最後の魔法
邪神の肉体は消滅し、異界門も周囲一帯ごと虚無へと還った。
かなり自然は破壊されてしまったが、これで新たに虫が湧く事は無いだろう。
ただ、かなりの数の異界虫が大陸中に散ってしまった為、これを根絶させるのは相当な時間がかかると思われる。
虫共は繁殖力も高い為、当分気は抜けそうに無い。
(次々と運び込まれてくるな。魂魄魔法は使用が難しいし、結構面倒だ。)
今は皆が倒した虫達の浄化や魂の分離をしている所だ。
父と兄は「さらばだ。」と言って消えてしまった。
二人が倒した虫もそのままだし、暴れるだけ暴れたら満足したみたいだ。
あの二人を聖霊化して良かったのかは本当に悩む所だ。
一応私がシェールの血に覚醒して『純魔法』を使う方法も有ったのだが、シェールの血に目覚めると後が厄介なので父と兄を頼った。
『純魔法』で血の呪縛への対策を練る事は出来るが、肉体に依存している以上完全に呪いから逃れる事は出来ない。
最終的には魂魄魔法を使って、別の肉体に移る必要が出てくるだろう。
因みに、あの怨念の中にティニーの両親は居なかった。
神職者自体少なかったので、これも神の加護なんだろう。
「……これで、終了だ。」
最後の魂を分離、浄化し、怨霊達は全て消え去った。
『…今代の勇者よ。見事だった。最期に素晴らしい時を貰えた事に感謝する。……ジュリを宜しくな。』
『凄い話ばっかりで驚いちゃったわぁ。ジュリも素敵な旦那様を見つけたわね♪』
古代の勇者と賢者…ジュリの両親もこの世を去る時がやって来た。
何故か私を勇者と呼んでいるが…彼らからすれば邪神を倒した私は勇者になるのだろうか…?
二人に聖霊化を施す事はしない。
二人の魂は長い時間酷使され続けたせいで、聖霊化に耐えられる可能性は低い。
何より、聖霊化の秘術は神が使うからこそ意味が有るのだ。
私が行っても魂を弄ぶ行為になるだけな気がする…。恐らく今後も使用する事は無いだろう。
「全力でジュリを幸せにします。…ですからどうか、安らかに…。」
「父上…。母上…。お元気で…!」
私達の言葉に満足したようで、二人が天に昇っていく。
…暖かい光が差している。どうやら、神々も二人を祝福しているようだ。
「さて……。それじゃ、最後の魔法を使うか。」
「最後の魔法、ですか?」
リサが不思議そうな顔をする。
もう戦いも終わっている。
今から何の魔法を使うのか分からないんだろう。
「ああ。想いの魔法…。いや、愛の魔法をな。」
我ながら恥ずかしい台詞だと思うが、必要なのだから仕方無い。
「それはぁ…。お恥ずかしながら、まだ私達の魔法は完成には至って無いんですのぉ…。まだ暖かい温もりを感じるだけの、何の効果も無い魔法なんですわぁ。」
ジュリを始め、皆が申し訳無さそうな顔をする。
…セバスだけは状況を理解していないようだ。
「いや、それで十分だ。」
「どう言う事ですか?」
アリスが不思議そうな顔をしている。
「…私の中には邪神の魂の一部が眠っている。『愛の魔法』を通して、彼女に愛を伝えて欲しいんだ。」
そう。これこそがゲームにおける邪神弱体化の正体だ。
「愛の力」を邪神が知る事で満たされ、その愛の分だけ大人しくなるのだ。
「…そう言う事でしたら、少々お待ち下さい。」
「…そうね!どうせだし、皆連れてくるわ!」
リサとティニーが、ここに居ない皆を連れて来ようと提案してきた。
もちろん反対する理由など無いので承諾する。
転移は私が代行し、各地で転戦している戦乙女やノスリ達の元へと送る。
各地の戦いは既に収まりつつあるので問題無いだろう。
少し経つとノスリ達やファリアを始めとする戦乙女達がやって来た。
内政官や、いつか助けたダークエルフの少女も一緒だ。
「ノス様。」「私達の愛を。」「お受け取り下さい。」
「そ、そうだな。私達のあ、愛が必要と言うなら、ぜ、全力で伝えようでは無いか。」
ノスリ達やファリア達もやる気のようだが…。
告白して欲しいと勘違いして無いか…?
「ファリ……ア様は何か勘違いされていますね?ここはリサ達に協力して『愛の魔法』を使う場面ですわよ?……そこでたっぷりと想いを込めれば良いのです。」
エミィが私の言いたい事を言ってくれた。
何故かファリアは苦い顔をしているが、何か問題が有るんだろうか…。
「……それでは、戦乙女の皆さんは私達の輪に入って、皆で手を繋いで下さぁい〜。それから隣の人の魔力に同調するようにして下さいね〜。細かい部分はご主人様が調整してくれますわぁ♪」
ジュリが中心となって皆を誘導し始める。
私を中心にして大きな円を作り、皆で魔力を循環していく。
戦乙女はこの魔法を使った事は無いようで、かなり苦戦している。
だが、私がフォローしていくと次々に魔力は循環し始め、すぐに同調は完了した。
「……流石はご主人様ですわぁ♪ ここまで来れば後は簡単ですぅ〜。皆様〜、ご主人様への想いを強く念じるんですよぉ〜♪」
……私では無く、邪神に伝える想いなのだが、まぁいいか…。
邪神が女の子じゃ無かったら嫉妬していたぞ……。
皆から暖かい想いが溢れ、ジュリの元へと集まっていく。
…後は簡単と言っていたが、中々制御が大変そうなので手伝っておく。
(…これが、『愛の魔法』か。同じ系統なだけあって、『欲望の魔法』と少しだけ似ているな。……尤も、その性質は真逆だが。)
多分『欲望の魔法』で魔王化したように、『愛の魔法』で勇者化や聖女化も出来ると思う。
……あ、カズナとシルフィが本当に覚醒した。
「それではぁ!ご主人様ぁ!行きますよぉ〜♪」
少しだけよそ見をしている内に魔法が完成したようだ。
ジュリから、暖かい魔力の塊がゆっくりと私に向かってくる。
ゆっくりと受け取ると、皆の想いが伝わってくる。
本当に、心から癒される想いだ。
(暖かい……。こんな最高の感覚、今まで感じた事が無い……。)
心の奥底で邪神も大喜びしている。
彼女からすれば初めての喜びだろう。
『……ありがとう。…またね。』
その言葉と共に、深い眠りに就いたようだ……。
どうや、満足してくれたみたいだな。
「ディノス様。……私はいつまでもお傍におります。」
…少しだけ寂しいと感じてしまっていたようだ。
リサが声をかけてくれた事で気付く事が出来た。
(どうせ、また適当に起きてくるだろうしな。その時の為に、沢山の物語を作っておいてやるか。)
皆が一斉に飛び込んで来たので、訳が分からない状態になってしまった。
戦いもひと段落ついたし、暫くは祝勝気分を楽しもう。
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