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虫なんて食べません!〜異世界メシマズ昆虫食村顛末記〜  作者: 地野千塩


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第13話 魔女になれない老婆

 サミーおばあちゃんの家は、涼子の想像を超えていた。木造でトタン屋根のボロボロの家だった。家というより犬小屋といってもいいような雰囲気で、涼子はただただカルチャーショックだった。この土地に来て一番カルチャーショックだったかもしれない。


 昆虫食については理解はできないが、それは個人的な好みのせいでもあるから、一概にはカルチャーショックとは言えない。しかしサミーおばあちゃんの家は涼子の予想を超えた貧困っぷりで、自分の世間知らずな所やお花畑である所をゴリゴリと指摘されているようだった。


「サミーおばあちゃん、アランですよ。ジョンに頼まれてお薬持ってきました。具合はどうですか?」


 アランがいつもより優しい声を出しながら、戸を叩く。しばらくすると、一人の老女が出てきた。この老婆がサミーおばあちゃんだろう。


 涼子が想像では、服や髪がボロボロだと思ったが、意外と服装はちゃんとしていた。紫のワンピースで少し若作りで派手ではあるが。髪はだいぶ禿げ、地肌も見えている。歯も入れ歯のようで、80歳ぐらいだろうか。


 首元はジャラジャラとパワーストーンのようなものをつけ、重苦しい。指先もよく見ると、指輪がいっぱいつけられていた。パワーストーンも指輪も安っぽく、スピリチュアルというかカルト臭も漂う。サミーおばあちゃんは、魔女になれない中途半端な一般人という雰囲気で、涼子は胸が痛んできた。西洋の魔女狩りでは、本物の魔女じゃなくて、こういう人が誤解されて虐められていたんではないかとも思う。


「うん? この若いもんは誰だ?」


 サミーおばあちゃんは涼子を上から下まで不躾に眺めた。アランが代わりにに自己紹介をしてくれたが、特に異世界人は珍しくもないのか反応は薄かった。


「ふうん、異世界人か。日本人かい」

「サミーおばあちゃんは何か知っていません? 帰る方法とか」


 涼子の代わりにサミーおばあちゃんにアランが聞いてくれた。なんと言うか、アランは細かい気遣いを出来る人という印象だった。


「まあ、立ち話もなんでの。家で話を聞こうじゃないか」


 サミーおばあちゃんに案内さて、涼子とアランは家の中にはいった。日本語を操り、一見日本人っぽい人達だが、文化は微妙に違うようだ。家も土足で入り、靴を履き替えるという概念は無いようだった。


 サミーおばあちゃんの家は、変な雰囲気だった。まず薄暗く、灯りは蝋燭だった。まだ昼間で灯りは必要なさそうだが、蝋燭の火をともしていた。


 壁一面には変な護符が貼られており、沖縄のシーサーのような置き物もいっぱい飾ってある。テレビはなく、代わりに大きな本棚があった。本棚には魔術やハーブの本が入っていた。テーブルの上には蝋燭だけでなく、ハーブや水晶玉も置いてあった。


「さ、こっちだよ」


 サミーおばあちゃんに言われ、部屋の中央にあるこのテーブルにみんなで囲んで。


「これはお茶だよ。と言ってもグリーンパウダーを水で溶かしたもんだけどな」


 サミーおばあちゃんが差し出したカフェボウルの中には、緑色の液体が入っていた。匂いは吐瀉物や硫黄の香りがして、とても飲めない。昆虫食より匂いが壊滅的に悪い。アランやサミーおばあちゃんは、普通にこの液体を飲んでいたが、涼子にはドブ水にしか見えない。


 ジョンがサミーおばあちゃんを苦手としている理由が何となくわかった来た。部屋は全体的のスピリチュアルな雰囲気だし、サミーおばあちゃんの雰囲気も人と魔女のハーフもみたいな感じだ。下手すると呪われそうだ。涼子にこの役目を託したのも、そんな理由な気がする。つくづくアランがついて来てくれてよかったと思う。一人で行ったら、この雰囲気に負けそうだった。


「サミーおばあちゃん、これジョンから預かった薬」


 涼子はカフェボウルから漂う匂いに気が折れそうになりながらも、サミーおばあちゃんに薬を渡した。


「お、ありがとうよ。湿布薬か。ありがたい、ありがとう、ありがとう、ありがとう」


 サミーおばあちゃんは、なぜか「ありがとう」をいっぱい口にしていた。呪文というか、お経みたいでちょっと怖い。


「アラン、この国では、こういうお礼の言い方なの?」

「いやいや、違うよ。熱心なドラゴンライト教の信者だけ、こうしてお礼を言うんだ。ありがとうを100万回いうと、徳が積まれていい事が起きるらしい」

「え、スピリチュアルっていうかカルト……」

「仕方ないよ。一時は聖女レベッカに治療してもらって身体も健康だったんだけど、だんだんとお金が払えなくなってね。ジョンが仕方なく面倒を見てるんだよ」


 涼子とアランはサミーおばあちゃんが、「ありがとう」と言っている間、小声でヒソヒソ話す。アランによると、この家にある護符や置物もドラゴンライト教で販売しているもので、高額だそう。カルトとしか思えないものだが、ドラゴンライト教は正式に国に認められている宗教で、国民のほとんどがこの信者だ。昔は他のものを信仰すると、逮捕されたりしたらしい。


 これも涼子にとってはカルチャーショックだった。日本史の授業では、隠れキリシタンとか踏み絵とか習ったものだが、宗教の自由が無いとか恐ろしい。しかもこんなカルトが国教だなんて、この異世界恐ろしい。やっぱり現代日本がいかに恵まれているか実感する。こんな貧乏人からもお金をむしり取る宗教なんて、いくら良い事を言っていてもカルトだ。この異世界はリゾート地なんて思っていた過去の自分を涼子はぶん殴りたくなった。ここは現代日本よりかなり闇深い。


「サミーおばあちゃん、ありがとうっていうの終わった?」


 アランは優しい声で聞くと、サミーおばあちゃんは頷いた。そして本棚から一冊の本を持って来て、涼子に説明しはじめた。


「元いた世界には、思いと想念の力で帰れるかもしれない」

「え、どういう事、サミーおばあちゃん」


 涼子は身を乗り出して聞いてみた。サミーおばあちゃんが持つ「人間の想念と想像力」という本によれば、人の思考と言葉には力がある。それを正しく使えば元いた世界に帰れるかもしれないという。全ては思考や思いからはじまり、そこに力を注ぐと現実になという。


「そんな事ってある? 私はちょっと」


 信じられない。どうもスピリチュアルみたいだ。別のそれを全否定するわけではないが、なかなかピンとこない。思考が現実化するという本は書店で見た事があり、宝くじ高額当選を思考してみたが、特に何も変わらなかった。


「でも、人の思考や言葉が力があるっていうのは確かだと思う」


 アランは冷静に言っていた。確かにそれは事実だと思うが、自分の思う通りにする事は、どうも欲深い感じもしてピンとこない。


「いや、いや、そういう事もあるのさ」


 サミーおばあちゃんは、本を閉じると、だんだんと息苦しくなって来たようだ。カフェオレボウルに入ったグリーンパウダーを飲み干すと、さらに具合が悪くなったようで、ベッドに横になっていた。

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