EP14 現場からは以上です
「そうだよなぁ。ここ、合衆国だしなぁ」
転生初日にして日本食が恋しいのは、気の所為だろうか。それともなければ、冷凍している段階より味付けがコーラ必須なほど濃いことが分かるからか。
「まぁ、探せば寿司屋とかもあるか」
独り言ばかりつぶやくが、周りを見渡せば〝仮想現実〟に入り込み、ただ座っている女ザコが3人いるだけ。話す相手がいないだけだ。
「万事うまくいくと良いけど」
色々と懸念はあるが、この世界に来てしまったからには、もうそれらを乗り越えなければならない。
というわけで、ピザが焼けた。またもや冷蔵庫に入っていたコーラを取り出し、僕はダイニングテーブルにそれを置く。
「いただきます~」
どう考えても女子ひとり用の量ではないので、あとで彼女たちにも食べてもらおう。
*
「はーっ、食った」
なぜこんなに味が濃い? なんでこんなに一切れの量が多い? 結局、3切れ食べたら満腹になってしまった。時間にして15分くらいで食べ終えた。
こうなると、やることがない。なので、シャワーでも浴びることにした。
「うわ、返り血ついているよ。ばっちぃな」
きょうだけでも結構な人数と闘っているので、赤いパーカーを良く見てみると血しぶきがこびりついている。僕はそれを投げ捨て、ブラジャーだけになる。
「まぁ、女所帯だし」
ウィング・シティはアメリカを舞台に作られたゲーム……もっとも、ここがゲーム世界だという確証はどこにもないにしろ、家の中でも靴を履いて動く。外せる瞬間は、ベッドにいるときとシャワーを浴びるときだ。
というわけで、シャワータイムだ。
僕はシャワールームへ向かい、当然ながら替えの服がないのを知る。もう一度同じパンティーとブラジャー、そして赤いパーカーとワイドパンツを履けと? これでは、ブラッドハウンズの所属員だと勘違い……いや、そもそもそうだったのだが、ともかくそう思われてしまう。
そういうわけで、あしたになったら、なんらかの方法で服を手に入れよう。僕はそう決めた。
「さー、お顔とご対面だ~」
実は、今の僕は自分の顔すらまともに見たこともない。女ザコたちは皆、二重でそれぞれ目だけは特徴があったが、果たしてどうだろうか。
「アーモンド目、って言えば良いのかな」
アーモンドのような形の目だった。ついでに二重。前世を思い返せば、随分変わったものだ。
顔立ちは、良くいえば白人の20代前半。悪く言うとバタ臭い。特段劣っているパーツはないが、凹凸が強くて頬が若干こけている。どうせだったら絶世の美女になりたかったな、と贅沢なことを感じつつ、ブラジャーとパンツを脱ぐ。
「わお」
ピンク色。現場からは以上です。
*
シャンプーとリンス、ボディーソープとタオルは備え付けられているらしい。僕はそれで身体を清め、身体を念入りに拭く。
ふと近くにある時計を見ると、すでに午前3時を回っていた。どおりで眠いはずだ。
「まぁ、レイ・ウォーカーを信じて寝ちゃおうかな」
すでに喋り方も緩慢になっている。
思い返せばたくさんの出来事があった。闇バイトに殺され、女ザコに転生し、ここがゲームの世界か限りなくそれに近い場所だと気が付き、最強クラスだがピーキーな能力を奪い、ブラッドハウンズの追手と闘い、レイ・ウォーカーの依頼を受けてギャング集団のフロンティアの幹部とその仲間を血祭りにし、それの意趣返しに来た幹部を倒してギアを強奪し、他の女ザコどもを戦力にすべく〝仮想現実〟を使ってもらい……僕はようやく眠れるようだ。
「さて、ベッドルーム行くか」
彼女たちは今頃、ファンタジー世界かSF世界で精神力を鍛えているだろう。本当は侵入者が現れても良いよう、彼女たちが一連の特訓を終えるまでは起きていようと思っていたが、もう眠気が限界だ。
「んじゃ、おやすみ。我が世界」
小綺麗なシングルベッドと部屋で、僕は眠りにつくのだった。




