EP25 判定勝ち
「──!?」
マルガレーテは驚愕し、目を見開いた。
しかし、同時に彼女は猛り笑う。
炎の槍がマルガレーテに直撃しかけた頃、彼女は身体改造のブースターを使って僕の背後に回り込む。
「おい、マル!! トレーニングルームが壊れちまうだろうが!!」
カルエの言葉どおり、この白い部屋は真っ黒焦げになっていた。一応槍自体は溶かされたようだが、それでもこの部屋は当分使えないだろう。
そんなカルエの言葉を無視し、マルガレーテは僕の身体に蹴りをくわえようとした。
銃弾や能力による攻撃は反射できても、身体改造等を使った攻撃は反射できないのが、この能力のピーキーさの所以だ。
なので、僕は再びエネルギーのバリアを張る。
されど、超強力なエネルギーを集めたバリアを蹴っても、彼女の改造された脚が壊れた様子はない。
「さすがだね……!!」
「当たり前だろう!! あたしぁ、この街の頂点に立つ女だ!!」
このままではエネルギーバリアすら破られる可能性もある。ここは、新たな可動領域を試すときだ。
僕の全身を包むバリアが消えた。マルガレーテは勝ちを確信したか、手を伸ばして僕のデバイスを奪い取ろうとしたが、
その刹那、僕は空へと飛び立っていた。黒い炭が広がる天井より、僕は手のひらに風を溜め始める。
「おいおい!! 隙だらけだぞ!?」
マルガレーテは、僕がなにをしかけているか分かっているようだった。なら、余計に都合が良い。
瞬間、僕は風を溜めていたはずの手をはらう。
なにをしたか分かっていないマルガレーテに向け、僕は勝利宣言でもするかのごとく、
「マルガレーテさん、アンタは確かに強い。けど、まだまだ人間の域を超えられていない」
「あぁ!? ──なにッ!?」
僕は、はらった小さな風の塊から、触手のようなものを繰り出す。
それはマルガレーテの腹部に突き刺さり、
彼女からエネルギーを奪い始めた。
「クソッ!! てめぇ、あたしのエネルギーを抜くつもりか!?」
「そうだ。解きたきゃ解けよ」淡々とした態度だ。
「クソがぁ!!」
そんな中、
カルエ・キャベンディッシュがその黒い触手みたいなものを切った。
そして、彼は宣言する。
「ラーキ、オマエの判定勝ちだ。それ以上能力を使えば、オマエはサイコ・キラーになる。ただ、マルも今の攻撃を解くすべはない。あんなに炎の槍撃っちまったからな。だろ?」
なんとか僕は勝ったようだ。地面へ降り、デバイスの電源を切る。
「ラーキ……、すごいね」
クタクタになって地面へ倒れるように座る僕のもとへ、リミがやってきた。
「あのマルガレーテさんに勝つなんて。正味、ここでうちらもおしまいだと思ってたけど……ホントに良かった」
「なに言っているのさ。まだ始まったばかりだよ」
一方、カルエはマルガレーテを抑え込んでいた。
「やめとけよ! オマエ、サイコ・キラーになりてェのか!?」
「あたしは負けることが大嫌いなんだよ!! オマエだって知ってるだろうが!!」
「ああ知ってるよ! それでも、今の喧嘩はオマエの負けだ! オマエは盟友の言うことを信じねェのか!?」
僕はリミと顔を合わせ合って、
「これ、どっちが勝ったか分かんないね」
と、疲弊気味に言う。
「ね」
なにはともあれ、これで僕が重大な戦力であることは認められただろう。これから先のことを考えれば、カルエやマルガレーテがバックにいてくれるのは、とてもありがたい。
*
僕は、リミの肩を借りながら屋上まで戻ってきた。かなりの疲れとめまいが、僕の自律神経を食い荒らしているようだ。
「クソッ、あくまでも判定負けだからな?」
「ああ、分かったよ。だから落ち着け、マル」
未だ疲れ知らずの化け物が近くにいるが、もう関わらないでおこう。




