EP12 女ザコ、仮想現実の中へ
「クソッ……あたしにこの街から出ていけ、と?」
「ああ、そういうことだ。裏社会から足洗って、カタギとして暮らせ。さもないと……」
僕は照準を彼女の頭に向ける。
「ここで人生が終わる、なんてそんな都合良く訪れない、と思っていただろう? だけど、今まさにそれが接近しているんだ」
どのみち、殺して奪うか受け渡されるかだ。結果は変わらない。
「……、分かったよ。ただ、覚えておけよ。あたしは身体改造もしてあるんだぞ」
「ああ、よく覚えておくよ」
僕は彼女よりギアを受け取った。SDカードほどの大きさで、これを改造した身体に埋め込むことで能力が発現する。
「よし、行こうか。と、その前に」
当然、隠れ家を見られたら厄介だ。僕はハンドガンのストックで彼女の頭を殴り、気絶させる。
「さあ、憂いも断った。行こう」
「ね、ねぇ。ラーキ。どうやって私らに能力を開発するの?」ニーナが怪訝そうな顔で尋ねてきた。「だいたい、身体改造しないとギアも埋め込めないんでしょ? そりゃ片手改造するくらいなら正気度も下がらないだろうけど、ギアでサイコ・キラーになったら元も子もないよね?」
僕はタワーマンションを指差す。
「まず、ヤサへ行こう。きょうはもうお休みの時間だ。だいぶ疲れた」
「え、あ、うん」
*
僕とニーナはタワーマンションの3階へたどり着き、部屋へ入った。
4人で暮らすにしては広すぎる、という感想が浮かんでくるような部屋だった。どうも、レイ・ウォーカーからすると、あのフロンティアの幹部はよほど邪魔だったらしい。
「はーっ」
無駄に大きいテレビの前にあるソファーにもたれ、僕は一息つく。
「やぁ、アーキーにリミ」
あたふたと落ち着かず、そこらを歩き回っている女ザコたちに話しかけてみる。
「というか、アーキーいつの間にかここへ来ていたんだ」
「そりゃ、あんな鉄火場みてぇなところいたら死んじまうからな……」
「傷、治った?」
僕はアーキーに発砲している。一応気を使ってみた。
「あ、ああ。この包帯巻いたら一瞬で治った」
「そりゃ良かった。んじゃ、皆さんにギアを伝授する方法を教えましょうか」
「あ?」これがアーキー。
「は?」これはリミ。
「え、え?」こちらはニーナ。
「AI、知っているよね? ウィング・シティはAIによる〝仮想現実〟の構築を売りに、市の財政を建て直そうとしている。VR器具があれば、スマホひとつでその世界へ入り込めるのさ」
僕は氷の入ったコップにウィスキーを入れ、それをカラカラ揺らす。
VR世界。夢のような話だが、実際僕も夢の中にいると少し思っているので関係ない。
それはそうと、このウィング・シティには器具さえあれば拡張世界へと入ることができる。そこで模擬的な戦闘だったり銃撃戦だったりをして、特訓できるというわけである。
では、この〝仮想現実〟を更に有効活用する方法はないか、という問いだ。
「そ、そりゃ知ってるけど、それがなんになるのさ」
「ニーナ、考えたことはない? 〝仮想現実〟の世界で正気度を上げてしまえば良いって」
「……!!」驚きの表情をあらわにする。
「そう。どうせ仮想の世界で、時間軸も自由に制御できる。こちらでは1時間でも、あっちじゃ30時間って設定もできるでしょ。正気度が上がれば、身体改造もギアも使いやすくなる。どう? 私の言ったこと、間違っているかい?」
闇装置を埋め込ませるのも考えたが、現状それが手に入る街はブラッドハウンズのシマだ。なら、おもちゃのようにしまわれているVR装置を使って、拡張世界で精神力を鍛えてもらえば良い。
「というわけで、そこにあるVR装置使って正気度を上げて。上げ方は……そうだな。あっちの世界じゃ好きなギアを装着できるから、スライムを100匹でも1000匹でも潰して、身体をなれさせることだね。それで正気度を上げれば良い」
行けるかな? 1000PV




