十六話
朝日実業高校、サッカー部監督。
大間 仁。プロジェクトG──観測班。
二年前に、遺伝子保持者である横山従吾とともに赴任してきた。そして去年、地区予選を制し、全国大会出場を成し遂げた。今年は県大会連覇がかかる。
一見、華やかにみえる経歴も大間は頭を抱えていた。
遺伝子保持者との関わり方。監督経験豊富な大間から見ても彼らの能力は突出している。天才と呼んでも過言ではない。
数々の名門校を渡り歩き、プロ選手の輩出にも立ち会ってきた大間だからこそ、彼らの才能が非凡ではないことを重々に理解していた。
しかし、天才が故に、凡人には扱えないところがある。
──優駿高校、喜多島監督、同じ観測者として、拝見させて頂きますよ。あなたがどうやって彼らを見守っているのかを……。
「ほっほっほ。それでは早速、朝日実業対策の練習といきましょうかね?」
──朝日実業対策!?
全員が喜多島に注目する。
「去年の朝日実業はゾーンプレスを用いた守備的なチームでした。それにエースストライカー横山君のオフェンス力。三年生が抜けた今年も、恐らく同じようなチームに仕上げてくるでしょう」
上級生たちが朝日実業の洗練されたゾーンプレスを思い出して奥歯を噛み締める。
「朝日実業の監督、大間先生は喜多島先生と同じ、数々の名門高校を率いてきた監督なのよ。お互いに手の内は知り尽くしているわ」
かなえが一年生たちに告げた。
「ほっほっほ。大間監督。彼のディフェンス指導は侮れませんよ。そこで──」
喜多島の鼻の穴が大きく開く。
「高さを活かしたポストプレイの練習をします」
──ポストプレイ?
「うちの新戦力としての強みは、堅太郎君の高さと強さです」
──えっ!? 俺っすか!?
喜多島からの指名に堅太郎が目を輝かせた。
「がはははっ。さすがは監督っ! 見る目があるぜっ! 聞いたか? 凡人どもっ!」
「しかし、監督、堅太郎はサッカー未経験者で、まだルールも良く分かってないヤツでして……」
キャプテンの川田が喜多島の提案に不安を覚えた。
「だあー、キャプテン、なにをおっしゃるんですかっ!? サブちゃん、こんなヤツの言うことは聞かない方がいいですぜっ!」
──サブちゃん!?
そう言って堅太郎は不躾な態度で喜多島の肩に手を回した。
「こらこら、堅太郎君っ! 監督になんてことするのっ!」
かなえが慌てて、堅太郎を喜多島から引き剥がす。
「ほっほっほ。堅太郎君はうちのチームに制空権をもたらす存在。彼を使わない手はありませんよ」
「聞いたかっ!? 凡人どもっ! 俺は制空権をもたらす存在っ! この俺を使わない手はなあーーいっ! ガハハハッ!」
勇ましく声をあげる堅太郎だったが、──ところで、
──制空権ってなに?
喜多島の意図をまったく持って理解していなかった。
「制空権っていうのは空中戦を制するってことよ」
かなえが補足する。
「フムフム。なるほどなるほど。つまり、高いパスを俺の頭で落として、味方チームにパスを出す。これが高さを活かしたポストプレイってわけですな!」
「その通りです。それなら鍛え上げられた朝日実業のゾーンプレスも攻略できます」
喜多島が得意げに鼻息を噴射させた。
「しかし、そんな器用な芸当がコイツにできますかね?」
川田の表情が曇る。
「何事も練習あるのみです」
「だあーはっはっはっ! キャプテンなにを弱気な発言を! このサッカー部の英雄、有馬堅太郎を信じなさいっ!」
そう意気込む堅太郎だったが──、
ずこーん。
ばこーん。
どこーん。
──あれっ!?
力任せのヘディングは狙いが定まらず、四方八方へと飛び散った。
一週間後に行われた朝日実業との練習試合。堅太郎はベンチでのスタートになった──。




