番外編短編・祝福
萩野涼子は、大学卒業後、紆余曲折があり、オムライス専門店をオープンさせ、ようやく起動に乗ったところだった。
原材料費の高騰など大変な事も多いが、店の看板メニュー・高級トリュフオムライスは、本当に舌が溶けるほどの美味しさだ。
そんなある日、仕事が終わり、一人暮らしのアパートに帰ると、昆虫食メーカーが破産したというニュースがやっていた。
「ま、まじで?」
昆虫食というと、涼子にとっては良い思い出はないのが……。
とはいえ、口元が緩む。日本人の味覚は正常だった事も分かり、ますますオムライスに心血を注ぎたいと思った瞬間。
恋人の稲村から電話がかかってきた。稲村は天才ゲームってクリエイターだったが、色々あって病気にもなり、スランプだった。
今は健康になり、ゲームは第一線を退き、今は「ムキムキ⭐︎筋トレコーチ!」としう肩書で大活躍中だ。最近は「筋肉は全てを解決する」という本も出版し、お互い忙しく、なかなか会えなかったが。
「そういえば昆虫食の会社が潰れたんだね」
なぜか稲村も嬉しそう。
「だねぇ。やっぱり虫なんか流行んないよ」
「うん、虫なんて絶対食べたくないわ。あ、明日、涼子の店行っていい?」
「いいけど? 予約しなくても大丈夫だよ」
「いいから、いいから」
この時の涼子はまだ知らない。明日、稲村が花束と婚約指輪を持ってくる事は。
「そっか。楽しみにしてるよ」
明日が祝福の日になる事は、涼子は何一つ気づいていなかった。




