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異界門

「ディノス様、完勝おめでとうございます。いつか私の懸念をお話しましたが、全くの杞憂だったようです。お恥ずかしい限りです。」


リサが祝福の言葉を述べてくれる。

あの言葉が無かったら、リサの懸念は当たっていただろう。

…本当に、いつもリサには世話になっている。


「いや、それもリサのお陰だ。本当に感謝している。」


「そう言って頂けるなら光栄で御座います。…しかし、あの者はおかしな事ばかり言っていましたね。ディノス様が邪神の使徒などと…。笑いを堪えるのが大変でした。」


…真面目な話をしていたんだが、リサは笑いを堪えていたのか……。

魔人の事も全く気にして無かったし、本当にブレない子だ…。


「本当だよね!ボクは侮辱されてるのかと思ったよ!」


アリスがぷんぷんと頬を膨らませている。

可愛すぎるのでつついてあげよう。


「あむ。」


…まさかの反撃で、指を咥えられてしまった。

…ドヤ顔してるのがまた可愛い。


「アリスばっかりずるいわよ!」


ティニーが怒っているし、じゃれ合うのもやめておこう。

怒っているというか、物欲しそうにしているが…見なかった事にしなければ。


「ティニー。飴あげる。」


「……ありがと!あの道化!アイツが諸悪の根源ね!ディノス!任せたわよ!」


少しだけ不服そうな顔をした後、飴を舐め始める。

…兄も道化と言っていたが、二人とも直感に従って生きるタイプだよな…。

その上、何となくで正解を引いてしまうのだから恐ろしい。


「ご主人様。…どうか、父上と母上を。」


「ああ。大丈夫だ。…もうすぐ儀式が始まる。そうしたら奴は身動きが取れなくなるはずだ。その時に解放しよう。」


ジュリを慰める。

わざわざ見逃した理由の半分はこれだ。

少しでも遅れると邪神に侵食されてしまう為、シビアなタイミングが要求されるだろう。


「…ご主人様は……。……いえ、お願いしますわぁ〜。」


何かを言おうとして、飲み込んだようだ。

……もうすぐ分かるよ。


「ディー!戦いを見れないでごめんね?でも、ちゃんと後で見るからね!?」


母上が悲しそうに声をかけてくる。

少し気になる事を言っているが…。


「後で…見る?」


「あ、ううん!話を聞かせて貰うって事よ!?皆からしっかり聞くわー!」


「……そうですか。」


質問したが、答えてはくれないようだ。

母上相手には強く出れないし、諦めるしか無いか…。


「エメルト達もついて来ると良い。恐らく見学だけになるが、最後の戦いくらい見たいだろう?」


別の場所に派遣するのも可哀想だし、そっちの方が良いだろう。

教会や孤児院には龍を飛ばしておこう。


「「「「「「はい!!!」」」」」」


「もちろんセバスもな。」


「…伝説の生き証人となれそうですな。」


セバスにはずっと世話になった。

長い間語り継いで欲しいものだ。


「…ディノス様、ご武運を。」


「トバスリー、気が付いたか。こちらは私達に任せてくれ。その代わり、ガイウス達の方を頼む。東進するにしても、根回しが有った方が良いからな。」


ガイウス達は他国の軍も蹴散らしてしまう可能性もある。

……改めて考えると、結構有り得そうだな。…命を奪わなければ大丈夫とか言いそうだ…。

…トバスリーが居てくれて良かった。


「…分かりました。小僧共の尻拭いなど趣味では有りませんが、新しき当主の御命令ですからな。」


やれやれと言った表情で頷いてくれた。

良かった。これでおかしな事にはならないだろう。


「それでは移動する。」


異界門へは行った事は無いが、大体の位置は知っている。

『魔力操作』でその場所の情報を手繰り寄せる。


(…大体分かった。これで転移出来るな。……しかし、大陸中が苦戦しているな。)


