表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/90

邪神殲滅

「話は終わったみたいだな。」



『全てを虚無(終わり)に』



私達の話を聞いていた父が、いきなり魔法を放つ。

それも、初めて見る魔法、第二魔法だ。


魔法陣の結界を容易く打ち破り、その中にいるヴァイスへと虚無が迫る。


「うぎゃああああああ!!!」


完全に不意打ちだった為、ヴァイスは防御も出来なかったようだ。

体が大きく削られていく。


「ふむ。一発では無理か。」


続けて魔法を放とうとするのを慌てて静止する。

いくら父の魔法が強いとは言え、単独の魔法で邪神を滅するのは不可能だ。

皆で協力し、邪神を討伐しようと持ちかける。


「……良かろう。まだ礼も済んでないしな。」


父は納得してくれたようだ。

……父はずっと、シェールの血という呪縛を私達に与えた邪神に、一矢報いたかったみたいだ。


父を聖霊化した事で、その辺りの事を理解出来た。

父祖の呪いを一身に受け、それだけの事を考えて生きてきたようだ。


…その事には少しだけ同情するが、父も十分過ぎる程の悪行を重ねてきている。

邪神を滅する為に必要だったとは言え、父を聖霊化するのは最後まで悩んだ。

ティニーの両親のように、父に殺された人間は納得出来ないだろうからな。


(…それでも、邪神が復活するよりはマシなはずだ。)


他にも方法は有ったが、これが一番確実だと思った。

犠牲者達には全てが終わったら、せめて祈りを捧げよう。



「人に使われるのは御免だ。魔法は貸してやるから好きにしろ。」


…兄には断られてしまった。

いや、魔法を貸してくれたから断られた訳では無いのか…?


私に一言だけ話し、聖霊化を自ら解いて去って行った。

…一応、父と兄は私の召喚獣のような扱いなのだが、完全に好き勝手している…。


手懐てなづけられるとは思っていなかったが、ここまでとは…。

…やりたかった事は出来そうだが、本当にシェール家の人間は我が強い。


(父も、わたしの魔力だと思ってゴッソリ使っていくし…。回復するまで少し時間がかかるぞ…。)


仕方無いので、もう少し話を続ける事にする。

まだ戦わないと父も気付いたようで、腕を組んで憮然としている。


「何故、シェールばかりがこのような力をォ!私は邪神の使徒なのですよォ!?邪神よォォ!!何故私には力を与えてくれないのですかァ!!」


ヴァイスが邪神に対して恨み言を言っている。

コイツはシェール家に対して、深い嫉妬を抱いていたみたいだな。

私が生まれる時に儀式を行ったのも、フィアスを魔王へと導いたのも、嫉妬の感情が根底に有ったんだろう。


「そうだな。お前の言う通り、邪神は大きな失敗をしているんだよ。その失敗がお前だ。ヴァイス。」


…少しだけ話してやるか。

話した所で納得はしないだろうが、コイツも聞きたい話だろうしな。


「……何を、言ってるんですかァ?」


思った通り、乗ってきたみたいだ。

それじゃ、話してやるか。

大昔の話を。



「大昔、邪神はこの世界にやって来た。初めてみる生物や、自分と同じような存在かみに出会えた事に邪神は喜び、大いに楽しんだ(暴れた)

 ……その代償に世界は荒廃していった。邪神は世界から拒絶される存在で、世界を壊す事に喜びを感じていたからな。」


唐突に話を始めた私を、ヴァイスがキョトンとした表情で見つめている。


「このままでは世界が滅亡するという未来が見えて来た頃、神々は世界に勇者達を遣わした。

 神々が戦っては世界が壊れてしまう為、愛し子達に世界を任せたのだ。」


ジュリのご両親を見る。

あの方達こそが、神に遣わされた初代勇者達なんだろうな。


「勇者達は力及ばずに、邪神に敗れてしまう。そして、その光景を見ていたお前(ヴァイス)は邪神の軍門に降った。…その圧倒的な力に惹かれてな。

 そうして邪神の使徒になれた訳だが、その後に衝撃的な事が起こる。

 ……邪神が神々によって封印されたのだ。」


「…そうですよォ。幾ら善神達の数が多かろうと、邪神は圧倒的な力を持ってましたァ。簡単に封印されるなど有り得ないのですゥ。……ですが、何故貴方がそれを知ってるんですかァ…?」


