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英雄を継ぐ  作者: pink18
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一話

2025年2月14日現在、

この作品はアニセカ小説大賞1の一次選考を通過しており、改稿して良いのか分からない状態です。そこで改訂版としまして、改稿案を別の作品として投稿することに致しました。



もし関係者の方が閲覧するようなことがございましたら、

英雄を継ぐ《改訂版》にも目を通して頂ければ幸いです。



改訂案

スキルの能力を具体的にする

※物語の背景は変更せずに、スキルの能力だけを具体的にすることで、よりアニメ的なワクワク感を演出する。


デメリットとして、リアルなサッカー小説ではなくなるので好みが分かれる可能性有り。どちらのパターンでもいけるように只今準備中です。あくまでも改稿案として。


英雄を継ぐ《改訂版》

https://ncode.syosetu.com/n2539kc/

 

 人は平等ではない。

 命を授かった瞬間に優劣が決まる。

 蛙の子は蛙であって、とんびが鷹を産むわけではない。才覚は親から子へと受け継がれ、それが全てを決める。


 ましてや、アスリートの世界においては、遺伝子スキルがその全てを支配する。

 



 英雄の遺伝子スキルを受け継ぐ者は、自身もまた──英雄となる。

 




 的場まとば さとる 【ラインコードA-3】


 

 冬の風物詩。全国高校サッカー選手権大会、通称──冬の国立。

 サッカー少年にとって憧れの舞台をさとるは病室のベッドの上で眺めていた。

「具合はどうだい?」

 主治医の問いを無視して、悟は食い入るようにテレビ画面に視線を縫い付けている。


「──今年はどこが優勝すると思う?」

 返答を得られなかった主治医が話題を変えて悟に投げかけた。

「やっぱり社台しゃだい高校じゃないですかね。今年のチームは完成度が高いですから」

 サッカー中継を凝視したまま悟が答える。


「社台高校か? 名門校だな。悟君は穴党ではなく本命党だ」

 主治医はそう返すと、悟と一緒になってテレビ画面を見つめていた。


 黄色に黒の縦縞たてじまが入ったユニフォームを着た11番がディフェンダーをかわして、シュートをゴールに叩き込む。

「よしっ!」

 思わず声を上げた悟の拳が、シーツをギュと掴んだまましばらく離さないことを主治医は見逃さなかった。


「サッカーに未練はあるのかい?」

 主治医は自分の質問が野暮だったということに、すぐさま気づいたが手遅れだった。鮮やかなゴールに目を奪われ、衝動的に言葉が口を衝いていた。


「──未練がないと言えば、嘘になります」

 悟はテレビ画面を見据えたまま力のない声をこぼした。


 それもそのはず、的場悟は「サッカーの申し子」と賞賛される稀代の天才サッカー少年だった。

 U-15(第三種中学生年代)のエースストライカーとして、名門社台高校のサッカー部に鳴り物入りで入部。

 入部後まもなく、重度の靭帯断裂を負い、学生生活の大半を治療とリハビリに費やした。ようやく回復した三年の冬。サッカー部に復帰した悟は再び、致命的な怪我を負った。右膝前十字靱帯断裂。それが悟の選手生命を終わらせる致命傷となった。


 今、目の前でゴールを決めた社台高校の背番号11番は本来、悟が背負うはずだったものだ。

 主治医は悟の浮かない表情に、言葉を飲み込んだ。


「俺の夢だったんですけどね、こいつらと一緒に全国制覇してワールドカップで優勝することが……」

 テレビ画面にむけられた悟の視線は、放映されるサッカー中継ではなく、虚空を見つめている。


「──まだ、終わったわけではありませんよ。ワールドカップ優勝の夢は」

 主治医の声に悟は顔を上げた。力強い眼差しに主治医の頬が緩む。


「私もね、若い頃は悟君と同じ、ワールドカップ優勝を夢見るサッカー少年だったんですよ」


「先生が?」

「みえませんか?」

「意外でした」


 悟が知っているサッカー少年たちは、例外なくどこかがぬけていて、白衣を纏った理知的な医師とはイメージがかけ離れていた。


「偏見ですね」

 胸中を見透かされた悟が笑って誤魔化す。

「ポジションは?」

「ボランチでした」

「やっぱり頭いいじゃないですかっ! チームの舵取り役ですよ!」

「たしかにボランチはポルトガル語で『舵取り』『ハンドル』『運転手』を意味する言葉です。──ですが、医学界で使用されるドイツ語ではゼクターと呼ばれます」

「ゼクター?」

「はい、数字の6を差す言葉です。ただの背番号ですね。ドクターだったら良かったんですが……」


 悟が肩をすくめる。主治医はひと回り以上も違う少年の困惑する顔をみて、サッカー経験者同士は世代を問わず、会話が弾むのだと嬉しくなった。


「俺は点を取るのが役割だったから、ディフェンダーや中盤を統率する選手たちを尊敬しているんですよね」

 主治医の思惑通り、悟が会話を続けた。

 何かに取り憑かれたかのようにサッカー中継を見つめていた悟の表情は、あどけない少年のものへと変わっていた。



「遺伝子保持者の話は知っていますか?」

 主治医が淡々と切り出す。



 悟が少し驚いた様子で「噂だけなら」と目を見開いた。

「サッカーに商業価値を見出した日本政府は、歴代の英雄たちの遺伝子から意図的に選手を創り出すことに成功した。覚醒した遺伝子保持者は遺伝子スキルに応じた能力を英雄さながらに発揮することができる」


