EP11 逃げるは恥だが役に立つ
なぜ殺気を覚えたかは分からない。普通、人間にそんなものを察知できる力はないからだ。
それでも、僕は歩道橋の上よりなにか剣呑な雰囲気を覚えた。
「なぁ、あたしの同僚を痛めつけたの、オマエ?」
ウェーブのかかった茶髪の女がそこにいた。僕は彼女を見上げながら、
「だとしたら?」
「生かしておくわけにはいかないよな」
「だろうね」
彼女は車の残骸に降り立った。コイツ、明らかに先ほどのザコとは違う。おそらくフロンティアの幹部級だろう。
「アイツは良いヤツでさ。カネのねぇ子分を自分の家に住まわせてたんだ」
「へぇ、腐れ外道にも慈悲はあるんだ」
「腐れ外道はどっちだ? オマエが殺りたかったのはアイツだけだろ? それにも関わらず、他の子分までひでぇ目にあわせやがって」
「クズにはお似合いでしょ」
「ハハッ、そうだな」
彼女は一呼吸置き、
「ぶち殺す」
こうして、またもやフロンティアの幹部との対決が始まった。
制限時間は残り6分程度。それ以内に決められないと、サイコ・キラーになってしまう。僕はデバイスの電源をつけ、速攻で相手を倒すべく、
地面を蹴って月よりエネルギーを集める。
「なるほど、なるほど。そのデバイスで能力を使ってるんだな」
だが、彼女は眉一つ動かさない。これからなにが起きるか、そしてどう勝つか見えているかのように。
「だがよォ、デバイスをぶっ壊してしまえばオマエはなにもできねぇよなぁ!?」
コンマ単位の時間で彼女は、
僕の首元まで詰め寄った。
このままでは首を折られる、いや、デバイスを壊されてしまう。なんとか防御姿勢をとろうとするが、もはや人間の動体視力では反応しきれない──。
そんなとき、
バシュッ、と銃弾が聴こえた。
どこから撃たれた? 僕は撃たれていないため、おそらく味方の射撃だ。
「ラーキ!! 人間ひとりじゃ生きていけないよ!」
金髪のセミロングヘアでタレ目の女ザコ、ニーナが地上にいた。彼女は拳銃を持っていて、なんとか幹部の足に銃弾を当てたようだ。
「──てめぇ!!」
「おい、目の前に集中しろよ」
僕は集まった月の光のエネルギーを、彼女にぶつける。
そのときには、勝敗はついていた。
「ぐぉお!?」
地面に着陸し、僕はデバイスの電源を切る。
莫大なエネルギーの塊をぶつけられた所為で、敵幹部は呼吸するのがやっとのようだった。
そんな中、僕の元にニーナが駆け寄ってくる。
「なんで、異変に気がついたの?」
「だって、私らのヤサあそこだよ?」すぐ近くのタワーマンションを指さしてくる。「あそこね。嫌でも見えちゃうし、爆発音もしたもん」
「なるほど……。さて」
僕は一旦溜め息をつき、肩で息をしている敵幹部に告げる。悶える表情が良いな、とか別のことも考えつつ。
「オマエがどこの誰だか知らないけど、私らの邪魔をするなら相応のケジメをつけないといけない。意味、分かるか?」
「し、らねぇよ、アバズレェ!!」
「なら知っておけよ。ギアを差し出せ」
「……は?」
「オマエ、なにかギアを持っているだろ。それを渡せば、ここで見逃してやる」
「いや、始末しないの? ラーキ」
「殺しは好きじゃない。それに、君らへもギアが必要でしょ?」
「え、でも、ギアなんてつけたら正気度が鬼下がりしちゃうよ」
「大丈夫、ギアによる正気度低下を抑える方法も知っているんだ」
「どういうこと?」
「あとで話す。で、早く決めろ」僕はニーナから銃を借りる。「コイツは安物で弾もまっすぐ飛ばないけど、この距離だったら外すこともない」
ギアを失うのは、実質的な死を意味する。そんなのは、僕も敵女幹部も分かっている。この戦国時代のような街で、特別な力をなくしてしまえば、遅かれ早かれ死に至るのだ。
とはいえ、街から尻尾巻いて逃げれば良い話でもある。逃げることは悪ではない。その腹つもりがあるか否かだ。