そう。

邪神は一切の抵抗無く封印された。

この世界には、神々の戦いの跡が残されていないのだ。


「……その後、人界にシェール家が現れた。禍々しい……どこか邪神に似た力を持ち、常に戦いを求める修羅の一族がな。」


「……そうです。私と違い、魔法の力を使いこなすシェール家が……。」


…もう、普段の口調も忘れてしまったようだな。


「これは全ては邪神が計画した事だ。

 邪神は神々と交渉し、自らが封印される代わりにシェール家と言う器を残す事を求めた。

 何故そんな事をしたかと言うと、ヒトに興味を持ったからだ。

 勇者達に触れた事で、邪神もまた変わった。ヒトに興味を持ったのだ。

 だが、自らが触れる事は出来なかった。勇者達のように壊れてしまうからだ。

 ……そこで作られたのがシェール家だ。ヒトの体を持ち、邪神の触覚となる存在。

 シェールを通して世界の事を知ろうとしたのだ。」


シェールが戦いを常に求めるのは邪神の影響を常に受けているから…。

そして、戦う事で相手を知ろうとしているのだ。

だからヒト以外との戦いには余り興味を示さない。


…誰かが唾を飲む音が聞こえる。

人智を超えた話に、頭がついていけて無いのかも知れないな。


「本来、その役割を担うのはヴァイス、お前だった。

 だが、使徒化したせいで邪神同様に世界から排除される存在となってしまい、真っ当に世界と関わる事が出来なくなってしまったのだ。

 それが邪神の失敗だ。

 その上、お前はシェールに対して強い嫉妬を抱くようになり、シェールの行動を邪魔するようになってしまった。

 …もはや使徒としての資格も無いだろうよ。」


嫉妬と…後は憧れかな。

兄にずっと仕えていれば、少しでも救われただろうにな。


…いや、折角邪神が最期の時の状態で止めていた勇者達の封印を解き、その魂を奪ったのだ。

救われるのは都合が良過ぎるか。


「それは……。」


「シェールの血も限界が来ていた。

 …どの道、そろそろ終わりの時なのだろうな。」


代々人間の血と交わって来た事で、シェールの血も徐々に薄くなってきている。

器としても限界が近いだろう。


…辺りを静寂が包む。

唯一動いているのは、魔法陣の下で蠢く虫達だけだ。

虫は一切の感情も無く、ただ外に出ようと足掻いている。


(……魔力も戻ったな。……だが、折角ここまで話したんだ。邪神の誤解も解いておくか。)


「そもそも、お前は大きな勘違いをしている。

 邪神は強大な力を持っているが、無垢な存在だ。

 初めて見る世界、生き物にただ憧れただけだ。

 …ただ、この世界ではそれが許されなかった。この世界の全てに邪神は拒絶されていた。

 何をしようとしても破壊に繋がり、誰からも理解されなかった。

 だからこそ自らを封印し、代わりにシェール家を作ったのだ。シェール家を通して、この世界で遊ぶ為にな。」


その呪いはヴァイスよりも圧倒的に強い。

…一番哀れなのは邪神なのかもな。


「何故……。そこまで詳しく……。貴方、様、は……。」


「……そろそろ終わりにしよう。」


ヴァイスの肉体は膨れ上がり、もはや数十倍の大きさへと至っている。

魔法陣は消えて無くなり、穴から這い出ようとしてきた虫共をその巨体で押し潰している。


……どうやら、復活の儀式は完成したようだ。

…だが、ヴァイスは茫然としたままで、邪神本体も動き出す気配は無い。


まるで、その魂が不在かのように……。


(さらばだ。)


最後に別れを告げ、魔法を放つ。



虚無之星ブラックホール



父と兄の力を借りた究極の魔法だ。

全てを飲み込む漆黒の力には、邪神の肉体と言えども成す術も無いようだ。

……だが、流石に肉体が大きすぎる。全て滅するまでに少し時間がかかりそうだ。


「……嫌ですゥ!!お助けをォォ!!何故ですかァ!私はァァ!!邪神の為にィィィ!!!」


虚無の星の中は全てが止まった世界だ。

時空の狭間で眠り続けるが良い。


「…絶対にィ!絶対にィ!!私は諦めませんよォォ!!」


往生際が悪く、のたうち回りながら逃れようとしている。

更に今まで貯めたアイテムなども放出し始めた。


(……これは。……コイツは、思った以上の外道だったな……。)


幾つもの封印された壺や札が有り、その中には魂が封印されているようだ。

怨念渦巻く魂で、シェールに深い憎しみを持っているように感じる。

……恐らく、歴代のシェール家の犠牲になった者達だろう。


「虫よォォ!!魂を食べるのです!そして邪神わたしの肉体を食べ、シェールへと復讐するのです!せめて、シェールの人間だけでも道連れにィィ!!」


……先ほどまでは多少落ち着いていたが、素直に死を受け入れる性格でも無いか…。

体を動かした事で虫共が外に溢れ出し、ヴァイスの言葉に従うように行動していく。


(魂を…食ってる、と言うよりは融合しているようだな。そして、邪神の肉体を食らう事で大幅に強化している。)


