EP32 心機一転、頑張りましょう
「てか、空を飛ぶっていう空母は?」
ニーナは本当に無傷のようだ。では、一体グリッドはなにを残した? 負け惜しみをするくらいなら、なにかしらの爪痕を遺しそうなものだが。
「そういえばいないね。前に集中し過ぎて、上を向けなかったよ」
僕はそう言い、死体処理やら大穴だらけの道路の舗装をアルバイト同然の者たちへ任せ、カルエに電話をかける。
「やぁ」
『生きてたのか。ああ、そりゃあ良かった』
「なんだよ、その言い草」ムスッと頬を膨らませる。
『ああ、誰も死ななかったのは良かったな。唯一の救いだよ』
「どういう意味さ。みんな生き残ったんでしょ?」
『屋上、見てみろ』
「うん、うん!?」
僕とニーナは屋上を見上げ、手で口を覆う。
バルコニーと部屋が一体化した、ペントハウスがそのままそっくり燃え尽きていた。むしろなぜこれで誰も死ななかったのか、と言いたくなるような大惨事であった。
「カルエ……一体なにがあったの?」
『あぁ、酔っぱらいがやってくれたよ』
*
話は少し前に遡る。
ブラッドハウンズという暴力主義に実力主義を兼ね備えた組織を追われたボスにして、この街最強の女と名高い無法者、マルガレーテ・アクスは、酔っ払い過ぎて、子分に発情していた。
「なー、チオンちゃんは息子みたいなモンだからさ~、あたしとオマエで夢の子にしてやろぉぜ?」
「酒臭せェなぁ、ボス。結婚してほしいと?」
「おぉ、そうだ!! アンタにあたしのバージンロードを……」
「なら、そこにある浮かぶ空母をなんとかしてくれ」
「おお、お安い御用だぜぇ!!」
ジーターという彼女の最強の子分は、鼻をつまみながらマルガレーテに攻撃するよう指示出ししたらしい。
「って、ボス。照準がずれている……おい!! ペントハウスを焼き尽くすつもりか!?」
「結婚~☆ バージンロード~☆ チオンちゃんとあたしとジーターで、夢の生活~☆」
「寝ぼけてねェで……まっすぐ照準合わせろよ!! なんで真後ろに炎撒き散らしてるんだよ!?」
「えぇ~? ジーターぁ?」
すでに酒に呑まれているのにも関わらず、彼女は追加で飲んでしまったという。
そして、
ペントハウスが真っ黒になる頃、マルガレーテは眠り始めた。ジーターは心底嫌だが、彼女を抱えて屋上から脱出した。
それから数分後、
ふたりの女ザコだった? アーキーとリミ、カルエ・キャベンディッシュという切れ者、彼の盟友ルキアが、焼け焦げる匂いに嫌なものを覚えながら、屋上へやってきた。
「なんだ、こりゃあ」
「カルエ。多分だけど、マルがなにか仕出かしたわね」
「そりゃあ、ルキア。見なくても分かるだろう」
どこからともなく上がってきた毒ガスのような気体が、SFチックに羽の生えた小型空母みたいなものを蝕んでいた。耐えきれず、船が退避し始めている。これは良い機会だが、カルエたちも困り果てて立ち尽くすしかなかった。
その隣で、メラメラと燃える札束や金庫そのもの。これはまずい。マルガレーテの炎が広がっているのだろうが、ガスの所為で余計に火が強まっている。
「クソ、逃げ道は?」
「そりゃあ、カルエ」
ルキアは微笑みを浮かべたという。彼女が微笑むとき、その瞬間にろくなことは起きない。
刹那、
カルエはエレベーターのあった場所より叩き落された。
「「は」」
同じ顛末を、アーキーとリミも通ることになる。
*
『ま、ルキアとニーナのおかげで助かったんだけどな。アイツがシールド張ってくれててさ。それがうまくトランポリンになってくれた』カルエたちが近づいてくる。「一方、おれたちの資金は全部溶けた。マルのおかげだよ。アイツ、おれらに心機一転頑張って欲しいんだとさ」
「ああ、そう……」
無一文からのリスタートである。
なんとこれでチャプター2おしまいです()
次章、『チャプター2.5 サンダードーム空軍基地への襲撃』をお楽しみに。
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