23.墓参り
結婚後、アニカは実家の自室を整理することにした。ウルフからもらった髪飾りとか、本当に大事な物は結婚と同時に持って行っていたが、色々細かい物が残っていた。子供の頃の宝箱を開けると、なぜこれが宝物だったのか、大人になった今はガラクタにしか思えない物しか残っていなかった。
家具は輸送料のほうがかかるので、そのまま元の自室に残していく。マホガニー材のアンティークの机は特にお気に入りで心残りだったが、しっかりした作りの机はかなり重たいので仕方なかった。年月を経て飴色の艶が美しい机の上を名残惜しそうにアニカは撫で、空になった引出しを次から次へと開けて思い出に浸った。
一番上の引出しはずっと鍵が見つからなくて開けたことがなかった。だがアニカが引出しに手をかけると、今度は思いがけずスムーズに開き、古い日記帳を見つけた。
字を見る限り、男性の日記のようだった。アニカが日記帳を開くとぱらりと白黒写真が2枚落ちてきた。1枚は若い男性2人が肩を組んで笑顔でカメラ目線で写っていた。1人はルドルフ・フォン・コーブルクだと心中事件の記事を散々探したアニカは分かったが、もう1人は分からなかった。もう1枚の写真は結婚式の集合写真で、1枚目のルドルフでないほうの男性を新郎新婦の横に見つけた。彼の容貌を見る限り、最初の写真の20、30年ぐらい後の写真のようだった。
日記は友人が領地に遊びに来た日で終わっていた。そのページは濡れた痕があって波打っていた。
「『ルドルフとA嬢が我が領地にやって来た』?!」
アニカは日記と写真を持って転がるようにして父親のところへ急いだ。
「パパ!」
「なんだい、アニカ。ノックぐらいしなさい」
「それどころじゃないの!この写真の人、誰?」
「この若い男性2人かい?誰だろう?どっちかは我が家の人間だと思うんだけど。俺の祖父さんか曽祖父さんかな?」
「左側の人は、かの有名な心中事件のコーブルク公爵家のルドルフだよ」
「それなら右側は俺の曽祖父さんのヴォルフガングだね。ルドルフと仲良かったらしいよ」
「そうなの?!それじゃ、これ、誰の結婚式の写真?」
「うーん、ヴォルフガングが新郎新婦の横に写ってるから、俺の祖父母の結婚式じゃないかな」
「私の曽おじいさんと曽おばあさん?」
「そう。お前の曽おばあさんは、コーブルク公爵家の出身でルドルフの義理の娘って言ってもいい生まれだったんだよ」
「え?!何、何、どういうこと?!」
灯台下暗し!100年前(当時)のゴシップ新聞や社会風俗史の本を図書館で嫌というほど漁ったのに、アニカは自分の家の系図すら見ていなかった。アニカの曾祖母は、ルドルフの元婚約者ゾフィーとコーブルク公爵ラルフの娘ツェツィーリエで、ルドルフとゾフィーの息子ミハエルの妹だった。
アニカは、それが分かってからここまで遠縁なのに少々強引かとは思いつつも、先祖の墓参りをしたいとコーブルク公爵家に申し入れ、念願のルドルフの墓参りが実現することになった。
コーブルク公爵家の墓地は、100年前は王都の市街地の外側にあったが、首都の人口が増えた現在は市街地に飲み込まれていた。高さ3メートルはあろうかと思われる鉄柵に囲まれた墓地には、大きな木が何本も鬱蒼と茂っていて昼間でも薄暗かった。
アニカとウルフは、最初にアニカの4代前の祖先に当たるゾフィーとラルフの墓に白い薔薇を捧げた。ルドルフの墓は2人の墓の隣にあった。墓石にアンネの名前はもちろんなかった。
(ルドルフ…今世は私達、添い遂げられたよ)
アニカとウルフはルドルフの墓にも白い薔薇を供えて墓地を立ち去った。
それから10年後――アニカの父は引退し、夫婦2人で世界1周旅行をしたりして悠々自適な生活を送っている。アニカの兄ゲラルドがディートリヒシュタイン商会の会長に就任、ウルフは副会長を任されている。
「皆、ご飯よ!」
庭で遊びまわっている子供2人にお腹の大きなアニカが呼びかけると、子供達は返事をして家の中に駆け込んできた。
元気な子供達をアニカとウルフは幸せそうに見つめた。
「私達、幸せね」
「本当だね。愛してるよ」
ウルフがアニカにちゅっとキスをすると、子供達が『わー、チューだぁ!』と囃し立てた。
「もうっ!ウルフったら!」
アニカはウルフをぽかりと叩いたが、顔は笑っていた。
完結まで読んでいただき、ありがとうございました。
最初と最後は決まっていたのですが、途中の話が決まらなくて難産でしたが、なんとか完結できました。
他の作品もよろしくお願いします。




