戦いが終わり…
異界虫との戦いから暫くの時が経ち、ようやく各国は落ち着きを取り戻してきた。
まだ各地に虫の巣が残っているが、徐々に駆除されていくだろう。
あれから色々な事が起き…、私は国を作る事になった。
唐突な話だが、元々のシェール公爵領とその周辺の地を合わせて、シェール公国を建国する事になったのだ。
何故こんな事になったかと言うと…。
表向きの理由は、今までシェール家が引き起こした戦争などの賠償を引き受ける為だ。
勿論先年に兄が侵略した国々への賠償も含まれる。
ガイウス達は私の命令通り各国を虫の脅威から救ったが、それで許される程甘くは無い。
その額は天文学的な数字で、王国の数十年分の国家予算に相当する。
古い戦いについてはかなり減額されたと言うのにその額だ。
これは私を生贄にする為に仕組まれた事では無く、仕方無い理由が有った為実行する事となった。
その理由は、私が各地に作った壁や龍を大陸中の国々が欲しがったからだ。
異界虫の跋扈する世界となってしまった事で、今まで雇っていた兵士や騎士、冒険者だけではとても対応し切れなくなってしまった。
これを放っておけばいくつもの国が滅亡するだろう。
そこで、追加の壁の設置や、今まで配置した龍などを引き続き使わせて欲しいとの要望が相次いで寄せられたのだ。
ただ……その代価を支払える国は殆ど無かった。
私としては無料でやっても良かったのだが、相手からするとそれは白紙の小切手を渡すような行為らしく、中々話が決まらなかった。
最終的に、国を作る事になったと言う訳だ。
今までのシェールのやった悪行の代わりに、私が善行を行って帳消しにする形だ。
私の作る壁や龍は一つにつき軍事予算数年分の価値が有るらしく、賠償が済んだ後の支払いはどうするか、という話し合いが既に行われている。
王国は最後まで私の独立を渋ったらしいが、結局各国の圧力に負けてしまったらしい。
『神の使い』が私だとバレてしまい、各国から糾弾される寸前までいったと聞いている。
各国の理屈としては…。
『神の使い』がシェール家の人間なら、その成果を王国だけが享受するのはおかしい。各国で共有するべきだ、と言う理屈だ。
これは、先年の戦いのような『シェール家が原因となる被害は皆で助け合う』と言う理念が元々有った事から言われた事だ。
それなのに、『神の使い』が王国の人間だからと言う理由で王国の外交官が調整役に入り、色々と利益を掻っ攫っていくのが納得出来なかったようだ。
特に筋肉質な男は容赦無かったらしいが……ツァンの奴、頑張り過ぎだろ……。
そう言う訳で、王国としては納得せざるを得なかったらしい。
それでも、公国は王国の一応の庇護国と言う扱いになっているから、王国とは一番仲が良い。
それと…王国の強い要請で、私は王都の学園に通っている。
流石に退学するつもりだったのだが、ファリアの父、バフェル王からどうしてもと頼まれて断り切れなかったのだ。
一国の王が他国の学園に通うなんて前代未聞だ。
国を作る事については抵抗が有ったが、私としても利が有ったので受ける事にした。
一番の利はお嫁さんの問題の解決だ。
リサ達の序列をどうするかで悩んでいたが、一国の王となる事で解決する事が出来た。
王となって先にリサ達と結婚してしまえば、後から序列を動かすのは容易では無いからだ。
家臣だと強引に動かせてしまうし、離婚だって強制出来るからな…。
勿論私に対してそのような事を言うはず無いが、その場合はファリア達との結婚は難しかっただろう。
無理矢理結婚すれば、諸侯からの信頼を失う可能性も有る。
ファリア達の序列は下がる事になってしまうが、本人達はそこまで気にしてなかったみたいだ。
それよりもやっと結婚できる!と無邪気に喜ばれた時は、待たせて申し訳無いと心から思った。
皆との結婚は既に済ませており、戦乙女以外の皆とは聖国で挙式した。
戦乙女の皆とはもちろん王国で行った。
式の後は各地を周り、皆から盛大に祝われた。
……そのお祝いに各国から来賓がやって来たが、何故かお姫様ばかりだ。
そして、式が終わっても帰る様子は一向に無い。
…近々、また式を開く事になるかも知れないな。
カダン家は王国と公国の交渉役に任命されたようで、今は公国にやって来ている。
ツァンとの付き合いもまだまだ続きそうだ。
「……それで、何故お前らが公国に来ているんだ?王国で復興の為に働いているんじゃ無かったのか?」
