EP18 絶体絶命の大チャンス
「んじゃ、行こうか。誰が運転する?」
「私がするよ」リミが運転席へ座る。
「なら、私がナビゲーターだな」アーキーも助手席へ。
「なら、私らは後ろ乗ろうか」
「うん」
僕がこの世界に訪れたときと同じ座順に、全員座った。
「もう刺すなよ? ラーキ」
「刺されるような真似しないでよ、アーキー」
そんな冗談を言い合い、僕らは夕方から夜にかけるウィング・シティを駆け抜けていく。
*
廃工場。ウィング・シティではありふれた存在だ。資本主義の壊滅的な失敗は、こういう犯罪に使われるのがオチなのだろう。
僕は工場の扉の隙間から、中でしっかり武器取引が行われているかを確認した。
中には、十数人ほど、ブラッドハウンズの連中とその友好組織がいる。このままエネルギー操作で扉を吹き飛ばしても、警察は飛んでこないだろうが、大事なのはリミに授けた能力が作動するかどうかだ。
というわけで、僕はリミの肩を叩く。
「これ、邪魔。やっちゃって」
「分かった」
リミはあっさりした態度で答えた。
そして、
彼女は手のひらを鋼鉄の巨大な扉にぶつけた。ガコンッ!! という轟音が響き、同時に僕はデバイスに電源をつける。運動量を操作し、凄まじい速度で空をかけていく。
「な、なんだ!?」
「チクショウ!! あのアバズレを撃ち落とせ!!」
しかし、これはただの囮だ。その証拠に、状況を理解したニーナやアーキー、リミが続々と武器を拾い始めている。それに、僕は向かってくる弾丸をすべて反射できる。銃弾は運動エネルギーを使って飛び跳ねる以上、それらを操れる僕の敵ではない。
「ぐあッ!?」
「チクショウ!! アイツ、弾が効かねェ!?」
「そうだよーん☆」
僕は煽る。おそらく、能力者も配置しているはずだ。それを相手するのは他でもない僕であり、早く現れてくれないと正気度が下がってしまう。
「だいたい回収し終えたぞ!! もうズラがろう!!」
そんなアーキーの声を聞くが、僕はまたもや殺気を感じ取っていた。それは、3人も同様のようだった。
「あーあ。てめェ、ここが誰のシマか分かっているのか?」
スーツを着た黒髪オールバックの巨漢が、葉巻をへし折った。
その刹那、
彼は僕との間合いを一瞬で狭めた。
「てめェ、おれらのエネルギー操作を奪ったガキだろ?」
「だとしたら?」
「こうするだけだ」
彼は、なにやら缶のようなものを僕の顔に投げてきた。当然反射できるし、くらったところで大したダメージが入るとも思えない。
が、
その瞬間、
僕は、身体から力が抜けてしまった。地面へ落下し、その細い身体より鳴るミシミシ……という激痛に悶えた。
「ぐぁあああ!!」
男が降りてくる。
「ソイツは、電磁パルスの小型版だ。デバイスを一時的に無効化できる。おい、まさか対策を考えていなかったとでも……!?」
電磁パルス!? そんなものをくらえば、デバイスが動かなくなってしまう。まずい……。再起動まで、少なく見積もっても数分かかるぞ!?
「ラーキ!!」
そこに、ギアを装着したばかりのリミが突入してくる。彼女は身体強化で男と応戦するが、結果は一目瞭然だった。
「ぐうッ!」
リミは、足を掴まれ宙ぶらりんになる。そして腹部へ拳をねじ込まされ、口より血や唾を撒き散らした。
「このおれ〝マイキー〟に挑もうなんて、おこがましいな。ガキどもが」
絶体絶命だ。警察が来ないのだから、手打ちにしてくれる存在もいない。
クソッ、目が霞んできたぞ……。あばら骨が折れるのって、こんなに痛いのか……。クソッタレが──。
「おいおい、ブラッドハウンズの子犬ちゃん。女いたぶって楽しいか?」
僕は霞んでいく目で、その低い声の主を見る。
そこには、この街のプレイヤーのひとりである〝カルエ・キャベンディッシュ〟がいた。




