なWeb世界。それが〝深層〟だ。
「そうする……」ニーナはノートパソコンを叩く。やがて彼女は怪訝な面持ちになった。「え、こんなのがブラッドハウンズの今のボス? ただのザコじゃん」
現ブラッドハウンズのボス、名前はサンバ・ツール。身体改造や能力を使う上で重要な指標になってくるランクは、なんとD。最下層だ。
確かに、こんなのが実力主義と暴力主義の組織のドンというのは、にわかには信じ硬い。
「そう、クソザコも良いところなんだよ」僕はコーヒー片手に、ニーナへ近寄る。「マルガレーテから直接訊いたわけじゃないから断言できないけど、コイツはおそらくブラッドハウンズの科学研究班に属していたんだと思う。だからま、核武装できたんじゃないかな」
サンバは、薄毛の冴えないおっさんといった感じだ。まさかブラッドハウンズみたいな巨大組織のドンになれると思ってもなかっただろう。
「で、さっきカルエから連絡が来た。アイツら、うちへ来るってさ。多分、強盗の準備をしていると思う」
僕らの隠れ家には、アサルトライフルが4丁。いつだかの武器略奪の際の代物だ。金策のために宝石店を襲おうとしたとき、これを手に入れた。
また、マルガレーテがシャバにいられる時間は、残り1ヶ月を切った。もう四の五の言っている暇はないし、銀行強盗だろうが宝石店だろうが軍施設だろうが金持ちの家だろうが、どこでも良いから襲って資金を用意しなければならない。カネがなければ、この非情な街ではなにもできないのだから。