ついでに各地の戦況を調べてみた。

『魔力操作』の範囲を超えているが、兄との戦いでまた強くなった。

今なら何でも出来そうだ。


龍の配置されてない地は全て放棄され、主要な都市や各地に作った防壁を頼って戦っているようだ。

龍を宿した人間は無双の働きをしているが、それ以外の人間は限界に見える。


「各地が苦戦しているようだ。この際だから、大陸中に雨を降らせる。」


そう前置きし、聖句を唱える。


『星と龍よ、世界の敵と戦う者に力を』


暖かい雨だ。

体力も回復するし、何とか頑張って欲しい。


「行くぞ。」


唖然としているトバスリーを残し、皆で転移した。



「……あれか。」


森の一部が不自然に拓けている。

各地の部族とも戦ったというが、こんな所にも隕石を放っていたとはな…。


クレーターの中心が感知不能の闇になっている。

恐らくそこが門となっているのだろう。

現在はその上に巨大な魔法陣が浮かび上がり、虫達は外に出る事が出来なくなっているようだ。


その魔法陣にヴァイス…だったモノがうずくまっている。

邪神をその身に宿し始めているようで、体が数倍に膨らんでいる。


「今更来たところでェ!もう全てが遅いですよォ!邪神復活の儀は、誰にも止められませんんん!!」


ヴァイスから数Mの位置に移動し、相手を見下ろす位置に足場を作る。

この方が全体が見やすい。…天の衣は全員分作った方が良かったな。


ヴァイスの言う通り、魔法陣は強固な結界としても機能しているようだ。

少なくとも儀式を止める事は出来そうに無い。


(…タイミング的にはちょうど良いな。)


魂魄魔法を使い、ジュリの両親をヴァイスから引き離す。


「な、何をしたのですかァ!?何故、私の力が離れていくのですかァ!!」


目の前の光景が信じられないようで、ヴァイスが理解不能という顔をしている。

……どうやら、何をしたのか気付かなかったようだ。


…今回は魂魄魔法を気付かれないように使用したから当たり前か。

そのお陰で私にかかる負荷は少なかったし、どうやら成功だ。


ヴァイスを無視し、二人の魂をジュリの元へ送る。


「長い間囚われていたせいで魂が弱っている。少し力を注ぐから、二人を支えてあげてくれ。」


「…ご主人様ぁ♪ もう最高ですぅ〜!」


ジュリも喜んでいるし、私としても最高の結果だな。


力を注ぎ、二人の姿を薄らと実体化させる。

ご両親は自らの体を信じられないような顔で見た後、私に一礼してきた。


…天に召されるのは全てが終わってからで良いだろう。

暫くはジュリとの再会を喜んでいて欲しい。


「ふ……ふふふ……。これも、『純魔法』の効果と言う訳ですかァ!?魔法陣の網を掻い潜り、勇者達の魂を無理矢理引き剥がすとはねェ…!!これからシェールの人間は嫌なんですよォォ!!!ドイツもコイツも、理不尽過ぎるんですよォォ!!」


ヴァイスなりに結論を出したようだが、残念ながら外れだ。

……そろそろ、答え合わせをしてやろう。


「……父上、兄上。」


そう呟き、父と兄を呼び出す。

リサ達は事前に後ろに下がらせておいた。


「…………は?」


ヴァイスが間抜けな顔を晒している。


「そ、れは……?まさか……聖霊化……?……もしや、貴方は……神なのですかァ……?」


途切れ途切れにヴァイスが言葉を紡ぐ。

一目で聖霊化と見破ったのは流石だな。


聖霊化…それは、魂をこの世界に留まらせる秘術だ。

神々が絶大な功績を残した使徒に対して行うとされている。


生前の最も力の有る時の姿で現れ、以降は神の使いとして活動する。

…以前母上が実家に帰った時に驚かれたのはこの神の使いだと思われたからだ。


「神などでは無い。お前の魂魄魔法を使わせて貰っただけだ。」


父と兄は周りの状況を見て、大体今の状況を把握したようだ。

……取り敢えず、黙って様子を見ていてくれている。


「……神では無い?……それなのに、私の魔法を使ったのですかァ?…有り得ないですよォ!いくらシェールの人間とは言え、神の魔法が使える訳無いでしょォ!?…第一、どうして苦痛を覚えていないのですかァ!!あの魔法は使用時に痛みを伴うはずですよォ!!」


…まだそんな事を言っているのか。

結局、コイツは魂魄魔法について何も分かって無いんだな。


「お前は大きな勘違いをしている。魂魄魔法は邪神の魔法で有り、この世界では外法だ。まっとうに使う方法なぞ無い。私は世界の目から魔法の行使を秘匿し、『聖霊化』と言う、神々の秘法と同じ結果を出す事で最後まで隠し通した。全てを騙す事でしか、外法を使う事は出来ん。」


邪神はこの世界では決して認められない存在だ。

邪神の使う魔法も同様だ。

魔法を使用した時の痛みは、この世界から拒絶されているのが原因だ。


神の魔法が使えるのは、私が色々特別だからだ。

『魔力操作』が有るからこそ出来た事だがな。


「世界の目から、魔法の行使を秘匿する、ですかァ?……それじゃぁ、私はァ。」


「この世界では一生使う事が出来ないだろうな。」


そもそも、使えるようになるなら教える訳無いだろう。



…私の言葉に絶望し、ヴァイスはガックリと項垂れてしまった。

魔法の使用に並々ならぬ思いが有ったみたいだし、精々絶望していてくれ。


さて、最後の締めに行くか。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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