表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄を継ぐ  作者: pink18
17/18

十七話


「ぐぬぬぬっ──、サブちゃん、話が違うじゃねーかっ!? なんで俺が補欠なんだよ!」


 堅太郎がベンチでわめき散らしている。

「ほっほっほ。堅太郎君は我がチームの秘密兵器です」

「でたあぁーーっ! 秘密兵器宣言! 補欠に使う便利な言葉っ! もう騙されねえーからなっ!」


 喜多島は堅太郎を無視して遠くを見つめていた。

「おいコラ、サブちゃん。なんとかいいやがれっ!」

「堅太郎君、一年生でベンチ入りできただけでも凄いじゃないのっ!」

 見かねたかなえが堅太郎をなだめた。

「しかし、かなえさん──」

 納得がいかない堅太郎がフィールドにジト目を向ける。


 発表された優駿高校のスタメンは、キーパー、川田(三年)、フォワード、武(二年)、池添(一年)。ミッドフィルダー、勝春(三年)、福永(一年)。それと、よく知らない上級生、上野と石神。ディフェンダーは、ヨシトミ、フルキチ、エダテルの三人衆に、これまたよく知らない熊沢。


 ──池添と福永はちゃっかり、スタメン入りしてやがる……。


 ぐぐぐと、歯を食いしばる堅太郎。

「どわぁあっーーっ! やっぱり納得いかねえーーっ!」

 堅太郎が手のひらを広げて、虚空をわなわなと揉みしだいていた。

 すると、

「喜多島先生、ご無沙汰しております」

 朝日実業の監督、大間が試合前の挨拶にやってきた。大間が一悶着ひともんちゃくおこしている堅太郎を一瞥してから、

「今年も意気のいい新入生がいるみたいですね……」

 と苦笑いを浮かべる。


「ほっほっほ。個性は尊重してあげませんとね」

 喜多島が穏やかな口調で返す。

「いやはや、なんと言いますか、指導者としましてはやりにくい時代です」

 大間が意味深な言葉をかける。


「ほっほっほ。大間監督、我々指導者は、彼らが目覚めるのをただ見守ってあげるのみ、──ですよ」

「……見守るですか……? はあ──、それでは喜多島監督、今日はお手柔らかにお願い致します」

 大間は深いため息をついてから、頭を下げるとその場を後にした。


 ──うん?

 なんだあの監督。妙に哀愁が漂っていやがるな?


 堅太郎は去り行く大間の背中を見送り、さを晴らすように、勢いよくベンチに腰掛けた。

 

 

 朝日実業ベンチ──、

「ふぅ」

 挨拶を終えた大間は小さく息を吐く。

 そしてガシガシと髪の毛を掻きむしる。


「──なんで、あいつはまだ来ていないんだっ──」

 うな垂れる大間の横で、

「あっれぇー、横山さんまだ来てないんすっか? ラッキー。だったら今日は俺がハットトリック決めちゃいますよ」


 能天気な生徒の発言に、大間は再び、深いため息をついた。


おとこ藤田ふじた直道なおみち、横山さんのいない間に得点王は俺様が頂く!」

 毛量の多い黒髪をビッチリと撫でつけたオールバックの男が、威勢よく息巻いていた。


 喜多島監督同様、観測者としての大間のもとには、毎年、遺伝子保持者が送られてくる。そして、例外なく彼らは突出した才能と引き換えに、強烈な個性を持つ。


 藤田ふじた 直道なおみち。二年、フォワード。彼もまた、遺伝子保持者である。


「ねえ、ねえ、監督、今日は俺のワントップのフォーメーションでいきましょうよ!」

 ──だあぁぁぁ、馴れ馴れしく監督に指図してんじゃねぇ──。


 一昔前なら、ぶん殴ってでも言うことを聞かせてきたが、コンプライアンス問題が騒がれる昨今、そういうわけにもいかない。


「ねえ、ねえ、いいでしょ監督、今日は俺を主役にしてくださいよっ! 必ず期待に応えますからっ!」


「……あぁ、そうだな……、横山がくるまではお前のワントップでいこう……」

「よっしゃあーーっ! やりぃ。漢、藤田、俺様の実力を魅せつけてやるぜっ!」


 ──横山といい、藤田といい、どうしてそう自分勝手なんだ?


「監督、今日の戦術の確認なんですが……」

 礼儀正しい口調でキャプテンが大間のもとに駆け寄ってきた。低姿勢で丁重な物腰。


 朝日実業サッカー部キャプテン。丹内たんない 一哉かずや、三年。彼は遺伝子保持者ではない。


「おお、そうだな。今日は日頃から取り組んできたゾーンプレスを重点的に試す」

「はい。かしこまりました」

 聞き分けの良い丹内は大間のお気に入りだった。丹内だけではない。遺伝子保持者ではないサッカー部員が大間は好きだった。

 忠誠心があり従順。

 大間が得意とするシステマチックな戦術サッカーは、彼らのような歯車になる人間こそが相応しかった。


 それに比べて──、

「丹内さん、ディフェンスとかどーでもいいっしょ? 今日はこの漢、藤田が点をとってかあぁーーつ! バンバン攻めまくりましょうっ!」


 ──こ、こいつ。黙って聞いておけば……。

 大間は才能にあぐらをかき、協調性を軽んじる遺伝子保持者が、大嫌いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