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ノスフェラトゥ   作者: 小豆茄子
序章 人外浮上編
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第二話 誘い

 ルシアンはとある建物の中にある食堂で朝食を食べていた。

 カラッと焼き上げられたチキンのオリーブ風味。

 程よく焼き色がついた柔らかいパン。 

 色とりどりのサラダと、朝イチで牧場から送られてきた新鮮なミルク。 

 目の前に広がる料理は彼にとって申し分ない、いやこれ以上ないほどのご機嫌な朝食だ。

 にも関わらずそれを食する彼は浮かない顔をしていた。

 その原因はズバリ目の前にあるノイズのせいだ。


「でさ! 俺がその子に冒険者だって言うとさぁ、その子が何等級なんですか? って尋ねてきたわけ! 俺は何食わぬ顔で……五等級かな? って答えたのよ! そしたらその子なんて言ったと思う?」

  

 この若い男の名はダイ。

 冒険者ギルドに所属する冒険者のうちの一人であり、ルシアンの同業者だ。


 そう、この食堂は冒険者ギルドに備え付けられた施設のうちの一つである。

 ルシアンは半年ほど前にこのギルドに所属し、数年前から所属しているダイとは先輩後輩の間柄である。

 だが二人は歳が近い上に気が合うため、今では普通の友人のように接している。


「なんて言ったと思う?」


 ルシアンがチキンを咀嚼し終える前に回答を求めるダイ。

 ルシアンは鬱陶しそうに口を動かし、ミルクの注がれた木製カップの縁を口に運んで口内のものを胃に流し込んだ。

 全て飲み込み終えるとようやく口を開く。

 そしてパンを手にとって再び口に運ぼうとしたところでダイに手で静止された。


「なんて言ったと思う?」


 彼のあまりのしつこさに思わず舌打ちしそうになるが、グッと堪えて観念したように質問を質問で返した。


「なんて言ったんだ?」

「五等級は微妙じゃない? だってよ!! ありえねぇだろ!!」

「ギルド関係者いないからすればそんなもんだろ」


 先ほどから彼が言う五等級というのは、ギルドから冒険者に対して与えられる階級のことだ。

 十等級から始まり、一番上の一等級。

 計十等級の階級が存在する。

 そしてダイの階級は五等級、ルシアンは七等級だ。

 一見ダイの五等級は階級の真ん中付近であり微妙に見える。

 が、三等級以上の階級をもつ冒険者は、それ以下の冒険者とは一線を画す。

 多くの冒険者の階級は四等級で頭打ちになることを考えると、若くして五等級のダイは大したものだ。

 ダイ自身もそのことは自覚している。


「……で?」


 目の前で愚痴を続けるダイの言葉を遮る。


「本当は何しに来た? そんな話をするために俺の朝食を邪魔しにきた訳じゃないだろ?」


 彼のその言葉を聞いて、ダイはニヤリと笑う。


「流石だな」


 ダイはそう言うと、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

 机の上に広げられたそれを見ると、どうやらギルドから出されたクエストの依頼書だった。


「先日新しいダンジョンが発見された。必死の思いでそれのクエストを勝ち取ったんだが、パーティー人数に下限があってな。じゃあお前も一緒にどうだというわけよ」

「それ先に言えよ」

「アイスブレイクだよ。朝っぱらから仕事の話なんて辛気臭いだろ?」

「お前の愚痴より百倍マシだ」


 嫌味を言いながら依頼書を手に取る。

 新しく発見されたダンジョンの探索、及びそこに巣食う魔物の駆除。

 

「ほぼほぼ後者が主題だな」

「まぁな。ダンジョンの本格的な探索なんて学者かそれを雇った奴がやるだろ。どうせ宝見つけても俺たちには入ってこないし。俺たちは階層と魔物の駆除がてら見つけた罠なんかを報告しとけばいい」

「ふむ……」


 ダイの言う通り、ダンジョンで発見した宝はほとんどの場合冒険者の手に渡らない。

 ダンジョンとは古代文明の遺物、歴史的価値のあるものは個人よりも国の所有物になることが殆どだ。

 だが歴史的価値の程度に限らず、ダンジョン系のクエストは報酬が高い。

 そこら辺に湧いた魔物を駆除するよりは面白みもある。

 諸々の理由で冒険者には人気のクエストの一種だ。

 ダンジョン未体験のルシアンからしても非常に興味がある。


「同行することに関してはやぶさかではないんだが……」


 彼は前向きな返答をしつつも、依頼書の一部分に疑問符を浮かべた。

 それはこのクエストの受注条件だ。

 依頼書のその欄に書かれていたのは、七等級以上の冒険者六人以上、その内一人以上は三等級以上の冒険者を同行させること。


「お前のパーティが四人、俺を合わせて五人。全員三等級未満だから最低人数で挑む場合は残り一人が三等級以上か」

「あぁ、それなら――」

「それは私だよ」


 ダイの言葉を遮って若い女が彼らの前に現れた。

 肩まで伸ばした桃色の髪、非常に整った顔立ちにスタイル。

 しかしそれらよりも目を惹くのは彼女の頭上に浮かぶ一つの光輪だった。

 

「アリエルか」

「おはよう、ルシアン」


 彼女は軽い挨拶を交わすと、ルシアンの横の椅子を引いて腰掛けた。

 

「朝一でアリエルさんにたまたま会えたんだ。ダメ元で頼んでみたら快くオーケーしてくれた」

「そーゆーこと」


 アリエル、またの名を『光装のアリエル』はこのギルドに所属する数少ない三等級冒険者、その一人だ。

 整った容姿に、若くして三等級に登り詰めた高い実力、おまけにあまり国外に出ないため珍しい『天使』という種族。

 これらの要素から彼女は他の冒険者の間でも非常に有名で、その名は他のギルドの間にも広まっている。


「ダンジョン系のクエストはしばらく行ってなかったし、誘ってくれたのはむしろ感謝なんだよねぇ」


 彼女はそう言いながらルシアンの皿からパンを人からつまみ、素早く口に放り込んだ。

 

「は?」


 ルシアンは抗議の目を彼女に向けるが、当然のように気にする様子もない。


「俺たちのパーティが前衛二人で後衛が二人、前衛のうち一人はタンクだ」

「私は前後どっちでもいけるけど、どっちかというと後衛だからね」

「じゃあバランス的に残り前衛一人誰にするかってなって、お前に白羽の矢がたったわけ。改めて聞くけどどうする?」


 ダイがそう聴きながらルシアンを人差し指で指す。

 アリエルも口をモゴモゴと動かしながら同じように両手の人差し指で彼を指した。

 そしてルシアンの返答は言うまでもなく。

 

「いつ出発だ?」

「グッド!」


 ダイは意気揚々と立ち上がる。

 クエストの依頼書を掴むと、クエスト受付カウンターの方を向きながらこう言う。


「出発は三時間後だ。各々準備ができたら時間までにギルド玄関前に集合! 持ち物は任せるが……もうダンジョンや狭所のセオリーぐらいわかるだろ?」

「まて、結局六人で行くのか?」

「あぁ、分け前減るしな。アリエルさんがいるなら大丈夫だろ!」


 ダイはそう言い残して受付カウンターの方へと歩いて行った。

 アリエルも口元をハンカチで拭きながら立ち上がり、ご馳走様と行って立ち去っていく。

 後に残されたのはルシアンは他人に完食された皿を見つめながら、唯一残ったミルクを飲み干すと二人と同様に立ち上がり、装備を整えに自室へと向かった。

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