EP13 〝そういう〟関係
結局のところ、精神力の強さがそのまま正気度へと直結するのだ。メンタルが強ければ強いほど、使えるギアや身体改造も増えてくる。
「つっても、みんなが〝仮想現実〟にいる間は無防備だし、僕はちょっと起きているよ。んじゃ、行ってきて」
「あ、ああ」アーキーはそう答えた。
「そうだね……」リミも同様だ。
ふたりはメガネみたいなVR装置を装着し、あちらの世界へ入り込んでいった。ただ、なぜかニーナは装置をつけようとしない。
「どうしたの?」
「ラーキ、貴方一体何者?」
「え?」
「貴方は言っちゃ悪いけど、そんなに頭の良い子じゃなかった。でも今のラーキは万事すべてうまく運んでる。まるで誰かと入れ替わったみたいに。だからもう一度聞く。貴方は、一体何者?」
僕は氷の入ったウィスキーを呑み、
「さぁ。それ知ったところで、ニーナに得あるの?」
淡々と答える。
「……ないよ」
「なら、この話はもうおしまい。でしょ?」
「うん……」
なにやら口惜しそうだが、気にするほどでもない。確かニーナは僕を親友だと言って、動きをあわせてくれた。それでも、正体を明かしたところで彼女になにか得があるとも思えない。今のところ、すべてうまく行っているのだから。
「んじゃ、あれつけて」
「もうひとつ良い?」
「なにさ」
「あのフロンティアの幹部から奪ったギア、一体なんなのさ」
「これ? パソコンで解析するしかないね。まぁ、フロンティアの幹部格のギアだし、結構良いものが入っているんじゃない?」
「それって誰にあげるの?」
「ニーナにあげるよ。身体改造しなきゃギアは埋め込めないから。まずそれしなくちゃ、だけどね」
「……、やっぱり貴方何者なの?」
「そんなに気になる?」
「気になる」
僕は深い溜め息をつき、グラスの向こうからウィング・シティの景色を眺めつつ、
「んじゃ、教えてあげるよ」
これ以上連携を乱したくないので、ニーナだけに正体を明かすことにした。
「私は転生して、この街に来た。それに加えて、どうもこの世界は昔やったゲームと似通っていてさ。だからこのギアも獲得できたわけ」
僕は骨伝導イヤホンみたいなギアを指差す。驚愕に染まり、僕を覗き込んでくるニーナを大して気にすることもなく、
「といっても、ここはゲームの世界じゃない。限りなくその世界に寄せた、異世界ってところかな。その気になればウィング・シティから出ることもできるだろうし」
「……じゃあ、私の知ってるラーキは?」
「さぁ。もしかしたら、人格が統合されたのかもね。私は人殺しや暴力沙汰なんて大嫌いだけど、不思議とそれに抵抗感があんまりない。要するに、君の目の前にいるラーキは、半分が元のラーキ、残りが別世界からやってきた者ってところ」僕は一旦言葉を区切る。これ以上話しても仕方ない。「このことは他言無用で頼むよ。さて、ニーナ。〝仮想現実〟に行っておいで。せっかく奪ったギアも、これじゃただのSDカードと変わらないよ?」
ニーナはこくりと頷いた。僕は立ち上がり、ニーナへVR装置を渡す。
「ファンタジーの世界とSF世界が選べるんだってさ。ふたりともファンタジー選んだみたいだけど、ニーナはどうするの?」
「なら、SFへ行くよ」
「おけい」
「……ねえ、ラーキ」
「質問が多いなぁ。まぁ良いけどさ」
「私のこと、好き?」
「友だちとして? それとも、一蓮托生の盟友?」
「……、分かった。ちょっと行ってくる」
彼女は設定を済ませて、少しすねたような表情で〝仮想現実〟へと潜り込んだ。
「ありゃあ、僕とニーナは元々そういう関係だったのかも」
僕はそうつぶやき、小腹を満たすべく冷凍ピザを電子レンジに入れた。




