第三話
一三人の身柄を拘束し、あと二人だ。
『隊長、残りの二人が見つかりません』
『よく探せ。拡コンに生体反応は出ていないか』
作戦は順調に進んでいるかに思えたのだが、トラブルというのは得てして、あと一息というところで発生するものだ。こんなことならあと一息というところまで進めない方がいいのではないかとさえ考えてしまうが、やっぱり作戦というものはあと一息というところまで進めないと成功しないのも事実だからしょうがない。
第二部隊の全員が、薄暗い小さな観測室に集まった。
倉庫内と倉庫外の捜索班に別れ、再びステルス迷彩を起動しようとしたとき、二匹を取り逃がした原因が発覚した。
『サクマ……お前、威圧機の迷彩どうした?』
『え?……』
今回の作戦では研究班の要らぬ厚意で、スーツの迷彩起動と同時に武器装備にも迷彩が施されるようセッティングされていた。サクマの装備だけ、それがうまく機能しなかったようだ。蝙蝠から見れば、まるで威圧機だけがひとりでに浮遊し移動しているように見えただろう。菊頭蝙蝠が視力を持っていた――あるいはヒト状態の獣人がサクマの威圧機を目撃したとすれば、二匹が逃げ出した原因にも説明が付く。
カワカミが言う。『頭隠して尻隠さずとはこのことだな』
『ご、ごめんなさい。私のせいで』
小さな部屋に重苦しい空気が流れる。
私はチームの雰囲気を立て直さねばならなかった。
『私から今言うことは二つ。一つはここで落ち込んでいても作戦の成否にはなんらプラスが無いということ。二つは必ずしもサクマのせいとは限らないということ。そもそもスーツと装備の迷彩を連動させるのは研究班の仕事であって、私たちの仕事ではない。サクマのスーツ自体は迷彩が発動しているところを見ると、スイッチはしっかり押していたはず。もちろん事前のチェックを怠ったサクマにも非はあるけど、動作に不安のある装備を押し付けた研究班の過失も無視は出来ない』
早口でまくし立てる私を見て、何人かの表情が緩む。チームが混乱したとき、これは効果的な方法であることが多い。これは前任の隊長から教わった、実行部隊の伝統的なマインドコントロール法だ。
『ともかく命令する。落ち込むな。混乱するな。北から突入した一班を倉庫外、南の二班を倉庫内の担当とする。一班は私が、二班はタダオキが指揮する。必ず残りの二匹を見つけ出そう。散開』
出て行くときのサクマの表情を見た。固い決意、固い後悔。様々な感情が入り混じった微妙なニュアンスのカクテルという感じだった。
上層部に対してどうサクマを擁護するかを考えねばならなかった。しかし、今はまず二匹を見つけ出すことが先決だった。