魂を回収したいが、虚無之星ブラックホールの制御をしているのでそれどころでは無い。

魂を食った虫共に当たらないようにもしているので、邪神の肉体を滅するのも中々終える事が出来ない。


あの位なら後で魂魄魔法を使って分離させてやれるし、まずは虫共を無力化しなくては。


(……こうなっては仕方無い。ヴァイスは滅する。)


そう決断すると、心の奥底がチクリと痛む。

……やはり、数千年の封印で済ませてやるか。


(私としては滅してしまいたいが、そうすると邪神が悲しむだろうからな…。)


私の考えに呼応するように、心の奥深くから喜びの感情が伝わってくる。


……そう。私の中には邪神が宿っているのだ。

私の魂が邪神の元へと送られた時、私に興味を持った邪神が一緒について来てしまったのだ。


この事に気付いたのは兄との戦いの最中だ。

どうやら私もシェールの呪縛に囚われていたらしく、色々と記憶に制限がかかっていたみたいだ。

強敵と戦う事でその呪縛から解放されていった。


制限されていたのは、私が生まれた時に邪神の所へと訪れていた記憶だ。


転生については殆ど母の考えた通りだ。

私は邪神の元へと向かったが、そこでは邪神がゲームに夢中だった。


この世界の神々が邪神を大人しくさせる為に与えたものらしく。異世界の本やゲームも沢山有った。

そこで、乙女ゲーム「エターナルラブ〜偽りの愛に断罪を!真実の恋に祝福を!〜」、通称『真愛しんあい』もプレイしたのだ。

最も、私は殆ど意思も芽生えて無かったから、邪神の横で見てただけだがな。


なんでもこの世界の情報をあちらの世界の人間に教え、ゲームを作るように導いたらしい。

それも邪神の為だ。

邪神がこの世界に強い興味を持ってくれればこの世界はそれだけ平穏になるので、神々も必死だったようだ。

私も邪神を連れ帰る時に色々と加護を貰っている。


……ただ、私が生きたまま邪神の元へと辿りつけたのは、母のお陰だ。

…もしかしたら、邪神が私に興味を持ったのもそうかも知れない。

結局、母が奇跡を起こしたのが全ての始まりだったんだな。


そして、その代償が時の呪いだった。

私が送られた、邪神の遊ぶ世界は時魔法による封印がかけられていたのだ。

私を守ってくれた為に母上まで呪いにかかってしまった。

私も呪いにかかっていたが、神々の加護により無事だったようだ。


漆黒骸骨や黒皇帝ダークエンペラーとの戦いでも呪縛から解放されており、学園に入学して少し経った頃には時魔法を習得していた。

これは神々の加護をぼんやりと思い出した事で、少しずつ使えるようになったみたいだ。


それを使って未来の情報を取得し、皆にフィードバックする事で強化していた。

フィードバックと言っても無意識の事で、例えば未来の動きを見て魔力の流れを無意識に調整しているといった感じだ。


……リュミドラも私が時魔法を使える事に気付いていたみたいで、母上の解呪の時に出してきたアイテムは殆ど効果の無い物だった。

今思い出すと、あの蜜で口を僅かに開かせた後は、全て私の力で解呪を行なっていた。

無事成功したから良かったものの、失敗したら超絶に落ち込んでいたぞ…。


恐らくあの頃は強化で頻繁に時魔法を使っていたから気付く事が出来たんだろう。


(そう言えば、リサとジュリには未来視による強化は殆ど効果が無かったんだよな…。)


それだけ動きが完成されていたんだろう。

ジュリは古代の魔法使いだからまだ納得出来るが、リサは……。


(私も大幅に強化出来たんだけどな…。やはりリサはチートだ…。)


その事だけで無く、リサは父や兄と戦うのも止めていた。

アレは父や兄を倒す事で、私の中に有るシェールの器が完成されていくのを予感していたのだろう。


私はその事を時魔法による予知夢で見ていたが、夢から覚めると殆ど忘れていた。

これは時魔法を完全に使いこなせていなかったからだ。


リサは私との魔力的な繋がりが強いので、知らぬ内にイメージが流れていたのだと思う。

昔から魔力調整をしていた事がこんな形で役立つとはな……。



…考えている間に、虫達の強化は終わったようだ。

最後の戦いはシェールの積み重ねて来た怨念が相手だ。

誤字脱字報告ありがとうございます。


もし面白ければブックマークや、

↓にある☆☆☆☆☆から、作品の評価をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