EP29 〝ウィング・シティと地獄は直結している〟
「クソッ!! 敵はたったふたりだ!! 突撃しろ!!」
誰かがそう言った。しかし、今のところ彼らが全力で突進してくる様子はない。確かに目視できるだけで、数十人の敵がいる。だけども、こんなところで死ねるのか? という話だ。とどのつまり、連中は烏合の衆だ。
「グレネード・ランチャーは8歳児でも使えるんだってさ」
「へぇ。さすがウィング・シティ。なら撃ってみなよ、ニーナ」
「そうする!」
無邪気な笑みを浮かべながら、新しいオモチャで遊ぶかのように、ニーナはランチャーをぶっ放す。
「ぎゃぁああ!!」
ポン、ポン、ポン……と小気味良い音が響き、その度に悲鳴と爆発音が鳴り響く。これがウィング・シティ。これが、地獄と直結する街。
「次、なに撃とうかな?」
「これなんか良いんじゃない? レールガンだってさ」
「へー! レールガン!! コイルを電気の速度で発射するんだ!」
こうなってくると、どちらが優勢なのか嫌でも分かってくる頃だろう。彼らがここを突破したところで、なにか勲章のひとつでも与えられるわけでもない。対して僕らがここを乗り越えられたとき、それはすなわち死を意味する。同じ場所で対峙する勢力、しかも人数差は数え切れないほどだとしても、心構えだけひとつでこんなに結果が変わるのだ。
そうして、僕がひとまずこの場での勝利を確信し、拡声器で降伏を呼びかけようとしたとき、
シュッ、と、鋭利な刃物のようなものが飛んできた。それはニーナの頬に切り傷を刻む。
「……!?」彼女は頬を抑える。
「ニーナ、伏せていて」
「……、分かった!」
それは、確かに一番後ろに停まっていた車より降りてきた。
白いスリーピーススーツ、緑髪を伸ばしていて、タバコをくわえている。
そんな男前な青年が、数十メートルは離れているであろう距離から僕らへ攻撃したのだ。
「ッたく、うちのおっさんも少しくれェ頭使えよな。あのマルガレーテとカルエ・キャベンディッシュのヤサだぞ、よほどの手慣れがいるに決まってるじゃねェの」
彼はタバコを地面に吐き捨て、スピーカーを持ち出す。
「おい、下部構成員ども!! もうオマエら下がってろ。この女どもはおれがやる」
その声へ呼応するように、ザコたちは彼のために道を開けていく。
やがて、アサルトライフルを構える僕のすぐ近くに彼は立つ。
「グリッド・コールだ。よろしく」
「ああ、こちらこそ」
「で、悪リィけど、オマエらどいてくれねェか?」
「嫌だね」
「ああ、そうかよ。なら二度と聞かねェわ」
緊張が走る場面だ。僕はデバイスに手を持っていこうとする。
が、
またもや刃物のようなものが僕の手を弾いた。
鈍い痛みが手の甲に響く頃、グリッド・コールは退屈そうな表情で、
「なんで、わざわざパワーアップするところを見逃さなきゃならねェの?」
再びタバコをくわえる。彼は続けた。
「オマエのそのデバイス、元はふたつあるうちらの秘密兵器だったんだわ。合衆国の天下を獲りに行くとき、絶対ソイツは大切になってくる。だからまぁ、あれだ」
グリッド・コール。彼は原作でも出てくる。二つ名『無秩序のウルフ』。ブラッドハウンズと対峙する上で、気の抜けた声色とは裏腹に、もっとも恐ろしい強敵のひとりである。
「ウィング・シティと地獄は直通してることを教えてやるよ」
正気度を表すランクはAA。主に使うギアは……、
「ニーナ!! ドック・ヒーラーで壁作って!!」
「え──」
「早く!!」
空気そのものを硬化させ、刃物のように操る能力だ。
「遅せェよ、ガキども」
一か八か、僕はニーナの覚醒にかける。彼女はまだ自身に装着されたギアの能力を理解していないが、同時に能力は窮地でこそ思わぬ展開を広げる。
その結果は──、