「……そうね。あっちはひと段落ついたの。……それにしても、貴方ってホントにチートね。なんで街に龍や天使がいて、城壁には夜の星空が浮かんでいるのよ…。本当に訳分からないわ…。」
先ほど公国にやって来たヒメ=センイ一行を迎えている。
私は相変わらず迷宮都市に住んでおり、公国の首都は現在ペイスになっている。
旧公都については、暫定的に弟に任せている。
最近は性格も丸くなってきたと言うし、このまま任せるつもりだ。
「龍は各都市で見た事有るだろう?ペイスに居るのは属性付きだから少し珍しいかも知れないがな。…天使は聖国では一般的だぞ。龍の代わりに配置したからな。」
現在のペイスはかなり防備が固められている。
仮に以前のような暴走が起こったとしても、兵士達が動く事無く鎮圧出来るだろう。
「城壁は……ここオリジナルだな。『奈落魔法』と『星魔法』が封じ込められている。下手に攻撃したら隕石が飛んで来るから気を付けろよ。」
少しだけ力を借りれたので作ってみたが……思った以上にとんでもない物が出来てしまった。
自動反撃で隕石や奈落が飛んでくるのだ。
「……そう。元々攻撃するつもりも無かったけど、気を付けるわ。」
顔を青くしながらヒメが話す。
一定以上の攻撃を受けた時だけだから大丈夫だと思うぞ。
「それで……話なんだけど、このまま公国で雇ってくれないかしら?王国は戦乙女達が暴れまわったせいで復興もすぐに終わっちゃって…。このままじゃ働き先が無いの。公国は一から街を作る場所も多いし、私達なら大活躍出来るわよ!?」
「……なるほど。」
ヒメ達は異界虫との戦いで大暴れした結果……廃嫡されて多額の借金を背負う事となってしまった。
私が与えた龍の力を使うのが楽しくなり、更に戦乙女のシゴキから解き放たれた事で、ハッチャケ過ぎたのだ。
多少の損害なら戦闘時の事だし許して貰えるが、このバカ達は数匹の虫を追い払う為に王城を半壊させてしまったのだ。
しかも近衛騎士団長や宮廷魔術師長が制止したにも関わらず、だ。
他にも門を吹き飛ばして戦況を悪化させたりと、ろくな事をしなかったらしい。
普通なら戦犯扱いだが、私がヒメの力を買っていると言う噂が流れていた事も有って、廃嫡と罰金で済んだとの事だ。
「このままじゃ、辺境の地に送られて虫供の相手をする事になっちゃうの!私は都会っ子なのよ!?そんなの耐えられないわ!!」
だから公国に来たと……。
ペイスはエミィ…エミリアの尽力も有ってかなり栄えてきたからな。
「まぁ、良いだろう。お前の内政の腕を買ってるのは事実だからな。…借金は肩代わりしておくから、エミリアの指示に従ってくれ。」
「あ、姉上の……。」
ギルが青い顔をしている。
エミリアは笑顔でとんでもない事をしてくるからな…。
…内政官と偽って、一国の王女が士官しに来るなんておかし過ぎるだろう。
以前セバスが壊れていた理由がようやく分かったよ。
「ナーナシ、案内してやってくれ。」
「畏まりました。我が王よ。」
ナーナシ=ゴーンべ。王国の伯爵令息だ。
元は嫡男だったらしいが、平民と恋に落ちた事で公国へと士官しにきた。
なんでもミードの起こした第一男子寮魅了事件の被害者で、その治療で病院に通っていた時に出会った娘らしい。
どうしてもその娘を正室にしたかったので、国を出奔したと言っていた。
その心意気を買って重用している。
その事が実家に届くと、掌を返したように祝福されたようだ。
その事に思う所は有るようだが、元は自らが悪いと実家との関係を修復している。
私と同じ年だが、中々出来た男だと思う。
「貴方は……何処かで会ったような…?」
「そんな気がするな!これから世話になるぞ!」
フランツとエドガーがナーナシに挨拶?している。
少し呆れたようにしながら、ナーナシがギルを含めた三人を連れて行った。
「ディノス様、これからも宜しくお願いします。」
「ディノス…様。宜しくねー。」
クルーとヒメも行ったようだ。
アイツらの事を正式な家臣とするかは…悩み所だな。
どうしてもトラブルメーカーの匂いがする。
「ディノ様! 皇国から皇帝が来てるわよ!…きっと、私達の結婚式の事ね!」
「ミアか…。そう急かさないでくれ。すぐ行くよ。」
古都で出会ったミアも公国にやって来ている。
『龍脈之要石』については当分貸してくれるらしい。
私との関係をアピールするのに使っているようだ。
まだまだ忙しい日が続きそうだ。
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