EP19 モスト・ウォンデッド・フェージテイヴ
「銀髪に碧い目、高度な身体改造……カルエ・キャベンディッシュか!?」
ブラッドハウンズのまだ倒しきれていないザコが、あからさまにうろたえ始めた。
そのとき、
カルエは、その男ザコに黒い矢印のような現象を突き刺した。
そして、
彼は爆散した。文字通り、肉塊と化した。
カルエは右耳に小指を突っ込み、フッと指を吹く。
「茶坊主に用はねェ。おい、マイキー。悪リィけど、ここでミンチになってくんねェか?」
「けッ、三下がなに抜かしやがる。ランクBごときがランクAAのおれに敵うとでも?」
「ああ、思うね。オマエ、ランクごときが指標になるとか盲信してるの?」
「していないさ。ただ、忠告してやっただけだ」
「ああ、そうかよ」
カルエとマイキーは、互いに邪気あふれる笑みを浮かべる。
そんな中、
マイキーは身体改造による驚異的な速度で、カルエとの間合いを詰める。
「へェ……」
だが、カルエはなおも笑うだけ。マイキーが身体改造をしていることくらい、さらに普通の人間なら撲殺できることも知っているはずなのに。
刹那、
カルエとマイキーの拳がぶつかった。
パリッ、という電流の音が静かに響いたあと、
それらは大雷鳴のような音へと変わり、青黒い閃光が走る。
「す、すごい……」ニーナは呆然とそれを眺めていたが、動けなくなっている僕とリミを思い出したようだ。彼女は僕を、アーキーはリミを引きずっていく。「ラーキ! もうアイツはあの銀髪に任せて、逃げようよ!! 武器も回収し終えたし!!」
「う、うん……」
僕は顛末を考える。原作では、マイキーはブラッドハウンズの最高幹部のひとり。対してカルエは流転の無法者であり、このゲーム世界? の主人公? アルファの師匠的存在だ。原作でこのふたりが対峙することはないので、さっぱり先が読めないのである。
「ほら、車乗れる!?」ニーナが心配そうに言ってくる。
「乗れるよ……。アサルトライフルが4つ、充分だね」
「良かった……! よし、逃げよう!!」
僕らは急いで車に乗り、その場から立ち去るのだった。
*
ようやくデバイスが動くようになった。僕はひとまず安堵し、夜のウィング・シティの景色を眺めていた。
「ねぇ、ラーキ。さっきのヒトって何者なんだろうね」
バックミラー越しでも、運転しているニーナは怪訝そうな表情をしていた。
「……、〝深層〟に入れば分かるんじゃない」
「え、あのインターネット?」
「うん」
「ちょっと調べてみる」アーキーがスマホを見始めた。
深層Webは、この街において裏社会の連中を調べるのに便利だ。DからAAAまで分類される正気度を示すランクや、どの組織に属しているか、あるいはどの組織のドンであるか分かる。
「…………、とんでもねぇ大物だな」
アーキーは、しばし息を呑み込んだようだった。
「アイツはカルエ・キャベンディッシュ。1年前にモスト・ウォンデッド・フェージテイヴに指定されてて、この街最強の警察署長アラビカを葬ってやがる。アラビカっていえばランクAAA。ブラッドハウンズですらアイツには真っ向から挑もうとしなかったほどだ」
モスト・ウォンデッド・フェージテイヴ。略してMWFは、この街でも最強・最悪の犯罪者に着けられる指名手配。それに加え、アラビカという警察サイド最強の男を倒している。アーキーがゴクリと息を呑み込むのも無理はない。
「でも、なんでそんなヤツが私らを助けるような真似を?」
「さぁ……」僕は骨が折れた痛みに悶えながらも答える。「だけど、アイツだって利己的な実益主義者のはずだ。おそらく、ブラッドハウンズを襲うこと自体に意味があったんだと思う。カルエ・キャベンディッシュくらいの大物なら、武器取引を襲わなくても銃火器なんて手に入るしね」




