結果
審問員による話し合いは非常にスムーズに進んだ。審問員は事前にリスティ達の言い分を聞いている。その上で話し合うわけだが、彼らの意見が割れることはなかった。話し合いが終了した後、今度は審問会の結果を伝える為にリスティ達が呼ばれた。
審問会部屋に、ガーディアンに連れられてリスティが入って来た。リスティの後に続くのはユージーン、ゼット、ベイン、マオ、レン、マティアス、そしてレオンハルト。彼らはそれぞれ椅子が用意され、並んで腰かけた。他の仲間達は後から入ってきて、リスティ達から離れた場所にまとめて立たされた。
リスティ達と向かい合う位置に、ガーディアンが並んで座っている。彼らは審問会での話し合いを終えた審問員だ。最後まで見届ける為にこの場にいる。
審問員の一人がナナセだ。別室から見ていたナナセは、部屋に入って来たリスティをじっと見つめていた。リスティは少しやつれていた。彼女は落ち着きがなく、どこかイライラしているようにも見える。
(リスティ、こんなにキツい顔立ちだったかな)
ナナセが出会った頃のリスティは、可愛らしい顔立ちで常に笑顔だった。今のリスティは不機嫌そうに口元をへの字に歪め、目元は蛇のように鋭い。
全員が揃った後、ブラックが扉を開けて音もなく静かに入って来た。そして中央に着席し、審問員とリスティ達をそれぞれゆっくりと見回しながら、携えていたムギンをテーブルに置き、口を開いた。
「それでは、第120回審問会を開会します。ハイファミリー同盟の代表であり、ブルーブラッド副リーダーリスティ。ノヴァリス守護団長ユージーン。ブルーブラッドリーダーのマティアス、同所属メンバーでリスティの護衛であるゼット、ベイン、マオの三人。同所属メンバーのレオンハルト。不敗の軍団リーダーのレン。そして各ファミリー所属メンバーであり、シャトルフの扉に侵入した者が十六名。合計二十四名、全員がお揃いですね?」
「……」
リスティはツンとすまして前を向いたままだ。ユージーンが代わって「はい、全員揃っています」と答えた。
「今回の審問会では、あなた方がルールに反し、シャトルフの扉に侵入した件について話し合われました。シャトルフの扉の中は非常に不安定なダンジョンであり、中に入る許可はまだギルドから出ていない状態でした。あなた方は無許可でダンジョンに侵入し、救助に向かった冒険者を見捨てて逃亡しました。この件について、審問員は全員一致で相当の処分が下されるべきだとの意見が出されました」
別室でナナセは固唾をのんで見守っている。審問会の話し合いは既に終わっている。後はブラックに託すだけだ。
リスティは眉間に皺を寄せ、不服そうな顔で黙っていた。ブラックはリスティの顔をちらりと見た後、話を続ける。
「そしてもう一つ、ハイファミリー同盟によるノヴァリスへの干渉についても話し合われました。リスティは自らを『ノヴァリスの女王』と名乗り、ノヴァリスに暮らすドーリア達を実質的に支配しようとしていました」
ユージーンは顔を歪め、審問員として座るガーディアンを睨みつける。
「審問員は『ノヴァリスは誰かが支配する世界であってはならない』との意見で全員一致しています。今回のシャトルフの扉への侵入は、リスティがノヴァリスを意のままにしようとしたことが影響しているのは確かでしょう。よって……」
ブラックは一度言葉を区切り、もう一度リスティ達の顔を見た。
「リスティ以下、ここにいる全員を『ブラックリストレベル3』の処分とすると審問会は決定しました」
「馬鹿な!」
大声を上げ、真っ先に立ち上がったのはユージーンだ。
「おい、ふざけるなよ!」
ゼットも立ち上がってブラックに怒鳴りつけた。
「ブラックリストレベル3についてご説明いたします。あなた方は今後、全ての街への立ち入りが禁じられ、全てのドーリアとの接触も禁じられます。ですが今回、これだけ多くのブラックリスト対象者がいるのは我々も経験がありません。あなた方をこのままノヴァリスに置くことを、不安視する審問員の意見もありました」
リスティをノヴァリスの地に解き放つことを反対したのはナナセだった。ナナセは頷きながら話を聞く。
ブラックは、怒りの表情で今にも椅子から立ち上がりそうなゼット達を涼しい顔で見ながら、話を続けた。
「そこで今回は、特別な措置を取ることにいたしました。ノヴァリス島の外に、いくつかの無人島があることは皆さまもご存じかと思います。その無人島の一つをあなた方の収容所といたします」
「無人島……!?」
リスティはようやく口を開いた。その目は大きく見開き、信じられないと言わんばかりに首を振っている。
「無人島って……?」「俺達、閉じ込められるのか?」などとリスティの後ろに立つ者らも騒ぎ出した。
「心配はいりません、無人島には多くの資源があります。海で魚を捕り、畑を耕しいくつかの作物を育てることもできます。皆様が暮らしていくことは十分に可能です。ただし、島の外に出ることは禁止されます。ポータルの使用もできません」
「そんな、島暮らしなんて嫌よ! 私は家に帰るわ!」
リスティはバンと机を強く叩いた。
「審問会で決定されたことですので、それはできませんよ」
「何が審問会よ! 私は『ノヴァリスの女王』で……」
「お言葉ですが、あなたはノヴァリスの女王ではありません」
ブラックはピシャリと言い返した。
「……ねえ、ブラックリストはいずれ解除されるのよね? 今だけ我慢すればいつか戻れるのよね?」
リスティは今度はブラックに媚びるような笑顔を向けた。
「ブラックリストレベル3の期間について、ご説明いたします。リスティ、ユージーン、マティアス、ゼット、ベイン、マオ、レオンハルト、レン、この八名は無期限となります。処分は永続的に実行されます。これに関して例外はありません。そして他の十六名は、リスティらの命令に従っただけとみなし、期間は一年間とします」
「そんな……どうして私達だけ無期限なの?」
リスティの顔に絶望が浮かぶ。
「おい、無期限なんて嘘だろ……?」
動揺するゼット。諦めたような顔でうなだれるレンやマティアス、ベイン。顔を手で覆い、泣き出すマオ。拳に力を込め、机を激しく叩くユージーン。腕組みをして審問員を睨むレオンハルト。
彼らは皆動揺していた。まさかこのような厳しい処分を下されるとは、誰も思っていなかったのだ。ほんの少し謹慎し、反省しているふりをして処分を解除させ、また元通りの生活に戻れると誰もが思っていた。
一年間のブラックリスト処分を受けた他の者達は、お互い顔を見合わせながら明らかにホッとした顔をしていた。そんな彼らをリスティは睨みつけ、彼らは怯えたように顔を逸らした。
「それでは今から全員を島へ移送します」
ブラックは事務的にテキパキと事を進めた。部屋の外から数体のガーディアンが入ってきて、一度に大人数を運べるポータルの鍵を使い、彼らを島へ移動させていく。
「待ってくれ! 俺は行きたくない!」
「ねえ、せめて友達と話させてよ!」
彼らは悲痛な叫びを残し、どんどん光を残して消えていく。
「次はあなた達で最後です」
ガーディアンはリスティにそう告げると、彼女の足元にポータルの鍵を落とした。
「ねえ、やめてよ、お願い……」
がくりと膝をつき、ガーディアンを見上げるリスティと、彼女を守るように周囲を固めるゼットやユージーン達。
光はあっという間にリスティ達を覆い、そして消えていった。
明日完結します。残り二話、よろしくお願いします。