EP27 これから天才になる君たちへ
「ともあれ、おれたちが生き残る術はひとつだけ。ブラッドハウンズを倒し、核を無力化させることだ」
すなわち、合衆国の平和はこの無法者集団に託されているのである。世も末だし、ここがゲーム世界だという仮説はほとんど崩壊している。僕らは今、現実という悪夢と闘う羽目になった。
「うぃー……」
そんな緊迫感あふれる場面に、マルガレーテが現れた。顔は赤く、すでに酔っ払っているように見える。彼女はそのまま、なぜか僕の膝の上に寝そべってきた。
「カルエから訊いたかぁ? ノーベル平和賞受賞計画をぉ」
「うん」
「そうかぁ」
マルガレーテは寝転がったまま、上着を脱ぎ始めた。ますますなにがしたいか分からない。
「なにしているのさ」
「人間に服は必要ねぇだろぉ? あたしは生まれたときの姿に戻るだけだぁ──」
「ルキア」
「うん」
カルエは近くでスマホを弄くっていたルキアより、スタンガンを受け取った。
そして、彼はマルガレーテの胸元にそれをぶつけた。
ビリビリ、と電流が流れ、マルガレーテは静かになるのだった。
「酒癖が悪いんだ、コイツ。しかも酒が強くない」
「一番面倒なヤツだね」どこか緊張の糸が途切れる。「まぁ、あと1ヶ月あるんでしょ? それにある程度調べもついているはずだし、なんとかなるかな」
「楽観主義は良いことだな。どんなときにも、気楽さを見つけられる」
「まぁね」
「さて、ジーターは帰ってきたか?」
「とうの昔に帰ってきてるよ、カルエ。なんなら、ギアも装着させたらしい」
ルキアはドアで仕切られた部屋を指差す。どうやらその部屋にいるようだ。
「なんのギア? ランクB相当だろ」
「アーキーって子が〝マリオネット〟で、ニーナは〝ドック・ヒーラー〟だってさ」
「まぁ、それくらいが限界だろう。髪色変わった?」
「見てみれば?」
「そうするよ。ラーキ、オマエも来い」
「うん」
「なら、うちも行くよ」
そうして、僕とリミ、カルエとルキアは小部屋へ向かっていく。
そこへは、鏡を見て目から光をなくす女たちがいた。
「なんで、あたしはこんな派手なんだ? 青と黄のツートンカラーって……、ガキじゃあるめぇし」
「ピンク髪……? これは悪い夢です。これは悪い夢以外の何物でもない」
アーキーは青が主体の黄色とのツートンカラーヘアになっていた。
ニーナは、アニメキャラかよと言いたくなるようなピンク髪だった。
「似合っているね」
「だね」
僕とリミは髪色が変わっていない。しかも僕に関しては外部デバイスを使っているので、まず金髪から変わることはないだろう。
「どこが似合ってるんだよ!? リミ!!」
「似合ってるよ、アーキー」完全な棒読みだ。
「ラーキ……、美容院行ってきて良い?」
「駄目。また金髪にするつもりでしょ?」
こんな具合で、珍妙な髪色に変わった女ザコたちは嘆き悲しむ。まぁ確かに、青と黄色のツートンカラーだったりピンク髪だったりは嫌だな。
でも、そんなことより大切なことがある。
「ニーナ、アーキー。能力使えるようになった?」
そう、ギアと身体改造を用いた能力だ。髪色なんてそんなに嫌なら染めれば良いだけだが、ギアで得られるものは確認しておかないとならない。
「分かんねぇよ……」
「私も同じ。そもそも、ドック・ヒーラーってなに?」
僕はカルエに目をやる。
「よっしゃ、模擬戦室行くぞ。そこで試そう」
なお、大まかに言ってしまえば、ニーナは回復能力でアーキーは糸使いといったところだ。
といっても、当人たちの前でネタバレしても面白くない。僕はあえて黙ってみる。
そうしてこうして、エレベーターを使って下の階へ降りていく頃、
「ん? ジーターか」
カルエの携帯が鳴った。
「なんだ? ……あァ!? ブラッドハウンズがこのヤサを割った!?」
な、なんと、アクションランキング週間第一位!! 嬉しい!!




