EP30 無法者ラーキVSグリッド・コール
「──へェ」
グリッドは少し感心したような、そういう目で僕らを見てきた。
今、僕とニーナの前にはピンク色の壁がある。それは半透明で、光を放っていた。
「ここに来てギアの本質を見抜いたか。こりゃあ、やるなァ。拍手してやりてェくれェだよ」
ニーナのギア、『ドック・ヒーラー』は近くにいる者の傷を癒やせる。また、今円型に広がっているシールドは、中に入っている者の傷跡を即座に回復させるのだ。
これでもう、手の甲の痛みはない。僕は即座にデバイスの電源をつけた。
そして、
僕はグリッドとの間合いを一気に狭め、彼へエネルギー弾を放つ。
されど、やはり相当の手慣れ。あっさり交わされてしまった。首をヒュンと動かすだけで、グリッドはくらったら確実に潰れていただろう攻撃を避ける。
「やめておけよ、ヒヨッコども。おれに攻撃が当たると思ってんのか?」
「ああ、思っていないさ」
「なら、なぜそんな真似を?」
「教える義理はない」
「だよなァ」
気の抜けた声色とともに、グリッドは固まった空気を次々と僕にぶつけようと動かす。それは空気や酸素なので、目で捉えることはできない。
「まぁまず、おれの攻撃をなんとかしてみろ。話はそこからだろう?」
僕は先ほどのマルガレーテ戦で実戦した、防御バリアを敷く。
その効果で、弾丸よりも凶悪な攻撃が跳ね返される頃、
グリッドの姿は消えていた。
なにがあった? さっきまで、グリッドは僕の眼前にいたはずだ。
まさか……!?
「ここだ、ヒヨッコ」
「──ぐぅッ!?」
グリッドは目の前にいた。だが、目視できなかった。
それが故、僕は彼の身体改造が混じった拳をもろにくらう。
ゲホゲホと咳をはらい、その場にへたり込みたくなるが、血を垂らすだけで抑える。ここで倒れたら、次はニーナの番だ。
「で? どいてくれる気になってくれたかな?」
「……。悪いけど、ここの門番を任されているんだ。死んでも譲れないね」
「ああ、そうだったな。言ったところで分かるようなガキでもねェか」
僕はかろうじてその場に立つ。固唾を呑んで見守るニーナ、それにブラッドハウンズの構成員は、しかしどこかで知り始めていた。この喧嘩の勝敗は、すでに決まっているようなものだと。
「ぐッ!!」僕は首を掴まれる。
「情けねェ声漏らすなよ。おれが悪人みてェじゃないか」
その勢いで、僕は地面へと叩きつけられる。
これがランクAAの身体改造……!! 僕は青アザだらけの身体と折れた骨の所為で、もはやその場から立ち上がることもできない……。
マルガレーテとの一戦で判定勝ちを取れたのは、やはり彼女が慢心していたからなのだろう。
だが、目の前にいるグリッドは、全くもって傲慢さを感じ取れない。
「ンだよ、もう少し根性出せ」
うつ伏せに倒れる僕の頭を、グリッドが踏みにじる。
もう、駄目だ。これは、勝てない。こんな相手に、勝てる術なんて、ない……。
『危機的状況が検知されました。これより、〝オーバヒート〟を起動します』
僕の脳内に、何者かが語りかけてくる。どうやら機械オペレーターのようだ。でも、一体なんの声なのだろうか?
その刹那、
『オーバヒート・モード起動。作動時間は、1分です』
バリバリバリ!! と、なにかしらのエネルギーが一点に集中していく。集まる場所は、僕そのものであった。
辺りの車や街路樹が吹き飛ばされ、ヒトも立っていられない。一体なにが起きている? それは、僕にすら分からない。
そんな最中、グリッドは宙高くまで放り上げられ、僕はなぜか立ち上がれた。
「ら、ラーキ?」
ニーナの怪訝そうな声は、そのまま今の状況を示していた。
僕はなにが起きたか分からず、しかし体表にエネルギーが奔流のように流れるのを体感する。
「おいおい……、このタイミングで隠し機能が覚醒するのかよ!!」
声色から力が抜けていたグリッドは、途端に声を荒げる。
僕は宙に舞ったグリッドの元へ、さも当然のようにジャンプして追いつく。
そして、
グリッドが酸素になって逃げる前に、僕は彼の首元を掴んだ。




