EP20 窮鼠はネコも噛む
カルエの狙いは別にある。それが僕の結論だが、同時に狙いが分からない。彼は確か、ブラッドハウンズと同盟していたはずだ。それなのに、連中を襲えば同盟どころの話ではなくなってしまう。
「ともかく、家に戻ろう。深層で警察無線が動いているか見て」
「動いてねぇな。アイツら横着し過ぎだろ」
「こちらとしては助かるね……。さて、骨折をどうやって治すか」
ふと思う。
僕の能力はエネルギー操作。エネルギーと名のつくものなら、なんでも操作できるわけだ。命のエネルギーを操れば、骨折くらい治せるかもしれない。
というわけで、僕は骨伝導イヤホンみたいなデバイスの電源をつける。
さらに、右手で骨折しているであろう場所へ触れる。
そして、その推論が正しいことを知る。
「リミ、どこか痛いところある?」
「ラーキのほうが痛いでしょ……?」
「もう治った」
「え?」
「エネルギー操作を侮っちゃいけないよ。この能力は、やりたいことなんでもできるんだから」
「そ、そう」リミは腕が骨折しているようだったので、僕はそこに触れる。「あ、治った。全然痛くない」
「でしょ?」
そんな会話を聞いていたニーナとアーキーは、首を傾げる。僕も同じ立場なら同様の動作をしていただろうから、なにも言わない。
そんな最中、
僕のスマホに電話がかかってきた。非通知だ。
「誰?」
「知らないけど、目星はつく」
「というと?」
「リミ、開けてからのお楽しみだよ」
僕は電話に出た。
『よう。名前は?』
「ヒトに名前を尋ねるなら、自分から名乗りなよ」
『おお、悪かったな。おれァカルエ・キャベンディッシュだ』
なお、スピーカーフォンにしているので、この会話は他の3人にも聴こえている。
3人は、雁首揃えるかのように、顔を強張らせた。
ただ、僕はこの3人の女ザコの反応を気にするつもりもない。
「なら名乗る。ラーキだ」
『ラーキ、余計な社交辞令はなしだ。おれと手ェ組まねェか?』
「なんで?」
『ブラッドハウンズをぶっ潰してェからだよ』
「なるほど。なにか揉め事でも?」
『それをオマエへ話す必要、あるか?』
「ないね」
『なら話さん。いちいち話していられるほど、時間に余裕があるわけじゃないんでね』
「で? 具体的にどんな方法でブラッドハウンズを潰すの?」
『ああ。虱潰しにやっていくしかないかね。だが、オマエも大した実力者だろ? それに、人手は多いほうが良い。もちろん、こちらへもかなりの戦力がある』
「実力者」
『そして、オマエらはなぜか知らんが、ブラッドハウンズを裏切ったんだろ?』
「まぁね」
僕らはブラッドハウンズを裏切った。そこから、この物語が始まっている。カルエがどこからその情報を得たか……多分レイ・ウォーカーだろう。彼は口上通り、『カネを払えば、乞食から大統領まで相手してやる』男なのだから。
『今のブラッドハウンズを潰せば、オマエらは安心して買い物に行ける。それに、奪う撮ったヤツらの縄張りを分けてやっても良い。おれたちって、同盟者には誠実的だからな』
「美味しい話だね。ところで、さっき闘っていたマイキーとかいうヤツは?」
『ああ、アイツか』
カルエは通話をカメラモードに切り替えた。
そこには、明らかに拷問にかけられているマイキーがいた。ドリルで腕はえぐられ、足には釘が刺されている。なかなかグロイ。
『悪いけど、今お仕置き中だ。なにか聞きたいことでもあるか?』
「いや、ないよ」
『で、おれとの同盟はどうするよ?』
僕は不敵な笑みを浮かべ、3人の女ザコがうろたえる中、
「受けるよ。僕らは最底辺の無法者、ネズミも同然だ。でも、その気になれば猫も噛めるさ」




