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ノスフェラトゥ   作者: 小豆茄子
序章 人外浮上編
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第四話 力

 風を纏う剣士、炎を操る魔法使い、攻防一体の盾、光装の天使、各々が持てる戦力で魔物を屠った。

 しかしこの戦闘の中、パーティー内で最も魔物を他に伏せたのは彼らではなかった。

 ダンジョンに横たわる魔物の死骸。

 その多くはルシアンによって作り出されたものだった。

 ルシアンには彼らのように目立った武器も魔法を待ち合わせてはいない。

 魔法に至ってはそもそも彼は魔法の扱いどころか魔力の扱いも下手だ。

 種族にもよるが、特に人間の肉体は魔物の攻撃に対してあまりに脆い。

 その脆さを補う為、本来冒険者は大なり小なり身に宿る魔力を操り、その肉体を強化している。

 その手段は基礎的な魔力強化から強化魔法に至るまでさまざまだが、少なくとも何かしらの手段で彼らは本来よりも優れた肉体パフォーマンスを実現していた。

 いわば魔力とは、目に見えない鎧のような物だ。

 

 ではそれが出来ないルシアンは彼らと比べたら圧倒的に脆いのか。

 答えは否だ。

 

 ——七ッ!


 ルシアンは討伐数を唱えながら、今し方短剣で切り伏せた魔物の死骸から目を離して次なる獲物に狙いを定める。

 目指すは槍を持ったゴブリン。

 姿勢を低くして、手に持った愛剣を逆手に持つと、力一杯に地面を蹴った。

 そのあまりの鬼気迫る姿にゴブリンは怖気付き、背を向けようとした。

 が、その暇なくもなくゴブリンの首は彼の剣によって一閃に切り落とされ、残った胴体が力なく倒れた。

 

 ——八!


 背後からの気配に気付き、身体を横に逸らしながら振り返る。

 もう一体の槍持ちのゴブリンが彼の横腹があった場所にその切先を突き立てたのだ。

 ルシアンは槍の柄を持つと握り手の力を強め、小枝のようにそのまま握り潰した。


「ゴガッ!?」


 呆気に取られていたゴブリンだったが、次の瞬間には彼の体は後方に吹っ飛び、数メートル先の壁に勢いよく叩きつけられた。 

 ルシアンの豪脚によって蹴り飛ばされたのだ。

 叩きつけられたゴブリンは血を吐くと、そのままずり落ちて動かなくなった。

 おそらく肋骨が折れて内臓に突き刺さったのだろう。

 あるいは衝撃で内臓が破裂したかのどちらか、或いはその両方か。


「九、っと」

 

 彼が数えたゴブリンが最後の一体だった。

 魔物がいなくなったを確認すると、ルシアンとダイはガレオ達の元へと集まった。

 

「相変わらずすごい身体能力だな」


 ガレオは素直にルシアンの戦いを賞賛した。


 そう、彼の言う通りルシアンの強みはその人間離れした身体能力だ。

 膂力、瞬発力、動体視力、持久力、ガタイこそガレオのほうが優っているものの、肉体強度はルシアンが圧倒していた。

 そしてその優劣は魔力強化をしても尚覆らない。


「素でこれだろ? 魔力強化したらどうなるんだか……」

「獣人かなんかとのハーフなんじゃない?」

「耳も二つだしそこまで毛深くねぇよ。……魔力強化は……まじで苦手なんだよな。みんなどうやってんの?」


 ダイとアリエルの言葉にそう返した。

 彼としても魔力による肉体の強化幅は非常に魅力的だ。

 もし使いこなすことができれば大きな戦力になるのは必然だが、出来なものは出来ないのだ。


「この前、ギルドにある訓練用の魔力測定器を壊してた」

「受付嬢さんにすごく怒られてましたね」

「あれの弁償代無茶苦茶高かったんだよな」

「魔力が全くないわけではないんだな」


 クエストの休憩がてらの束の間の団欒。

 ルシアンとアリエルは基本的にソロでクエストを行うが、ダイのパーティーとそれなりに絡みがある。

 ルシアンはギルドに入ってままない頃は、経験のためにダイのパーティーとよくクエストを同行していた。

 アリエルはクエストのとある一件でルシアンと親しくなり、そことのつながりでよくダイのパーティーとも親交がある。

 冒険者とはいわば皆個人事情主のようなもので、いうなれば全員が競争相手だ。

 だがやはり個人で出来ることには限りがあるのもまた事実だ。

 今回のような受注条件が決められたクエストが最たる例だ。

 命懸けの場面で背中を預ける以上、その相手は信頼のおける者でなければならない。

 

