第17話 やっぱり愛が必要だ
隣町・ベジ町は、クリケット村に比べると、栄えているようだった。
町の中央には駅もあり、列車も走っているようだった。クリケット村より大きな商店街があり、カフェや食堂もまった。カフェや食堂の前にはメニューが出ていたが、それをみると、昆虫食はないようだった。パン、肉、チーズが主食のようだ。おにぎりや焼き魚など日本食も一部根付いているようだったが、メインではないようだ。他にはラーメンや餃子などの中華料理もあった。この国ぼ食文化は欧米的のようだった。日本語が公用語だが、日本とはやっぱり違う。雑多な多国籍風の土地とうのが一番しっくりきた。
アシュリーの話では、この異世界は一度滅び、あちらの世界から人間を呼び寄せ、作り直した世界らしい。この土地のきた人間は、どこの人だったが定かではないが、欧米人の割合も多かったのだろう。その証拠にルックスは西洋風のものが多い。それでも日本語が根付いているのは不思議だ。どうもこの世界は、異世界の中でも乙女ゲーム転生系の話に出てきるような世界のような印象ももった。異世界といえども、中身は全部日本の人というか、少々作り物めいてる雰囲気もある。
これが元いた世界に帰れるヒントになるかどうかはわからないが、何か頭に引っかかってきた。この異世界はゲーム世界?
そんな気もしてくる。そもそも召喚なんてできるかわからない。兄の太一はゲームクリエイターだった。ゲームに何かバグのようなものがあり、ゲーム世界に入り込んでしまった?
ふと思いついた事で、大きな証拠は無いが、そんな気もしてきた。あるいは自分は夢を見ている可能性もある。浦島太郎のように竜宮城に連れて行かれた記憶はないが、「全部夢でした」と言われれば、そんな気もしてきた。
こうして色々考えてしまうが、とりあえずスーパーに向かった。
スーパーは商店街の一番奥にあり、駐車場もついていた。この土地は自転車、バイク、車もあるようだった。自転車の人はよく見かけるが、車はあまり見かけない。現代日本ほど車は一般的ではないようだった。
「あ、アランじゃん!」
スーパーの駐車場のすみで、荷卸しをしているアランの姿があった。仕事中なので、声はかけないが、汗水たらして仕事している姿は意外だった。繊細で優しそうな性格のアランだが、作業着から見える腕はたくましく、ほどほどに筋肉がついている。涼子の理想としては、もう少しタンパク質をとり、筋トレをして貰いたい感じだったが、ひたむきに働くアランを見ていると、ちょっとドキドキはしてくる。
異世界もののライトノベルでは、貴族がヒーローになるケースが多い。主人公は一般庶民だが、異世界での恋愛相手は貴族が多いものだが、こうして汗水流して働いている人も、悪くない。ただ、アランの顔色の悪さが気になる。考えられる原因は、昆虫食やグリーンパウダーとしか思えない。やっぱりマトモな料理を食べて健康的になって欲しいとお節介な事を考えてしまった。
「涼子! ここで何してるの?」
アランは額の汗を拭いがら、スーパーの入り口の前にいる涼子に声をかけてきた。
「サミーおばあちゃんに頼まれて肉とかチーズとかを買いにきたんだよ」
「そっか。サミーおばあちゃんは、元気?」
「うん。もう虫もあんまり食べたく無いみたいだし、ドラゴンライト教のグッズも捨ててたよ」
「そっかー」
なぜかアランは、残をそうな表情を浮かべていた。少し寂しさも見えるような表情で、涼子は気になってしまった。
「今日、帰ったらうちの実家にあった資料とか涼子に貸すね。何かヒントになるかも」
「ありがとう。っていうか、アラン。顔色悪いけど、大丈夫?」
昨日よりもアランの顔色は悪くなっているように見えた。顔立ちは日本の血も入ったイケメンだが、この不健康な雰囲気が気になって仕方ない。
「はは、大丈夫だよ。じゃ、これから仕事だから」
アランはそう言って、仕事に戻っていってしまった。
「そういえば……」
アランの顔をどこかで見た事がある気がしたが、涼子は全く思い出せなかった。しかも日本で見た事があるような気がする。
兄の太一の顔も浮かんできた。太一関連で見た事ある顔だろうか。太一の友達はみなヲタクで、アランのようなルックスのものはいなかった。太一は彼女もなくゲームやアニメ、ライトノベルが好きなヲタクだった。そのおかげか、太一はちょっと世間ずれした純粋な性格でもあった。
「まあ、いっか」
ちょっと考えても思い出せなかったので、涼子はスーパーの入り、サミーおばあちゃんに頼まれたものを買った。
肉やチーズ、卵や牛乳の量はやたらと多く、コストコっぽいスーパーだった。野菜もなんでもあり、小麦粉の種類も豊富だった。米は少ないが、売っていない事もない。昆虫も一部売られていて、イナゴの佃煮が一番人気のようだったが、メインではなく、他の物はコオロギパウダーしか置いていない。クリケット村と違ってベジ町は昆虫食は根付いていないようだった。涼子は一気に肩の力が抜ける思いだ。やっぱり、昆虫を食べるなんて特殊なのだろう。小さな村という土地という事もあり、独自な文化を形成しているようだった。日本でいうガラパゴス化のようだ。
「あれ? 醤油も味噌、みりん、白だしも売ってる」
スーパーの調味料コーンスープにいくと、日本独特の調味料もう売っていた。よく見ると、 ナンプラーも売ってる。見た事もないパッケージだったが、日本語で商品名が書いてあるので、異国情緒はないが。それに値段もちょっと高かった。ナンプラーが一番安いぐらいだった。
一瞬、日本食を作って無双する事も出来るんじゃないかとも考えたが、カルトのマインドコントロールで昆虫を食べていると思うと、それは悪趣味な気がした。
日本でもカルトが問題になり、いかに面倒くさい勧誘を断ったか武勇伝を語っているものもいたが、何か思いやりが無い感じもする。サミーおばあちゃんの様子を見る限り「そんな昆虫食をやめろ!」と言うのは、一概に良い事とは言い切れない。別に自分だって正しくない。この村でずっと生きていたら、正しい判断が出来たかわからない。クリケット村の人を無闇に批判する権利はない。こういったカルトに騙されるのも、元々心が傷ついているのが原因だとも思ってしまう。カルト信者に正論で論破しても、より教祖に依存しに行ってしまう事も考えられる。
やっぱり愛が必要だ。
愛を持って接すれば、村のみんなのマインドコントロールも解けるかもしれない。日本食を作って無双するのは、やめておこう。




