EP2 最強のギアを手に入れに
「あ、そうだ」
「なにさ」
僕はハンドガンを持っているじゃないか。これでなにかできるはずだ。さすがに主人公相手は分が悪すぎるけれど、たとえば……。
「ぎゃァッ!!」
助手席に座っている女に向け、発砲するとか。
「なにしてるのさ!?」
隣の女ザコが喚くが、そんなのを気にしている暇もない。
僕は脅すような(ただし声は可愛い女の子)声色で、
「集合地点を変更して。さもないと、ぼ、私がアンタの頭吹き飛ばす」
「ど、どこに行けっていうんだ!?」
「騒ぐな。ルールは破ってなんぼなのが、ブラッドハウンズの美徳。エレファント・ストリートのグリービルまで行くよ」
「ラーキ!! ボスの勅令を破ったら、私ら消されるよ!?」
「今死ぬか、それとも執行猶予を持つか。私だったら、後者を選ぶね」
「え?」
「ともかく、全速力で飛ばして。着いたら、アンタらは開放する」
というわけで、原作知識を使おう。
このゲームはオープンワールドかつ、クライムアクション。そして、主人公はこの広い世界で〝ギア〟という能力を発現させるデバイスを集めつつ、敵を倒していくわけだ。
なら、主人公がゲームの都合上まだ拾えていない〝ギア〟を強奪すれば良い。幸いなことに、その〝ギア〟は主人公たちが最後のほうで手に入れる代物だ。ここがゲームの世界なら、まだ敵になるNPCを配置していないはず。その隙をつくのだ。
お通夜みたいな雰囲気の中、車はグリービルへと進路を変える。
「ラーキ……、貴方どうしちゃったの?」
「どうもこうもしていないよ。ちょっとまずい未来が視えた感じ」
隣にいる女ザコの名前も知らないが、どうも僕の名はラーキのようだ。一応ゲームの中に設定でもあったか、それともここはゲームの世界に見せかけた別世界なのか。
そんな名前もないモブザコの心配そうな表情をよそに、僕は数キロ程度しか離れていないビルへたどり着く。
「んじゃ、みんなは開放するよ。別に一蓮托生になれ、とまでは言わない」
「ちょ、ちょっと待って」
隣に座って怯えていたザコが、なにか話しかけてきた。
車の中には僕を含めて4人が乗車していた。彼女たちを助けようが助けまいが、僕の計画に支障は出ない。なので、さっさとどこかへ逃げてほしかったが、どうも足がすくんでペダルも踏めないらしい。
「なんだよ」
「私ら、生き残ってブラッドハウンズで成り上がると約束したでしょ? 一体、〝ギア〟持ってない貴方にどんな未来が視えたの?」
「それくらいなら教えるよ」僕は妥協した。「簡潔に言えば、みんな死ぬ。ターゲットのアルファってヤツに、全員なぶり殺される。そんな予感がしたから、ちょっと身を隠そうと思って」
確証なんてどこにもない、とでも思われただろう。そりゃあ、そうだ。僕はこのゲームを良く知っているが、彼女たちは知らないのだから。
ブラッドハウンズのザコ特有の服装──男女ともに共通の格好で、僕も主人公側としてプレイしたとき、散々殺めてきたから分かる。赤いパーカーにワイドデニムパンツ。それに、〝ギア〟等が装着されている様子はない。どうあがいても、女ザコなのは間違いない。
「ど、どこに?」
「それ以上、聞きたい?」
僕は脅すような口調で、女ザコに忠告する。
こんな馬鹿げた話はないだろう、という殺され方でここにいる僕からすれば、また命を粗末に扱いたくない。
それに、今より回収する〝ギア〟は、この作品の中でも最強格と名高い代物。ただし能力の内容はかなりピーキー。それでも、このゲームにドハマリしていた僕だったら絶対に扱い切れる。
そうやって腹つもりを決めていた頃、
「……、分かった。だったら、私らみんな銃捨てる。その代わり、連れて行ってよ。私ら親友でしょ?」
名前も知らない女ザコより、そんな提案があった。