EP21 直感、直感
カルエ・キャベンディッシュは、電話越しにフッと笑った。
『よろしい。一旦集合しよう。そこでおれの味方を見せてやる』
「分かった。住所送っておいて」
『おーう』
電話を切って、僕はみんなの顔色を見る。ことごとく蒼くなっていた。
「なんでそんな顔色になるのさ」
「そりゃおめぇ……」アーキーが良いかけたところにリミが言葉を被せる。「あのカルエ・キャベンディッシュと同盟だよ? あんなの、信用できるわけないよ」
「大丈夫。私がやってきたことに間違い、あった?」
「……ねぇけど」
「だろ、アーキー。でも、気持ちは分かる。なんで私が勝手に決めているんだ、って言いたいんでしょ?」
「……まぁ、そうだな」
「じゃあ、ニーナはどう思う?」
「ラーキならなんとかしてくれると思う!」
「ほら、なんとかなるさ」
無理やりまとめた感は否めないが、彼女たちだって分かっているはずだ。僕の導きがなければ、あしたどころかきょうにも死んでしまうことを。同時に、僕が現れてから人生が少なからずうまく行っている感触もあるだろう。
「イーグル地区のゴールデンビルに向かって。そこに、カルエとその味方がいるらしい」
「うん!」
ニーナはいろんな意味で僕を信じている。その期待に応えなければならない。
*
車に揺られること10分ほど、僕らはゴールデンビルという大層な名前のマンションへたどり着いた。
「うわ、金ピカだ。削ってカネに変えられねぇかな」
「多分金に似せた別物だよ、アーキー。悪趣味だね」
「でもさ、警備員がたくさん配置されてる。ただのカカシではなさそうだよ」
ニーナがそう言うように、ゴールデンビルの付近には数え切れないほどの警備員がいた。要人を守るためのマンションなのだろう。カルエは大物犯罪者であり、しかもその味方となれば資本家なのかもしれない。
「最上階にいるってさ。今から迎えよこすって」
僕はカルエと連絡を取り合い、マンションの近くで腕を組みながら待つ。
「なぁなぁ、何者が潜んでるんだろうな」アーキーはどこか楽しそうだ。
「何者にせよ、最上階だったら逃げ場もないね。あのジェットパックも海に捨てちゃったし」
「不吉なこと言うなよ、リミ。こういうときは楽しまなきゃ損だぜ?」
そんな会話に参加せず、ニーナが僕に近づいてきた。
「ねぇ、直感で言って良い?」ニーナはそう言った。
「なにさ」
「ブラッドハウンズの元ボスのヤサ、と考えたらさ、ここまで警備体制がしっかりしてるのも納得じゃない?」
「ブラッドハウンズの元ボス? 確かあれのボスって、ランクAAAでしょ? まさか」
僕はギョッとした表情になる。どうやったら、ランクAAAというこの街の上位1パーセントの精神力と強さを持つ存在が、ブラッドハウンズほどの組織から追い出されるというのか。
「さっき、〝深層〟で見たんだけどさ、どうもブラッドハウンズのボスは逮捕されてるんだよね」
「マジか。どうやってAAAを逮捕したんだろ」
「ここからも私の直感だけど、部下の代わりに出頭したとか?」
「暴力主義者どものボスが、部下のために出頭するかな?」
「警察も、犯罪組織に舐められっぱなしじゃ終われないでしょ? だから、なんだろ。重要な部下が捕まりそうになったから、なら自分が出頭しますって宣言したとかさ」
「まぁ、なくはないだろうけど。そうしたら、シャバにはいられないんじゃない?」
「そこは分かんないや。でも、大方当たってる気がする」
あのブラッドハウンズのボスが、部下のために自ら出頭を選ぶか? それに、どうあがいても刑事罰を受ける時点で終身刑か死刑は確定だろう。
そうやって疑念を抱いていると、
「ようこそ、お客さん方。私ルキアが案内するわ」