「次の階層がラストなんだよね?」


 アリエルは指に髪を巻く仕草を行いながらダイに尋ねた。


「学者が言うにはそうらしいですね。あくまで予想ですけど、ダンジョンの装飾や造り的には次の階層が最後だそうです」


 実を言うとこのダンジョンに踏み入ったのは彼らが初めてではない。

 このダンジョンが発見され、はじめに探索を行ったのは『テイマー』が操る小動物だ。

 テイマーとは小動物を魔法で操る、もしくは地道な躾で飼い慣らす者のことだ。

 戦闘職ではないものの、彼らのギルド内にも偵察や周囲の警戒の役割として何人か在籍している。

 このような内装が未知のダンジョンは大抵誰かが入る前にまず小動物か使い魔が先行する。

 小さくて軽い動物なら罠が発動しにくい上に、視覚を共有して操れば魔物にも見つかりにくい。


「報告書によると、何度か動物に偵察させたらしいんですけど……全部この階層で引き返してるみたいです。その理由はまぁ見ての通り」


 ダイは魔物の死体に目線をやる。

 この部屋はこの階層の最深部だ。

 そこにこれだけの魔物が密集していたのなら、確かに小動物は先に進むことが出来ないだろう。

 小動物がここで引き返す理由は分かった、しかし問題は。


「なぜこの階層に魔物が集中しているのか……か」


 ガレオが縦を磨きながら訝しげな表情で呟いた。

 彼の言う通り、他の階層に比べてこの階層は明らかに魔物の数が多い。


「こういう場合の原因は主に三つ」

 

 イリアスが皆に対して指を三本立てて見せた。


「一つ目、次の階層が物理的に進行不可能。この場合は引き返して依頼主に報告すればいい。一番楽。二つ目、この先に更に多くの魔物が潜んでいる。この階層の魔物はただ溢れた奴らに過ぎない。そして三つ目」


 彼女は原因を一つ話すたびに指を折り曲げていく。

 ほかの皆は、特に最も経験が薄いルシアンはその話を真剣に聞いていた。


「三つ目、この先に他の魔物より圧倒的に強い魔物がいる。いわゆるダンジョンのボス。他の魔物たちはそいつにこの階層まで追いやられた」


 この三つの中では特に最後が厄介だ。

 二つ目の場合はやること自体は今までと同じだ。

 ヒットアンドアウェイで地道に討伐していくのも良い。

 しかし三つ目の場合、つまりはこの階層にいた魔物をまとめて追いやるほどの魔物が潜んでいることになる。

 おそらくここの魔物に比べて強さは数段上だろう。


「私はまだ魔力にかなり余裕がある。先に進んでも問題ない」

「わ、私もまだまだ大丈夫です! 皆さん特に怪我をしてないので」

「私も全然いけるよ」

「俺も」

「右に同じく」


 皆が前進の意思を告げ、最後のダイの方を見た。

 このパーティーの事実上のリーダーは彼だ。

 彼が引き返すといえば皆それに納得するだろう。

 一度ダンジョンを抜けて、万全の状態で挑むもよし。

 ここまでの報酬を受け取って、他のパーティーに引き継いでもらうのも可能だ。

 そして彼の選択は。


「よし! 行こう!」


 彼の選択は前進だった。

 それを聞いた他の者たちも顔を見合わせて笑う。


「正直ここにくるまで大した魔物もいなかったしな。ガーゴイルとホフゴブリンくらい? そいつらもアリエルさんとルシアンが速攻で倒したし」


 余裕そうに肩を回して言った。


「手柄が欲しいわけだ」

「まぁな、少なくとも下の等級に負けてられねぇよ」


 ダイがルシアンに肩を組みながら彼の腹を軽くこずいた。

 ルシアンがお返しに頭をはたく。


 その後、六人は数度のやり取りを交わし、次なる階層に向けて歩き出した。











 その選択が間違いだとは知らずに。

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