「ただの噂かと思っていましたから、先生の口から遺伝子保持者の話が出るとは思いませんでしたよ」


「意外ですか?」

「意外ですね」

 悟が怪訝な態度を表現するように眉を跳ね上げて目をすがめた。


「噂話と言いたいところですが……、悟君、単刀直入にお聞きします。遺伝子提供者になるつもりはありませんか?」

「──提供者?」

 唐突に振られた質問に悟はたじろいだ。

「先生、冗談はやめて下さいよ! それに実績のない俺なんかの遺伝子を誰が欲しがるって言うんですか!」



「──すでに悟君が、──遺伝子保持者だったとしたら?」



 悟の脳天が衝撃でかち割られた──。

 母子家庭で育った悟は父親の存在を知らない。デリケートな話だと気遣い母親に尋ねたこともなかった。類稀なサッカーセンス。自分が遺伝子保持者だったとしたら、──全ての辻褄が合う。

 早鐘を打つ拍動に息苦しくなる。


「ま、まさか──」

「遺伝子提供者の名前はプライバシー保護のため公表されません。遺伝子スキル名称は全てコードネームによって管理されています」

 悟がゴクリと喉を鳴らした。


「悟君が保持する遺伝子スキルは、ラインコードA-2名称──『若き俊傑(グラスワンダー)』」


 悟は驚きを押し殺し、冷静に受け止めてから頭の中でもう一度、主治医の言葉をさらい気持ちを落ち着かせた。

「コードネームは提供者の特徴によって名付けられます。差し詰め、悟君が提供者となれば遺伝子スキル名称は、──『領域侵犯クロスオーバー』と言ったところでしょうか」


「ク、クロスオーバー!? それってまさか、右膝前十字靱帯断裂のことですか!?」

 フフフと主治医が融和な笑みを浮かべた。

「悟君、勘繰りすぎですよ。名称なんて俗称にすぎませんから。何でもいいのです。望むのであればコードネームは『人生挫折リタイア』でも構いませんよ」


 主治医は慌てふためく悟のリアクションに、つい悪態をついたが、白い目で睨みあげる青少年に対して、

「ごめんごめん。あまりに面白いからからかいたくなってしまって」

 と即座に詫びを入れた。「ふんっ」膨れっ面の悟が怒りの感情を鼻息に乗せて逃す。


「──先生、ラインコードって何ですか?」

 良いところに気づいたとばかりに主治医が饒舌になった。


「そうそう、それが大事でね。ラインコードのアルファベットは遺伝子スキル系譜ルートを表しているんだ。例えば、悟君が保持する『若き俊傑』(グラスワンダー)は『領域侵犯クロスオーバー』へと引き継がれる。これをラインと呼ぶ。つまりその系譜ルートをラインコードとして区別しているんだ」

「要するに遺伝学上の血縁者ってわけですよね?」

「ご名答! 遺伝子には因子と呼ばれる物があってね。それを掛け合わせていくことで、より優れたアスリートが誕生するっていう理論」


「アルファベットのあとの数字は?」

「配合の回数を示しています。悟君が遺伝子提供者となれば『領域侵犯クロスオーバー』はラインコードA-3となる」


「育成ゲームみたいですね?」

「育成ですか? それは少し違いますね。政府の目的はあくまでも産み出すこと。遺伝子保持者を産み、見守る」

「見守る?」

「遺伝子保持者ということを本人に公表すれば、当事者の人生を狂わせかねない。プレッシャーに押し潰される者。なかにはサッカーに興味を抱かない人間だっているでしょう?」


「だから俺にも知らされなかった──」

「ええ、遺伝子保持者の大多数がその事実を知りません。公にすれば倫理的観点からいっても社会問題になりかねませんからね」

「たしかに」


「プロジェクトG──、日本政府がワールドカップ優勝を目標に水面下で仕掛けた計画です。どうですか? 悟君。一緒にワールドカップ優勝を目指してみませんか?」


 悟は主治医の言葉を聞くと、自分の足に巻かれた大きなギブスに視線を落とした。

「……クロスオーバー。その名称だけ、なんとかなりませんか?」

 主治医が悪戯いたずらっぽく笑う。

「我ながら良いネーミングだと思いますけどね。『領域侵犯クロスオーバー』──境界線を越えて交じり合う。悟君にピッタリだとは思いませんか?」


 悟は目を伏せたまま主治医に尋ねた。

「それはボランチとしての判断ですか?」

「──いえ、ワールドカップ優勝を夢見るサッカー少年としてです」

 悟と主治医は思わず吹き出した。

 顔を見合わせた二人の間に笑みが溢れる。

 

 そうして、稀代の天才と謳われた、的場悟はプレイヤーとしてではなく、遺伝子提供者として、新しい人生へと舵を切ることになった。

 二〇〇二年、日本で初めてワールドカップが開催され、日本代表がワールドカップで初勝利をあげた、記念すべき年のことだった。

 

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