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第6話 森のクマさん?

ボード家の広い屋敷を出るのは、結構時間がかかった。庭も無駄に広い。涼子は運動好きなので問題なかったが、身体を動かすのが苦手な人はちょっと苦しい距離だった。


 ボード家を出ると、すぐ隣にも大きな屋敷があるのが見えた。ボード家は白い壁で爽やかな雰囲気の家だが、隣の屋敷は金ピカな飾りがいっぱいつけられて、少々下品な雰囲気も否めなかった。玄関先の門には赤色の提灯などがぶら下がり、失礼ながら元いた世界にあるラブホのような雰囲気にも見えてしまった。どことなく胡散臭いのだ。


「アシュリー、この家は誰のもの?」


 隣の家を指差しながら聞いてみた。


「この家は、クリケット村の村長の家ね」

「へえ。村長なんているんだ」

「一応民主主義で選挙もやってるね。でも、うちの国はドラゴンライト教の影響が強いのよね」


 アシュリーは、あまりこの話題をしたく無いようだった。早歩きで村長の家の前を通りすぎた。しばらく住宅街のような細い道を歩いていた。村というからには、農業や酪農が盛んそうなイメージもあったが、白くて四角いサイコロみたいな家が連なっている。本当にこれが住宅街なのか疑問に思ってきた。庭や洗濯ものも無いし、生活感も薄い。子供やペットの姿も見かけない。


 空はまるでトルコ石のように鮮やかな青。この四角い建物も色合いは綺麗な青空とマッチしていたが、清潔すぎる感じもした。


「アシュリー、この建物は何なの?」

「あぁ、これね。いずれわかるわ」

「え?」

「まあ、良いじゃない。次は森に入りましょう。ここに住んでいるアランって人が日本人の血が入っているの。私と幼馴染でもあるから、事情を話せばわかってくれるはず」


 どうもアシュリーは、何か秘密がありそうだった。話したく無い事もあるようだったが、日本人らしく空気を読み、深くツッコミを入れるのをやめておいた。


 日差しは強く、歩いているだけでも汗ばんでいるが、森に入るとぐっと涼しい。森の木々のおかげで日差しが遮られているようだった。木の葉の緑も濃く、日本の森に近い雰囲気だった。ただ、時々日本では見た事もないような小動物もいた。リスのような形だが、顔はシマエナのような動物で、ここはやっぱり異世界なのだと実感させられた。


 風が吹き抜け、木々のざわめきが耳につく。


「こんな森に誰が住んでるの? 魔女でも住んでるみたい」


 メンタルが太めな涼子だが、だんだんと怖くなってきた。こんな人気がない森に女二人で居ていいものだろうか。


「涼子、大丈夫よ。この国は案外治安がいいから」

「そうなの?」

「ええ。死刑になる罪も多いからね。あとドラゴンライト教の影響も大きいかな。悪い事すると地獄に落ちるっていう教えで、いっぱい善い行いをすると天国に行けるらしい」

「へー」


 一般的日本人であり、初詣ぐらいしか行った事のない涼子はカルチャーショックだった。


「この森も、ドラゴンライト級の聖女や神官達が植林して作ったの。化学技術の発展で、かなり環境も破壊されていてね。このままだと地獄に落ちるかもって頑張ったみたい。おかげでこの国はリサイクルやエコが大ブーム中よ。店で買い物しても袋は無料じゃないのよ。微妙に不便で嫌になっちゃう」


 こう聞くと元いた世界と文明については、あまり違いはなさそうだった。アシュリーによるとスマートフォンやパソコンはまだないようだが、電気やガス、水道は通っているようだ。元いた世界でいえば昭和末期から平成初期ぐらいの文化だろうか。アシュリーのメイド服をよく見てみたが、どう見ても既製品で、手作りでは無いようだ。


 とりあえず未開の地ではない事を安心する。料理好きである涼子は、頭の中に一つの疑問が浮かんだ。


「ところでこの国って料理は美味しいの?」


 なぜかアシュリーは、「ドキッ!」とした表情を浮かべていた。


「あの木苺のジュースは美味しかったよ。きっとこの国の料理は美味しいんだろうなぁ」

「そ、そうね」


 アシュリーは否定も肯定もしてこなかった。


「まあ、食事は後でカフェにでも行きましょう」

「いいの? アシュリー。やったね! ありがとう。どんな食べ物あるのかな」

「うーん、あんまり期待されると困るんだけど」

「え?」


 その瞬間、二人の目の前に蝉の抜け殻のようなものが落ちているのが見えた。


「ぎゃ!」


 あだ名が「ゴリラ」の涼子であるが、突然目の前に虫があるとびっくりしてしまう。家にGのつく虫がでた時は、兄の太一に処理してもらっていた。涼子は「ゴリラ」と言っても初心な女子高生である事は否定できない。


 一方、アシュリーは平然とした顔を見せていた。


「蝉の抜け殻か。まあ、別にこの程度は慣れてるってもんよね。蝉の幼虫は案外美味しいけど」

「は? なんか言った?」


 アシュリーは何かぶつぶつ呟いていたが、涼子の耳にははっきり聞こえなかった。風が吹き抜け、木々のざわめきのお陰でアシュリーの声がかき消されてしまっていた。


「そういえば日本では、コオロギとかバッタとか芋虫とかの昆虫食がちょっと話題になってたんだよ。すっごいキモい。あり得ないですよねー」

「そ、そう」


 なぜかアシュリーの口元は引き攣っていた。


「まあ、世の中には変わった趣味の人もいるんですね。個人の好みは否定しないけど、私は、普通に美味しい料理がいいな」

「涼子、今はそんな話題はどうでも良いじゃない。とりあえずアランの家に向かいましょう」


 アシュリーは早歩きで前を進んでいくので、涼子もついて行った。どうもアシュリーは何か隠しているようだが、なぜか深くツッコミを入れない方が良い気がした。


 しばらく歩くと小さな小川が見え、その側に小屋が見えた。一応二階建てだったが、小さな小屋だった。木製住宅で、元いた世界の山小屋に近い雰囲気だった。屋根には煙突が見えるのが、ちょっと童話風とういうか異世界らしさは漂っていた。日本の森の中には無いような雰囲気だった。小川は綺麗な水がながれ、せせらぎの音が心地よかった。


「アシュリー、ここがアランの家?」

「そうよ。アラン、いる?」


 アランという名前からして男だと思われるが、その割には可愛らしい雰囲気の家に住んでいると感じた。


 アシュリーはアランのドアをノックし続けるが、返事は全くなかった。部屋の明かりも消えているし、留守のようだった。


「留守ね。アランは、隣の村で配達の仕事をやっているから休みが不規則だったのを忘れてたわ」

「へー」

「うん。また来ましょう」


 こうしてアランの家から去ろうとした時、目の前にクマのようなものが現れた。


「な、何!」


 やっぱりここは異世界みたいだ。日本の森にはない何かがあるようだった。


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