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ノスフェラトゥ   作者: 小豆茄子
序章 人外浮上編
3/27

第三話 冒険者

 薄暗いダンジョンの一部屋。

 次の階層進むまでの最後の広間で、魔物と冒険者たちによる熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 

 ——ここさえ潜り抜ければ最下層は目前! のはずだ!!


 ダイパーティーの盾役——ガレオは後衛の冒険者を背に、戦況を俯瞰的に見下ろした。

 彼らの現パーティーは六人、皆これといった負傷も無い。

 対して彼らに襲いかかる魔物たちの数はざっと三倍ほど。

 数的有利こそ向こうにあるが、実際の戦況は冒険者側が圧倒していた。


 ――今のところ順調……だが油断は禁物だな


 ガレオを顔引き締めながら、自分の体を覆えるほどの巨大な盾を構え直した。

 彼のパーティー内での役目は後衛冒険者の守護。

 複数人による団結した戦闘において、継続的な後続支援はパーティーの生存率の向上に大きく貢献する。

 彼が命を賭けて盾となることで後衛冒険者の命の安全を保証することで、後衛冒険者たちも前衛への支援に専念できる。

 ガレオは周囲の警戒を怠ることなく、目の前で戦う前衛冒険者の姿を見た。

 その一人が彼らのパーティーリーダーであるダイだ。

 

「はあぁぁぁぁっ!!!」


 鬼気迫る声と同時に、目の前の魔物に向けて片手剣を振り下ろす。 

 巨大なネズミのような魔物は、迫り来る刃に対して獣の反射神経で咄嗟にバックステップで回避した。

 一見、彼の剣は魔物の体毛を少し掠る程度に終わったが現実は違う。

 一瞬彼の刀身が淀んで見えた後、魔物の体が切り裂かれ、血を吹いて倒れた。

 それを見たダイがニヤリと笑う。

 彼は自分の短剣に小規模の風の魔法を纏わせることで、光の屈折による視認性の低下と風の刃による単純な殺傷力と射程を向上させたのだ。

 彼はこの戦闘法によって派手さこそないものの着実に戦果を上げてきた。


「! ガレオ! そっち二体行ったぞ!」


 ダイが振り返り、ガレオたちに注意を促す。

 言われるまでもなく把握していたガレオは自身の方へ向かってくる二体のゴブリンを見た。

 一体は縦を警戒して側面から、不恰好な弓を構えて彼らに狙いを定めている。

 もう一体はその子供程度の体躯に見合った鈍器を握り締め、馬鹿正直に真正面から駆け寄ってくる。


 

「弓は私がやる」

 

 彼の後ろで一人のメガネを掛けた少女が一歩前に出た。

 彼女の名前はイリアス、ダイのパーティーで魔法使いの役割を担っている。

 彼女は自分の身長はどの木の根を絡めたような杖を前に構えて体内の魔力を練った。

 本来より短縮した詠唱を素早く唱え、覚えた術式を体内で構築する。

 そして杖で標的に標準を定め、練り上げた魔力を術式に流し込んだ。

 一瞬の魔力の起こりと共にそれは発動した。


「——『カルド』——!」


 彼女の杖から直径二十センチほどの火球が放たれ、ゴブリン目掛けて直進した。

 ゴブリンは避ける間もなく炎に包まれ、引いていた矢から手を離してその場で熱さにのたうち回る。

 しかしその手放した矢は弦に弾かれてそのまま放たれ、偶然にもガレオ達の頭上に放たれた。

 

「大丈夫です」


 その矢に対してパーティーの神官の少女リーエンは焦る様子もなく呟いた。

 手にはイリアスとは違い、金属製で装飾が散りばめられた杖を持っている。

 彼女たちに降り注いだ矢は突如不可解な軌道に捻じ曲がり、少し離れた地面に落ちた。

 まるで矢が一人でに彼女たちを避けたように見えたその現象。

 しかし実際に矢は彼女たちを避けたのだ。

 『矢避けの加護』、これはリーエンが生まれつき神から授かった奇跡だ。

 この加護によって彼女と彼女の周囲にいる者は、飛び道具から身を守られている。

 最も避ける得物は纏う魔力や質量、授かった者の力量によって上限がある。

 これを見誤って死亡するケースも稀にある。


「ナイスだ二人とも!」


 ガレオはそう言いながら自身に迫ってくるゴブリンに盾を構えた。

 振り下ろされた鈍器を盾で軽々と弾くと、盾の裏に備え付けられたナイフを素早く引き抜き、ゴブリンの脇腹目掛けて深く突き刺した。

 刺したナイフを若干上方向に動かして内臓を切り裂くとすぐに引き抜き、痛みにうずくまる体をそのまま盾で突き飛ばした。


「グオオオオオォォォ!!!」


 ふと上に視線を向けると、今まで様子を見ていた魔物二体が満を辞して彼らに向かってきた。

 それは有翼の生ける石像、ガーゴイルだった。


「ここは私がやるよ」

 

 迫り来るガーゴイルを見て、同じく様子を見ていたアリエルが名乗りを上げた。

 彼女は右手を前に出すと、頭上に浮かぶ光輪が光を増して手元に移る。

 そして光輪は彼女の手の中で形を変え、一組の光り輝く弓矢となって彼女の手に収まった。

 彼女は素早く矢をつがえ、ガーゴイルたちとは別の方向に放った。


「え!?」


 その行動にリーエンが驚く。

 しかし放たれた矢は軌道を変え、美しい放物線を描きながらガーゴイルの側頭部貫いた。

 それだけにとどまらず、頭部を貫通した矢はそのまま突き進み、もう一体のガーゴイルの頭部も同じように貫いた。

 空中で絶命した彼らはそのまま落下し、地面と衝突すると同時に砕けた。


「すごい……」


 リーエンは無意識に感嘆の声を漏らす。

 三等級冒険者、五等級の彼女たちとは階級に2つの差があるが、実際の大きさはそれ以上に大きいと実感させられる。


「だいぶ片付いてきたね」


 アリエルが周囲を見渡しながら光の弓を手放す。

 弓は地に落ちることなく光輪へと形を戻すと、彼女の頭上へと帰った。

 魔物の数は残りわずか。

 彼女は残り一人の七等級冒険者へと目を向けた。

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