EP9 天と地の間
この街で生き抜くには、そして成功を収めるには、結局暴力に頼らざるを得ない。そんなこと、このゲーム世界? では当然の話だった。
「とはいえ、大ボスはまだ生きているだろうね」
パラパラ……と瓦礫が舞い散る中、僕は再びデバイスの電源をつけようとした。
その刹那、
音が、ギターリフみたいな音が響いた。
僕は咄嗟にエネルギー操作のデバイスをつけ、アーキーと敵の間合いに入る。
「え──」
アーキーは未だ、なにが起きているのか分かっていない様子だった。それでも、時間は止まってくれない。僕は音というエネルギーを反射し、敵性にぶつける。
が、
敵の女幹部は、邪気あふれる笑みを浮かべながら、瓦礫を蹴り飛ばして僕らのほうへ向かってくる。
「おうおう、ヒトの家ぶっ壊してやがって。保険は適用されるのかね?」
黒い髪に碧い目、身体には大量の改造が施されている。身長は見上げる必要があるほどだ。
そんな敵幹部の女は、僕とアーキーを指差す。
その瞬間、
アーキーが音とともに吹き飛ばされた。
「音速、って知ってるか? まぁ知らんわけはないよな。中学とかで習う分野だ」敵女はケラケラと笑う。「で、オマエはなぜ立っていられる? 照準はしっかり合わせたぞ?」
「天と地の狭間はここで、そこではアンタの常識じゃ推し量れないことが起きるんだよ」
「へっ、そうかい。ならひとつだけ」
僕は身構え、彼女との間合いを保つ。
だが、
エネルギーを操作できるはずの僕は、一瞬で間合いを狭めてきた彼女に蹴られる。
「あたしは音速そのもの。人間の動体視力でどうにかできると思うなよ?」
嘘だろ、と僕はつぶやきそうになる。
原作知識が正しければ、彼女は音を操作できるが音速で動くことはできなかった。やはりこの世界、ゲームの世界のように見えるが少し改変されている。それも、厄介なほうへ。
とはいえ、もう考えている時間はない。この事態について考えられるとしたら、それは勝ったときだけだ。
「おらぁ!! さっきの大技はもう使えないのか!?」
音速で僕に詰め寄る敵を、現状捉える方法がない。この感じだと、身体改造も施されているだろう。ならば、
僕は、アーキーが囮になるのを覚悟でエネルギー操作を使う。僕自身も音、いや、光の速度であたりを駆け巡る。
「ラーキ!! どこ行ったのさ!?」
「本当だよ、わざわざ人質まで用意してさ……!!」
アーキーが慌てふためくが、まだ敵を目で捉えられていない。捉えられればどうとでもできるが、それができない限りにはどうにもならない。
「ぐっう!!」
アーキーの顔が歪む。彼女は腹部を抱え、その場に膝をついた。
だが、それこそが僕の狙いだ。僕はアーキーの直ぐ側まで近づき、
「──!?」
敵幹部を地面へ叩きつけた。
「な、にが──!!」
ギアの使いすぎで正気度を失わないよう、僕はデバイスの電源を再び切る。
そして、勝利宣言をしていく。
「アンタは音速で動き回れる。なら、この場所から音を一部抜いてしまえば良い。一瞬止まってくれて助かったよ。そうじゃないと、今の可動領域ではこんな芸当できなかったからね」
「クソッ……調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!! ザコが!!」
「まだ暴れるつもりか? もうお得意の音速操作はできないぞ」
「まだあたしにぁ、身体改造があるんだよ!!」
「それがどうしたっていうんだ?」
手のひらより、彼女はなにかビームらしき現象を放った。それは一直線に僕のもとへ向かっていく。それが無駄なあがきなのは、彼女も分かっているだろうに。
またもやデバイスに電源をつけ、
「ぐ、ぉ……!!」
向かってくるエネルギーの向きを変え、僕は彼女にそのままそっくり、エネルギー弾を返す。殺人はしたくないため、致命傷にならないように。
「ラーキ、すげぇな……」
「それより、大丈夫?」
「腹を殴られただけだよ。アイツ、本気で私を殺そうとしてなかったみてぇだ」




