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虫なんて食べません!〜異世界メシマズ昆虫食村顛末記〜  作者: 地野千塩


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第22話 ホームシックになりそうです

 アランに味噌汁をご馳走してから、涼子は彼に懐かれているようだった。


 夜、風呂から上がり、部屋に引き下がって軽くストレッチしていると、アランがやってきた。ジュースが入った水差しとコップを片手に持っていた。


「ジュース一緒に飲まない?」

「いいね!」


 二階のベランダに出て、夜風にあたる。夜の風は昼間より涼しく、過ごしやすかった。蚊は飛んでいて、アランは腕を刺されていたが、振り払っているだけだった。本当に虫も殺せぬ優しい性格のようだった。アランは、昆虫食よりグリーンパウダーばかり食べていたのも、虫を可哀想だと思っている可能性が高そうだ。


「今日の味噌汁は美味しかったよ。明日も是非作ってほしい」


 そう語るアランの顔は前より赤みがあった。まともな食事をし、数時間ですぐ元気になるとは言えないが、昨日よりも元気そうでホッとする。


「実は、今朝涼子が作ってくれた小麦粉菓子みたいのは、捨てたの俺なんだ。ごめん」


 アランはジュースを一気に飲み干すと、頭を下げた。


「えー? 何で?」

「食べ物に見えなかったんだ」

「それは重症だね……」


 そこまで見えてしまうぐらいアランはまともな食べ物を食べてこなかったと思うと、涙が出そうだ。怒る気にはなれなかった。


「昆虫食のコンテストに出るんでしょ? 何作るの? 俺は、正直なところ虫はもう食べたくないね」

「やっぱり虫は美味しいとは思ってなかったんじゃない」

「うん。虫を食べたら、不幸が防げるとか思ってたけど、別にそんな事はなかったね。こうして味噌汁を食べたけど、何も変わらない」


 ここでアランは、涼子に人懐っこい笑顔を見せた。モコよりも犬っぽく懐かれてしまったようで、さすがに鈍い涼子もドキドキとしてきた。


 夜空は綺麗な星や月が浮いていた。月は満月から少し欠けていた。月は元いた世界で見ていたものと全く変わりはない。嘘くさいほど、元いた世界のあった月とそっくりだった。


 もし全知全能の神様がいて地上、月、太陽や宇宙を創ったとしたら、この世界に月のような何かがあるのは、やっぱりおかしい。月を見ていたら、だんだんと頭の中が冷静になっていき、この世界の謎が気になり始めた。


「ねえ、アラン。あの月ってなんなの? どうして元いた世界と同じようにここでも見られるの?」


 さっきまでニコニコ顔だったアランだが、さっと表情が曇っていく。


「ねえ、涼子。世の中では知らなくても良い事があるんだよ?」

「その台詞、ジョンからも聞いた事があるよ」


 涼子はため息をついてジュースを飲み干す。柑橘類のジュースで、喉越しもいいのに、苦いものでも飲んだ気がしてきた。


「苦虫を噛み潰しらような顔をしてるね」

「そんな事はないよ。っていうか苦虫もコオロギもバッタもゴキブリも食べたくないよ」

「あはは、正直だね!」


 おそらくアランは20歳すぎ。涼子にとっては大人の男だが、どうも子供じみている雰囲気もある。なぜか兄・太一の顔と被ってきた。顔つきや性格も全く違うのに。


「日本にいた頃、兄と二人暮らしだったの。歳はアランより、少し歳上だったけど。ゲームクリエイターで、異世界もののアニメをよく一緒に見たり」


 そんな事を話していると、ホームシックのような悲しい気持ちにもなってくる。別段仲がいい兄弟ではなかったが、それでも一緒に暮らす家族だ。自分がいなくて料理や家事はどうしているんだろうか。太一の心配もしてしまい、胸が重くなってきた。


「ゲームクリエイター?」


 アランはそこに食いついていた。


「この世界にはゲームはなかったっけ。ゲームクリエイターというのはね」


 涼子は太一の仕事を説明したが、なぜか上の空で聞いている。この世界にない技術を話したらもっと食いつくかと思ったので意外だった。


「アランもゲームやってみたくない?」

「うーん、俺はいいや。あ、そういえば実家から爺ちゃんの本とか色々借りてきた。元の世界に戻る方法がわかるかもよ?」


 アランは一階から紙袋に入った本を渡してくれた。紙袋にハードカバーの本が何冊か入っていてずっしりと重い。


「わー、ありがとう! 読んでみるね」

「うん、おやすみ、涼子。俺はこれから風呂に入ってくるよ」

「おやすみ!」


 涼子はベッドに腰かけながら、アランに貰った本をさっそく読んでみた。この国の成り立ちや、魔術師達の活躍を記録した歴史書だった。日本語で書いてあるが、難しい内容で欠伸が出る。


 その本は一旦しおりを挟んで閉じ、別の薄い本を開く。国教・ドラゴンライト教の闇を暴く内容の本だった。日本で言えばオカルトや都市伝説、陰謀論風の本だったが、読みやすくてなかなか面白い。ドラゴンライト教の内部は腐敗し、カルトと大差ない状況のようだった。お札や像などのグッズを売り付け、信者の家族を金銭的に崩壊させていく様子もリアルに書かれ、陰謀論風だと馬鹿にできない。他にも政治家の癒着なども語られていた。


 さらに笑えない描写が出てきた。ドラゴンライト教は、選挙で票を集めたい政治家と癒着している。ドラゴンライト教で推し進める事に協力した政治家は、多額のお金が流れ込んでいるらしい。グリーンパウダーもドラゴンライト教が推した事らしい。肉や魚や我慢し、人の残飯を食べれば幸せになるという教義があるらしい。政治とも組み、国をあげて残飯から作るグリーンパウダーを推進しているという事だった。ドラゴンライト教の言いなりになっている政治家達は、どんなにおかしな事も鵜呑みにして従っているという。ドラゴンライト教からは選挙での票や多額の献金があり、政治家も逆らえないという。


 本では「この国はカルト国家になる日も近い」と陰謀論風に書いてあったが、現実の日本でも政治とカルトの癒着が問題視され、全く笑えない。おそらくこの村の昆虫食も、政治家とドラゴンライト教の癒着が一番の原因だと考えられる。金の流れを調べたら、きな臭い物は幾らでも出てきそうだ。


 そんな事を考えていたら、さすがの涼子も憂鬱になり、ベッドに入って目を閉じた。


 この異世界、日本の悪いところを煮詰めたようだ。今のところ、日本より良い所も見つけられない。まさに劣化コピーという感じ。


「早く帰りたいな……」


 弱音が漏れていた。

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